Over

 しばらくしたある日、パーティーが催されました。

 大きな会場に親戚、友人、知人、ただの顔見知りまで、およそ自分が知る限り全ての人が集まる立食パーティーでした。


 美味しい食事に年代物のウイスキー、そして気の合う仲間たち。それはそれは豪華で優雅な最高のパーティーでした。


 みんなと交わす会話がとても楽しくて、これ以上なく良い気分で宴も盛り上がっていたところ、その中の一人が切り出すのです。




「そういえばアンタ、別れたんだってね。全部アンタのせいよ。アンタがいけないのよ!」


 と僕のことを責めた。

 ざわつく会場の中で他の誰かが、


「そうだ、お前がいけないんだ!」


 するとまた誰かが、


「そうよ、あなたがいけないのよ!」


「そうだ、お前のせいだ!」


「そうだ、そうだ!」


 と、一人ひとり僕を非難しながら会場を去って行くのです。

 次々と人がいなくなっていく会場に、最後に一人残ったのは…、母親でした。



 最後に残った母親は、



「そうよ、あなたがいけないのよ。」



 と言葉を残し、去って行きました。






 誰もいなくなった大きな会場の真ん中に一人残った僕はその場で泣き崩れました。

 大きな大きな声を上げて泣きました。

 子供の頃でも出さなかったくらいの大きな泣き声で。




 その大きな泣き声で目を覚ましました。


 実際に夜中、布団の中で大きな声を上げて泣いていたのです。


 自分の泣き声で目を覚ます。まさに悪夢。




 暗闇の真っ只中でした。








 でもね。


 人は悲しいくらい、忘れていく生き物です。

 愛される喜びも、寂しい過去も、時が経てば忘れてしまうのです。

 時間がなにもかも洗い去ってくれるのです。


 思い出としては残るけど、その時のリアルな気持ちは忘れてしまっています。

 その証拠に、今、このことを話してても大声では泣けません。




 だからこそ、今を生きることができ、


 だからこそ、未来を夢見ることができるのだと思います。



 将来の自分はどんな人間になってるんだろう。

 年老いた自分が今の僕を見たらなんて言うんだろう。

 これから来る未来はどんな世界なんだろう。





 希望を託して、歌います。



「くるみ」



 ええ、聴いてください。



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