第19話 ホラーとエロはセットです
「ふぅ、ごちそうさまでした」
「ごちそうさん」
「で、どう? 美味しかった?」
「……ああ。少なくともカップ麺よりかは断然な」
悔しいが、水嶋が作ってくれたカルボナーラの味はなかなかのモンだった。
食材はウチの冷蔵庫にあったごく普通のものだし、調理手順だって複雑なことはなにもしていなかったのだが……これが水嶋の料理の腕ということか。
容姿端麗で文武両道でゲームも上手い上に家庭的だと?
もう逆に何ならできないんだ、この女は。
「なら良かった。やっぱり一緒に作って良かったでしょ?」
「一緒っていうか、俺はパスタを茹でただけだけどな」
さて、昼飯も食ったし、この後はどうすっかな。
特にやることも思いつかないし、このままお開きになってくれるのが俺としては一番ありがたいのだが……。
「よし。じゃあ片付けが終わったら、一緒に映画見ようか」
俺の考えを見透かしたかのように、水嶋がそう提案してきた。どうやら本当に今日一日、俺の家に居座るハラらしい。
まさか、このまま一泊していくつもりだなんて、さすがにそんなことまでは言い出さないよな?
とはいえ、映画鑑賞というのは悪くない。見ている間は余計な会話をする必要もないし、一本見るだけでも2時間近くは潰せるしな。
「オーケー、わかった。ならそこのテレビで……」
と言いかけたところで、水嶋がフルフルと首を振った。
「颯太の部屋にもあるんでしょ? テレビ」
…………はい?
※ ※ ※ ※
「おー、ここが颯太の部屋かぁ」
「いいか、あんまりあちこち触るなよ。勝手に引き出しとかクローゼットとか開けるのも禁止だからな」
「へぇ、結構キレイにしてるじゃん。ちょっと意外だなぁ」
「おい聞けや」
なかば有無を言わせず自室へと入る水嶋に、俺はため息交じりに釘を刺す。
別に見られて困るものなどは大して無いのだが、それでも俺は、あまり他人に自分のプライベートな空間に入ってきて欲しくはない性質なのだ。
だから今までこの部屋に来たのは、小学生のころからの付き合いがある樋口くらいのものだ。ましてや女の子なんて、彼女だった江奈ちゃんでさえ来たことはない。
なのに、まさかこんな形で俺の「初めて」を
「ふふ、颯太の匂いだらけだ」
「気色悪いこと言うな。俺の部屋なんだから当たり前だろ」
ソファーにドッカリ腰を下ろし、俺は部屋のテレビの電源を入れて登録しているVODを起動する。
「ほら、映画観るんだろ? 余計なことしてないでさっさと座れ。そして動くな」
「はいはい」
肩を竦めて頷いた水嶋は、「なに見よっか~」などと言いながら、さも当たり前みたいな顔をして俺のすぐ隣に座り込んだ。
「……おい、もう少し離れろって。そんなにソファー狭くないだろ」
「も~、そんなに照れなくてもいいじゃん。恋人同士なんだから、これくらい普通でしょ?」
「照れてない。暑苦しいんだよ」
俺は水嶋から逃げるようにして横にズレるが、すかさず水嶋もピッタリと俺の横に密着してくる。どうやら離れる気はないようだ。
それ以上は文句を言うのも面倒だったので、俺はもう深く気にしないことにした。さっさと上映開始すれば気にもならなくなるだろう。
「で、何にするんだ?」
「そうだな~……あ、これとかどう? 『離婚をテーマにした大人のラブストーリー』だって」
「いわゆるドロドロ系の恋愛映画か。う~ん、この手のはあんまり興味ないんだよな」
「そっかぁ。じゃあこれは? 『実話に基づいたハートフルなアニマルムービー』」
「却下。お前に泣き顔を見られるくらいなら俺は死を選ぶぜ」
「それ、こういう系に弱いって白状してるようなものじゃない?」
そんなこんなでお互いの好みなどを考慮しつつ色々と協議した結果、最終的には王道なパニックホラーを観ることに落ち着いた。
主人公とヒロインの二人が、謎のウイルスが蔓延したことでゾンビだらけになった世界を生き抜いていくという、まぁよくあるベタなゾンビ映画だ。
「いやぁ、実はゾンビ映画ってちゃんと見たことないんだよね。楽しみだなぁ」
「そうかい。まぁ、俺もそこまで齧ってるわけじゃないけどな」
「そうだ! 雰囲気出すためにさ、カーテン閉めて電気も消そうよ。『お家シアター』みたいな」
へいへい、もう好きにしてくれ。
俺は投げやりに
※ ※ ※ ※
《くそっ! くそっ! 冗談じゃねぇぜ、この化け物どもが!》
《エドガー待て! そっちは……!》
《う、うわぁぁぁ!? なんだこりゃ!? く、来るなぁぁぁぁ!》
《エドガー!!》
そうして始まったゾンビ映画は、展開こそ王道なものの迫力のあるCGや俳優たちの熱演もあって、序盤からなかなか見られたものだった。
映画が始まってからは水嶋もすっかり大人しくなって、時折「わっ」とか「おー」とか声をあげるだけだ。
俺にしても随分と作品の世界に入りこんでしまい、いつのまにか水嶋が俺の腕に抱き着いていたのも気にならないほどだった。
う~ん、かなり適当に選んだ一作だったけど、これはなかなかアタリを引いたかもしれないな。
《ねぇ、ディック。私たち……これからどうなっちゃうのかしら》
《わからない。でも、諦めちゃダメだ。必ず二人で、生きてこの町から脱出しよう》
《ディック……》
《サラ……》
しかし、物語も中盤に差し掛かったころ。この手の映画にはお約束の、いわゆる「濡れ場」のシーンに差し掛かったところで、俺の意識は急激に現実へと引き戻されてしまった。
こういうシーンは一人で見る分には何も問題はないのだが……宿敵とはいえ、隣に同年代の女子がいる状態で見るというのは、なんだかひどく居たたまれない。
いや、別に意識してるとかそういうことは、うん、ないんだけどもね?
なんて、俺が若干の気まずさを感じながらも鑑賞を続けていると、いよいよ主人公たちが一つのベッドに倒れ込んだ辺りで、水嶋が出し抜けに呟いた。
「……颯太ならさ、どうする?」
「え?」
隣を向くと、水嶋はいつの間にか映画ではなく俺の顔をじっと見上げていた。
暗い部屋の中、テレビ画面からの煌々とした明かりだけが、水嶋の顔をぼんやりと照らし出している。
「世界がめちゃくちゃになっちゃって、いまこの町には私たち二人しかいなくてさ」
言いつつ、水嶋が細く綺麗な指を俺の指に絡めてくる。
「み、水嶋……?」
「周りは敵だらけで、絶体絶命なんだけど……だからこそ、二人の間に芽生えた色んなものが、より強くなる。信頼とか、絆とか……愛とか」
囁くようにそう言いながら、いよいよ水嶋はソファーの上に上がり、俺の上に覆いかぶさるように寄りかかってくる。
必然的に、俺はソファーの上に仰向けに倒れ込むような格好になってしまう。
「そういう状況で、さ。もし私が、こんな風に颯太に迫ったら……」
水嶋の瞳は、いつか学校の階段の踊り場で俺ににじり寄ってきた時と同じ、あのエモノを追い詰める獣のような眼光を宿していた。
「ねぇ──どうする?」
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