第34話一騎打ち


 巨大なドラゴン“古代竜エンシェント・ドラゴン”アバロン討伐戦は、佳境へ突入。

 召喚された火蜥蜴サラマンダーによって、ダラク街と戦火に晒されてしまう。


 ◇


 そんな中、ボクはアバロンと対峙する。

 場所は街からは離れた広大な草原。


 目の前の巨大な古代竜エンシェント・ドラゴンアバロンがいた。


「ふう、ここなら……」


 ボクは腰から剣を抜く。

 剣先をアバロに向ける。


「ここなら“少しくらい全力”を出しても大丈夫そうですね、ボクも!」


 未熟なボクは今までは、市街地では攻撃魔法は控えていた。

 ザムスさんたちのアドバイスあったから。


 でも今は違う。

 前に広がるは広大な平原。

 未熟なボクが失敗しても、ここなら大丈夫なのだ。


『ギャァアア!』


 起き上がった古代竜エンシェント・ドラゴンアバロンが咆哮する。

 凄まじい圧力だ。

 近距離なら普通の者は、気絶してしまうだろう。


「ふう……家族に怒られるのも比べたら、へっちゃらだ!」


 我が家の皆は、怒ると本当に怖い。

 だからボクは耐性があるのだ。


『ガァラァー!』


 アバロンが口を大きく開ける。

 火炎吐ブレスを吐き出そうとしているのだ。


「それなら……【完全耐火エクス・ヒート】!」


 即座に耐火の防御魔法を展開。


 ゴォオオオオオオオ!


 直後、地獄の業火のような炎が、襲ってくる。


「ふう……その攻撃は通じないよ、ボクには」


 ボクは無傷だった。

 対象を狭くした耐火の魔法で、完全に防御したのだ。


「この【完全耐火エクス・ヒート】を破りたかったら、兄さんクラスの爆炎を放たないと破れないよ!」


 ボクの防御魔法は未熟。

 だからラインハルト兄さんの攻撃魔法には、敵わない。


 恐らくアバロンは火炎吐ブレスを、あまり得意じゃないのだろう。

 本命の攻撃は別にあるはずだ。


『ギャラァアアアア!』


 アバロンが咆哮して、飛び立とうする。

 上空から一方的に、ボクをいたぶるつもりなのだろう。


「させないよ! 【極大風乱舞エクス・ストーム!】!」


 風の攻撃魔法を発動。

 アバロンの大きな羽にぶつける。


 ビューン、グルルッルル! ブワァーーーン!


 見事に命中。

 刃は巨大な竜巻になり、アバロンの羽をズタズタに切り裂いていく。

 地上に落とす。


 だが本体にはダメージはあまりない。

 強化された竜鱗が、固すぎるのだ。


『ギャラァアアアアア!』


 ダメージ受けて、アバロンは更に吠える。

 竜魔法を詠唱して、羽の傷を回復させようとする。


「させないよ! シーリング流剣術……【疾風飛燕しっぷうひえん斬り】!」


 我が家に代々伝わる“シーリング流剣術”。

 最速の攻撃スキルを発動。


 詠唱しているアバロンの口に、斬りかかっていく。


 ザッ、シュバァアア!


 見事に命中。

 竜魔法の詠唱を阻止する。


『ガァアアア!』


 魔法を防がれて、アバロンは激怒する。

 回復を止めて、攻撃の体勢に移る。

 全身から炎が立ち上がり、灼熱色に染まっていく。


「くっ⁉ ものすごい熱量だ……」


完全耐火エクス・ヒート】で熱攻撃は、完全に防げている。

 それでもアバロンから噴き出す炎は、熱く感じる。


「竜魔法じゃない……これがアバロン自身の力なのか⁉」


 凄まじい圧力だ。

 流石は大陸に六匹しかいない、古代竜エンシェント・ドラゴンの一体。


 今までボクが対峙した魔物の中で、ダントツに強力な魔力だ。


「でも、ボクは負ける訳にいかない……ダラクの皆を守るためにも!」


 ボクの後方のダラクの街では、今まさに激戦が繰り広げられている。

 無数の火蜥蜴サラマンダーと、ダラク精鋭部隊が戦っているのだ。


 今のところ死者は出ていないが、かなりギリギリの戦況。

 みんなは即死をしないように戦い、マリアが女神降臨の力で支援している。


 でもアバロンの動きを、ここで封じ込めておかないと、形勢は一気に傾く。

 ダラクの街は古代竜エンシェント・ドラゴンアバロンと、火蜥蜴サラマンダーの群れによって、焦土を化してしまうだろう。


「だからボクは負けない! みんなが火蜥蜴サラマンダーを倒して、こっちに駆け付けるまで、踏ん張るんだ!」


 未熟なボクに出来るのは、アバロンの足止めぐらい。

 おそらくこの古代竜エンシェント・ドラゴンは、まだ本気を出していないのだろう。


 これから更に何段階も、パワーアップしていくはず。

 ボクはいつまで耐えられるか分からない。


「ふう……いくぞ、アバロン!」


 でもボクは退く訳にいかない。

 お世話になったダラクの街を、守るため。


 一人前の冒険者になるために、格上の相手に挑むのだ。


「いくぞ……はぁああ!」


 アバロンに向かって斬り込んでいく。


「シーリング流剣術……【疾風飛燕しっぷうひえん斬り・乱舞】!」


 接近戦用の剣技を発動。


 ザッ、シュバァアア! シュバァアア! シュバァアア! シュバァアア!


 アバロンの巨大な胴体を、連撃で斬りつける。


『グァアアア! グギャァアアアアアア!』


 ダメージを受けて、アバロンは吠える。

 直後、巨大な尻尾で反撃してくる。


 くっ、これは危ない。

 剣では受け止められない。


「いくぞ……【縮歩しゅくほ】!」


 シーリング剣術の移動系の技を発動。

 後方に一気に退避していく。


 ドッ、ガァーーーーン!


