第37話 褒章狩人

「フエルが襲われた?」



「う、うん……そうなんだ」



 その夜、ダンスパーティーは無事に終わり生徒たちは宿舎へと案内されたのだが、傷を負ったアリウスとフエルに呼ばれ、俺たちは談話室で一堂に会することになった。



 俺とヴェルとローディ、ハルクにシオン、呼ばれたメンバーはアリウスたちを含めても皆が星褒章スターバッジを獲得している者たちだ。

 内訳は俺が金銀銅を1つずつ、ヴェルが金2つに銀1つ、ローディは金と銀を1つずつ、フエルは金1つ。

 アリウスは金と銀を1つ、ハルクは銀2つ、シオンは金1つに銀2つだ。



「それで……アンタらが襲われたらどうして私に関係があるのよ」



「まぁ順を追って話すから聞け。今日フエルを襲ったのはブラッククラスの2年、最近ウワサになっている褒章狩人バッジハンターという連中だ」



褒章狩人バッジハンター? 聞いたことないですね」



 俺も初耳だ、しかし名前を聞いただけでも物騒な気配がする。



「やつらは星褒章スターバッジの所有者に目をつけ、暴力でもって強引に奪っていく。学園のルールにおいては当事者間の合意の上で書類を残し、立会人のもとで決闘するのであれば星褒章スターバッジは賭けてもいいことになってはいるが……連中のやっていることはルールを逸脱している」



「何なんだそれは! 見過ごせん不届き者だな!」



 ハルクが憤慨する、星褒章スターバッジは学生にとって将来をも左右する非常に大事なもの。

 それを脅迫や暴力で奪っていくとは確かに見過ごせないやつらだ。

 何よりフエル―友達を傷つけた連中は許せない。



「なるほど……で、アンタが言いたいのは私たちもいずれ狙われるから気をつけろってこと?」



「察しが良くて助かるな。だが今回は連中から情報をある程度聞き出すことができた、忠告に留まらず共有もしておこうと思っている」



 アリウスが腕と足を組んで話しだす。



「やつらのリーダーは黄泉の番犬ブラックケルベロスの2年、シルバ・ザンクアリというやつだ。そいつを筆頭に何人かの部下がブラッククラスに所属している。聞けば1年をカモとして褒章バッジ狩りをしているらしい。隙を突かれないように精々普段から気をつけておくことだな、近づいてくるやつの誰が連中の手のものか分からない」



「そして連中はこうも名乗っているそうだ。褒章狩人集団バッジハンティングクルー"ゲリュオン"」



 楽しいイベントの後、急激な落差を覚えた皆は深刻そうに考えている。

 無理もないだろう、今後の学園生活で急な襲撃に常に気をつけておかないといけないというのだから平静でいられる方が特殊なのだ。



「つまり今の話は星褒章スターバッジを狙って襲ってくる輩を追い払えばいい、ということだな?」



「………………まぁ、そういうことになるな」



 ヴェルが端的に言い放つ、いや確かにその通りなのだが。

 アリウスが返事したあとは一瞬沈黙が流れた。



「それなら心配ないさ、次からは私たちもフエルを守る。それに皆なら負けることはないだろう」



「ふっ……そうね、そりゃそうだわ。あーあ、何か深刻に考えてソンしちゃった。襲ってくるやつらなんて全員燃やしゃいいのよ」



「確かにその通りだな。ゴチャゴチャ考えるのは性に合わん、そんな不届き者は俺がぶちのめしてやる!」



 シオンとハルクもヴェルの言葉を聞くと何か納得したように、場の空気が一気に弛緩した。

 それを見たアリウスは僅かばかり呆気にとられていたが直ぐに向き直る。



「ふん、まぁそれならばいいだろう。お前たちの心配を一瞬でもした俺が間違っていたようだ」



(いやいや! この人たちがおかしいだけだよアリウス君!)



(絶対にヴェルたちのこの反応は普通じゃないですって!)



