第31話対竜戦

 家出したボクは都市国家ダラクで、憧れの冒険者のなることが出来た。

 だがある朝、突然、皆既日食に似た奇妙な現象が起きる。


 巨大なドラゴン、“北の覇者”“古代竜エンシェント・ドラゴン”アバロンが、街に迫ってきたのだ。


 ◇


 巨大な空飛ぶ竜が、遠くに見えてきた。


 ザワザワ……ザワザワ……

 集まったダラク精鋭部隊に、動揺が走る。


 何故ならは“北の覇者”アバロンは、大陸に六匹しかいない “古代竜エンシェント・ドラゴン”の一匹。


 ダラク地方の北部を縄張りしている、危険な魔物なのだ。


 あの魔物おかげでダラクは、北の肥沃な土地を開墾できずにいた歴史がある。


 ……「くそっ……アイツのせいで、うちの親父は……」


 ……「アバロンの野郎のせいで、うちの実家は……」


 ダラク市民は何度も、北の肥沃な地帯を、農地として開墾しようとしていた。

 だが開拓の村は何度も、あの危険な竜によって襲撃を受け、全滅していたのだ。


 ダラク市民にとってアバロンは“邪竜”。

 憎しみと憎悪の対象でしかないのだ。


 引っ越してきたばかりのボクは、初めて目にする。

 もう少し情報が欲しい。


「ゼオンさん。あのアバロンは今まで、ダラクの街を襲ってきたことはないんですか?」


「何でも昔は頻繁に襲いに来ていたらしい。だが五十年間前に、初代勇者様がアバロンを半殺しにしたらしい。それ以降は無くなった」


「なるほど。そうだったんですね」


 その邪悪な古代竜エンシェント・ドラゴンが、五十年ぶりに飛来してきたのだ。


 ――――そんな時、城壁の上のダラク国王が、声を上げる。


「皆の者、これは好機だ! 北の険しい火炎山脈にいるアバロンが、わざわざ出向いてくるのだ! 今こそ奴を成敗して、先人たちの仇を討つのだ!」


「「「おぉおおお!」」」


 王様の鼓舞に、精鋭部隊たちは雄叫びを上げる。

 アバロンに怯んでいる者は、誰もいない。


 そして王様は部下たちに指示を出す。


「よし、“飛行の魔物用の陣形”で迎え撃つぞ! 騎士団、出撃するぞ!」


「「「おぉお!」」」


 王様は自ら馬に乗り込み、北の城門から草原に出陣していく。

 その背後には、完全武装のダラク騎馬隊が付き添う。


 そんな光景を、ボクは城壁の上から見守る。

 でも少しだけ不安だ。


「ゼオンさん、相手は空を飛んでいますが、騎兵で大丈夫なんです?」


「ああ、大丈夫だ。陛下たち騎馬隊は、ああやって、相手を陽動する作戦だ!」


 なるほど、そういうことか。

 たしかに相手は空を飛べるが、巨体ゆえに小回りが利かない。


 今、王様たち騎馬隊は複数の部隊に別れて、不規則に草原を駆けている。

 上空のアバロンは中々、目標を定められていない。


 そのタイミングを狙い、守備隊長ハンスさんが声を上げる。


「長弓隊、今だ、てぇえ!」


 ヒュン! ヒュン!  ヒュン! ヒュン! ヒュン! 


 城壁の上のダラク守備隊が、一定に矢を放つ。

 宮廷魔術師隊の強化魔法も受けて、矢の雨はアバロンに襲いかかる。


 グシャ! カキン! グシャ! カキン! グシャ! カキン! 


 魔法によって威力が強化された矢は、アバロンに突きさっていく。

 だが距離が遠いため、かなりの数が鱗に弾かれてしまう。


『グァアアア!』


 ダメージを受けて、アバロンは吠える。

 城壁の上の長弓部隊に、目標を変更。


 急降下しながら、口を大きく開ける。

 あれは“火炎吐ブレス”がくるのか⁉


 そのタイミングに、神官戦士団長が声を上げる。


火炎吐ブレスが来るぞ! 【耐火】の魔法の発動だ!」


「「「はい!」」」


 神官長の号令に従い、神官戦士団は防御系の聖魔法を発動。


 シャーーン!


 長弓隊の身体と、脇に控えていた大盾隊。

 両部隊の身体が明るく光る。


『ガァラァ!』


 直後、アバロンは火炎吐ブレスを吐き出す。


 ゴォオオオオオオオ!