 間一髪、アバロンの尻尾攻撃を回避。

 ボクが先ほどまでいた場所は、大きなクレーターになっていた。


「ふう……やっぱり直接攻撃は危険だな。しかもボクの未熟な剣術では、あまりダメージが与えられていないな」


 先ほどの【疾風飛燕しっぷうひえん斬り・乱舞】は胴体に直撃させた。

 だが強化された竜鱗によって、かなり防がれている。


「しかも剣が、これじゃマズイな……」


 右手の片手剣に、視線を向ける。


 既に刃が欠けて、ボロボロになりかけていた。

 強化された竜鱗が固すぎて、剣の耐久性が持たなかったのだ。


「くそっ……こんなことになるんなら、家から“剣”を持ってくればよかった」


 実家には自分専用の剣がある。

 誕生日に家族から貰った剣だ。


 あまり高くはないみたいだけど、切れ味はそこそこ。

 でも家出してきたので、自分用の装備は全部部屋に置いてきたのだ。


「剣が駄目なら攻撃魔法の強度を、もう少しあげてみるか? いや……でもアバロンには通じなそうだな」


 古代竜エンシェント・ドラゴンは対魔法防御が異様に高い。

 先ほどの【極大風乱舞エクス・ストーム!】が通じたもの、まぐれに近い奇跡。


 違う魔法で攻撃しても、おそらくはダメージを与えられないだろう。

 ボクは攻撃魔法、回復魔法。魔道具作り、など全てにおいて器用貧乏なのだ。


「よし、それなら。最近の自分の中で、一番自身がある剣技で……この剣で勝負を決めよう!」


 ボクが剣技を好きなのには、理由がある。


 ――――なぜなら冒険王も剣を使っていたからだ!


「いくぞ!」


 覚悟は決まった。


 剣先をアバロンに向ける。

 意識を集中して、魔力と気合を高めていく。


『ギャァアアアアアアアア……』


 一方でアバロンも魔力を高めている。

 竜魔法を無詠唱で発動させ、自身の防御力と攻撃力を強化。


 ボクに向かって、突撃の姿勢をとっている。


 ――――互いの両者の武は高まった。


「いくぞぉお!」


 先に動いたのはボクの方。

 アバロンに向かって突撃していく。


 狙うは竜の急所。

 胴体の中心部。

 反撃を受けやすい危険な場所だが、今は構わない。


 一気に踏み込んでいく。


「いくぞぉおお! シーリング流剣術……【疾風飛燕しっぷうひえん斬り・乱舞】!」


 剣術を発動。

 そのままアバロンの急所を斬りつける。


 ズシャ!


 よし!

 命中できた。


 このまま一気に斬り抜いていけば、なんとかダメージを与えられるぞ。


 ――――だが、その時だった。


 ボギッ!


 あっ……。

 剣が鈍い音を放つ。


 なんと剣が根元から、折れてしまったのだ。


『ギャァラァアアアア!』


 その隙をアバロンは見逃さない。

 鋭い爪で、無防備なボクを強襲してくる。


 回避しないと!


 ――――そう思った時だった。


 誰かの声……女性の声が聞こえる。


「……ハリト!」


 えっ、この声は⁉


 そう思った直後、声の方向から光は飛んでくる。


 いや……あれは光ではない。

“一本の剣”だ。


 しかも見覚えのある剣。

 実家に置いてきたはずの、ボクの愛剣だ。


 剣は閃光のように、ボクの所に飛来してくる。


「どうして、愛剣が⁉ しかも、さっきの声は⁉ いや、今はアレを使うしかない!」


 ビューン! カチャ。


 飛来してきた愛剣をキャッチ。

 そのまま剣を構える。


『ギャァラァアアアア!』


 直後、アバロンの鋭い竜爪が、目の前に迫る。

 絶体絶命の危機。


 迷っている暇はない。


「いくぞ……シーリング流剣術……【疾風飛燕しっぷうひえん斬り・絶】!」


 自分の中で最高位の剣技を発動。

 竜爪に斬撃を加える。


 ズッ、シャーン。


 なんとか竜爪を迎撃。

 だが勝負はこれからだ。


 危険なアバロンは、まだ目の前にいる。

 何とか反撃の糸口を見つけないと。


 ――――その時だった。


 アバロンの様子がおかしい。

 ピクリとも動かないのだ。


 ――――そして次の瞬間。


 ズッ、シャーーーーーーーーーーーン!


 アバロンの身体は一刀両断。

 真っ二つに割れていく。


 ドッ、スーーーン!


 そのまま両側の地面に、轟音を立てて倒れていった。


「ん? え?」


 いったい何が起きたのだろうか?

 ボクが竜爪を迎撃した直後、なぜかアバロンは斬られていたのだ。


 えっ、古代竜エンシェント・ドラゴンのアバロン、本当に死んだの?


 シャァーーーン


 死亡した魔物は粒子となり、大地に消える。

 巨大なアバロンの死骸も、ゆっくりと粒子になっていく。


「アバロンが本当に消えていく……あっ、火蜥蜴サラマンダーも……?」


 ダラクで暴れていた火蜥蜴サラマンダーの反応も、探知上で消滅していく。


 召喚主であるアバロンが消滅したため、火蜥蜴サラマンダーも精霊界に消えていくのだ。


「えっ……終わり? これで終わったの?」


 こうして“古代竜エンシェント・ドラゴン”アバロン討伐戦は、無事に完了するのであった。














 ◇





 読んで頂きありがとうございます。


 アバロン討伐戦、無事に完了!



 ◇


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