 フエルとローディは心中でツッコむが、同時に彼らへの頼もしさを感じていたのも確かだった。



「んで? 私たちへの話は終わり?」



「いや、もう1つ」



 アリウスからもう1つの話があると聞いて全員身構える。

 だが彼は懐に手を入れ……。



「トランプ持ってきたんだが、やるか?」



 ケースに入ったトランプを取り出した。



(アリウス君めちゃくちゃ遊ぶ気だーっっ!!)



「とりあえず親睦を深めるにはゲームに限る。妹も言っていたぞ」



「あーあー、とりあえず妹の話はわかったぞアリウス・ハイランド。やるなら早くやろうじゃないか」



 アリウスの話を遮るハルク、アリウスの妹の話にをよほど嫌がっているらしい。



「何やるの?」



「まずはババ抜き、そう相場は決まっている」



(相場なんてあるのかな……?)



 話がトントン拍子で進んでいるところにシオンが口を挟む。



「私やるなんて言ってないわよ、そもそも何で私がアンタらみたいなのと一緒に……」



「何だ、もしかして負けるのを恐れているのか?」



「はぁぁ!? んなわけないでしょ! やるわよ、やるに決まってるでしょ」



 ヴェルの煽りであっさりと参加することになったシオン、そもそも皆と遊ぶこと自体は別に嫌じゃないんだろうが一々ああいう発言をしてしまうから友達がいないのだろうか。

 もっと素直になればいいのに、と俺は考えてしまった。



「あ、それじゃあ私飲み物取ってきますね」



「俺も行くよローディ」



 思ったより騒がしい夜になりそうである。






________






「ったく、何をしてやがんだコイツは。相手は1年生だぞ!? こんなことをリーダーに知られたらどうなるか分かってんのかクソ」



 気を失っているワースの顔を蹴り飛ばす男子生徒が1人、その黒髪の眉なし男が悪態をつく。

 その周りには2人ほどの人影があった。



「まぁそれくらいにしときなよバドー。どの道僕らでターゲット全員分の褒章バッジを奪えばいい」



 深緑色のくせ毛を持つ男子生徒がバドーという眉なしの男を諌める。



「だが確実にターゲットから奪わなければ俺たちが危ないのも確かだ、バドーの焦りも分からないではない。ぬかるなよティミド、ターゲットのリストを出せ」



「はいはいっと。こんな連中僕一人でもやれそうなもんだけどなぁ」



 180cmはあろうかという大男はティミドから渡されたターゲットリストを眺める。



「俺はこのハルク・レオギルスとかいうやつを狙う。手持ちは銀のみだが、俺と相性がいい。簡単に潰せそうだ」



「似たようなのを選ぶんだねぇクロッグ。じゃあ僕はこの女の子狙おうかな。バドーはどうすんの?」



「俺はコイツをやる」



 バドーが指差した先の名前、それは……。



「んー? あぁ最近評判になってる平民のね、パッパと片付けちゃおうよ」



「コイツの周りにはターゲットの内ヴェルエリーゼ・セルシウス、ローディ・アレンシア、フエル・ウィンドルスがほぼ確実にいる。まとめて奪ってくる算段だ。明日の昼時、合宿の解散後にでも襲えばいい」






________







「ほら、アンタの番よ」



 俺は皆とババ抜きをして遊んでいたが、最後の2人となりシオンから引く番となった。



(これか……?)



 俺がカードに手をかけるとシオンの肩がビクッと揺れ、目がカードを凝視している。



(分かりやすっ!)



 まぁ間違いなくこれを引けば勝てる、一応わざとジョーカーを引いて長引かせるなんてことも頭に浮かんだがやめておいた。



「……こ、この負けはたまたまよ。勝負はいつだって勝敗が読めな……って聞け!」



「次はとりあえずダウトでもするか」



「あぁ」



 こうして俺たちは夜遅くまでトランプゲームをしながら親睦を深めたのだった。

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