 大盾隊は弓矢隊をガードする。

 地獄の業火のような炎が、城壁の兵士たちを襲う。


 だが彼らは何とか無事だった。

 ほとんど火傷を負っていない。


 防火の魔法と、大盾隊で火炎吐ブレスを防げたのだ。


 その隙を精鋭部隊は見逃さない。


「長弓隊、今だ、てぇえ!」


 ヒュン! ヒュン!  ヒュン! ヒュン! ヒュン! 


 ダラク守備隊が、一定に矢を放つ。

 宮廷魔術師隊の強化も受けて、一直線に矢の雨はアバロンに襲いかかる。


 グシャ!  グシャ! グシャ! カキン! 


 強化された矢は、アバロンに突きさっていく。

 今度は距離が近いため、かなりの数が鱗を貫通していた。


「魔術師隊、放て!」


 同時にカテランさん率いる宮廷魔術隊も、攻撃魔法を発動。


 ヒューン、ドッゴン! ザツゴーン! ズャーーン!


 無数の攻撃魔法が、アバロンに直撃。

 巨大な竜の羽を傷つけていく。


『ギャアアルルルァア!』


 アバロンは悲痛な声を上げて、上空に上昇していく。

 弓と魔法が届かない圏外まで、逃げていったのだ。


 そんな光景を見つめながら、ボクは思わず声を上げる。


「おお、凄い! 凄いですね、ゼオンさん! ダラク精鋭部隊は、あの古代竜エンシェント・ドラゴンを相手に、押し込んでいいますよ!」


 隣にいたゼオンさんに、興奮を伝える。

 見事な戦術と連携で、ダラク精鋭部隊は戦っているのだ。


「まぁな。オレたちは数年間、毎月のクソッたれな《満月の襲撃》を乗り越えてきたからな。対魔物の練度だけは高い」


「なるほど。そうですね!」


 ダラクの街は数年前から、魔物に常に狙われていた。

 そのため守備隊と騎士団、神官戦士団、宮廷魔術隊の戦闘経験が高いのだ。


 ゼオンさんの説明が続く。


「たしかに飛空系の魔物は厄介。だが弱点も多く、戦い方しだいなのさ」


《満月の襲撃》には、飛行系の魔物の多い時もある。

 そのため飛行の魔物用の戦術が、全員に身に付いているのだ。


 今回のように、まずは騎馬隊が高速で、変則的な移動で相手をかく乱。

 相手の隙を見つけて、強化された長弓隊で牽制。


 興奮した相手が高度を下げて来た時に、聖魔法で防御。

 同時に本命の長弓と攻撃魔法で、飛行の要である羽にダメージを与えていく。


 これを繰り返していき、地上に引きずり降ろす。

 最後は騎士の波状突撃で、止めを刺していく戦術だという。


「凄いです! これなら勝てそうですね、ゼオンさん!」


 戦術に関しては素人だが、ボクでも分かる。

 ダラク軍は戦術という英知で、危険な古代竜エンシェント・ドラゴンを手玉にとっているのだ。


「まぁ、このまますんなり進んだら、勝てるんだがな。相手も普通の魔物じゃないからな」


「えっ? 普通の魔物じゃない……あっ⁉」


 その時だった。

 上空のアバロンから、強い魔力を感じる。


 シャアーーーン!


 アバロンの巨体が赤く光り出す。


 次の瞬間、全身の傷が徐々に塞がっていく。

 ボロボロだった羽も、完全に修復されてしまう。


「えっ⁉ か、回復魔法を使えるんですか、アイツは⁉」


「ああ、そうだ。竜魔法というらしい。しかも、アイツは強化魔法も使える。ほら、見ていろ、アレだ!」


「えっ? あっ……」


 アバロンはまた竜魔法を発動。


 ギュイーーン!


 全身の灼熱色に染まり、攻撃力と防御力が強化されていく。

 見ているだけ分かる、危険なパワーアップだ。


『ギャァアアアアアアアア!』


 そしてアバロンは咆哮を上げる!

 先ほどの何倍もの叫び声だ。


「「「うっ……」」」


 地上の精鋭部隊の中に、思わずしり込みしてしまう者も出てしまう。

 精神を怯えさてしまう効果もあるのだ。


「そ、そんな……まだパワーアップしていくのか、アバロンは……⁉」


 ボクは思わず声を漏らしてしまう。


 こうして悲痛な第二ラウンドが、幕を開けるのであった。



















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