第29話迫りつつある危機
ミカエル王国の女騎士ララエルさんと、まさかの再会をする。
「ハメルーン城の者に伝えてくれないか! ミカエル国王が、この国に向かって出兵していると! ミスリル武具の恐ろしい騎士団が、この国を滅ぼそうとしているのだ!」
だがララエルさんの口から出てきた言葉は、まさかの内容。
かなり突拍子もない話だった。
「どうしました、ハルク様?」
騒ぎを聞きつけて王女マリエルが、ボクたちの所までやってくる。
「姫様、お下がりください!」
「その女は敵国ミカエル王国の間者かもしれません!」
先ほどのララエルさんの言葉を聞いて、門番たちも殺気だっていた。
大国ミカエルと隣国のハメルーンは、ここ数年間、緊張状態にある。
特に経済制裁を受けて、ハメルーンの国は困窮しているのだ。
「ハルク様、本当ですか? その者は敵国の間者なのですか?」
「うーん、間者かどうかは分からないけど、このララエルさんは信用できる人だよ。幼い時からボクのことを、庇ってくれたから」
「幼い時のハルク様を⁉ 分かりました、番兵、その者を城の中に案内しなさい!」
ボクの話を聞いて、マリエルの顔が真剣になる。
初めて見るマリエルの“王女として顔”だ。
「ですが姫様⁉」
「ここにいるハルク様は私の命の恩人であり、大事な人であります。そのハルク様が信用しているララエル殿を、私も信じております!」
「「はっ!」」
王女モードのマリエルの命令に、番兵たちも態度を変える。
案内の兵士を準備させていた。
「部下が失礼しました、ハルク様」
「ボクは大丈夫だったよ。それにしてもカッコよかったね、マリエル」
「そ、そんな……恥ずかしいです」
急に顔を赤くして、いつものマリエルモードに戻る。
さっきのもカッコよかったけど、やっぱりこっちの方がマリエルらしい。
「あと、良かったら、ボクも同行してもいい? ララエルさんが一人だけだと、可愛そうだから」
「それなら私も!」
「ハルク様、サラ。はい、もちろんです。ではララエル殿と一緒に、城にいる父の所へ向かいましょう!」
こうしてララエルさんの正式な話を聞くために、ボクも一緒にハメルーン国王の元に向かうのであった。
◇
女騎士ララエルさんは、ハメルーン国主と面会。
彼女が追放された、ミカエル王都での経緯と情報を報告した。
「なんと……ついにミカエル王国が軍を動かしたのか。しかも無数のミスリル武具の騎士団で……」
報告を聞いてハメルーン国主は、深いため息をつく。
都市国家であるハメルーンの軍力は、それほど大きくない。
大国であるミカエル王国の騎士団と戦になったら、勝負にすらならないのだ。
「なるほど、ララエル殿の情報は分かった。だが何故、わざわざ危険を冒してまで、ハメルーンに報告にきたのだ?」
国主の疑問はもっともだ。
女騎士ララエルの話では、彼女は国王に追放された直後、軍馬を奪って王都を脱出。
追っ手を振り切って、ハメルーンまで来ていたのだ。
「現ハメルーン国王は私利私欲のことし考えていない男です。そして部下の騎士団……いや、連中は傭兵崩れの荒くれ者だらけ。不意を突かれ、戦場となったハメルーンの市民は、間違いなく残虐な目に合うでしょう。だから私は駆けてきました」
ララエルさんは昔から市民のことを、弱気者を大事にする真面目な騎士。
だから敵国であるハメルーンの市民のことも、心配になって報告に来てくれたのだ。
(ララエルさん、相変わらずだな……)
この人はボクよりも十歳くらい歳上の人。
ミカエル城でもボクが信頼できる数少ない一人で、お姉さんみたいな人なのだ。
「なるほど分かった。ララエル殿のことを信じよう」
国主は全ての話を聞いて、彼女を信じることにした。
そして同席して家臣団に顔を向ける。
「我が臣下に告げる! これより戦の準備をするぞ! 相手は野獣のような国王と部下だ。市民にも避難勧告を出せ!」
「「「はっ!」」」
ハメルーン国主の命令を聞いて、家臣団が一斉に動き出す。
大軍が相手の場合、間違いなくハメルーンの街は戦場となる。
そのために戦えない者は、西の集落へと一時避難さる作戦なのだ。
「では私は、ここで失礼します」
報告を終えて、女騎士ララエルは立ち上がる。その眼光には、まだ強い意思が籠っていた。
国主は見送りながら声をかける。
「ララエル殿、これからどちらへ?」
「王都に急ぎ戻り、昔の仲間に声をかけてみます」
ララエルさんは大まわりをして、王都に戻るという。
独裁者である現ミカエル国王には敵も多い。ここ数年で追放されてきた前忠臣と騎士たちだ。
昔のミカエル王国を取り戻すために、ララエルさんも危険な勝負に挑むのだろう。
ハメルーン国主との話を終えて、ララエルさんはボクの方に寄っていく。
「ハルク、気をつけてくれ。あの国王はキミのことを、未だに固執している。もしかしたら刺客が既にハメルーンの街に、潜んでいるかもしれない。出来ればキミも逃げた方がいい」
「分かりました、肝に命じておきます」
そう助言して、ララエルさんは立ち去っていく。後ろ姿は死に向かう者の背中ではない。
ミカエル王国を昔の良き時代に戻すために、戦いに挑む姿なのだ。
「ララエルさん……ふう、よし」
その後ろ姿を見て、ボクは一つの決意をする。
国主と話をしている、マリエルの方に向かっていく。
「マリエル、頼みがあるんだ。この街のことを微力ながら守りたい。だからボクのことを雇ってちょうだい! ハメルーンの冒険者として、マリエルや街の皆を守りたいんだ!」
「えっ……ハルク様?」
いきなりの申し出だったので、マリエルは困惑した顔になる。
隣にいた父国主と、何か話をし始める。
「分かりました、ハルク様。それではお言葉に甘えて、私からもひと言を。『汝、ハルクを私マリエル=ハメルーンの専任の臨時騎士と任命します!』 これを受けてくれますか、ハルク様?」
マリエルは気を利かせてくれたのだ。
一介の冒険者は戦場では自由に動けない。
でも王女の専任騎士となれば、身分は保証される。ボクも戦場で自由に動くことが出来るのだ。
「臨時騎士の任、ありがたくお受けいたします、マリエル! ハメルーンの街を守ることを、この剣を誓います!」
マリエルに剣を捧げて、ボクは一時的に専属の騎士となる。
国主から騎士の証明も貰い、これで戦場でも自由に活動が可能となった。
(よし、絶対にハメルーンの街を守らないと! その為には新しい道具の準備を……いや“兵器”が必要だ!)
こうしてミカエル王国の大軍を迎え撃つために、ドルトン工房へとボクは向かうのであった。
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