第12話薬草採取の仕事

 駆け出し冒険者として、最初の依頼に挑む。

 薬草のバリン草の採取だ。


「よし、『腰を痛めない薬草の採取の道具』を作ろう!」


 薬草の採取は腰に悪い。

 鍛冶師でもあるボクは、腰痛対策の道具を作ることにした。

《持ち運び鍛冶場》を草原の中に展開して、鍛冶の道具を出していく。


「薬草採取の道具か。でも、どんなのが最適なんのだろう?」


 ミカエル国王で農機具は作ったことはある。

 でも冒険者用の薬草採取の道具は、作ったことはない。

 どうすればいいか頭をひねる。


「薬草も……穀物も同じ植物……あっ、そうだ! 農機具を改造すればいいのか!」


 基本方針が決まった。

 後はイメージを固めていく。


 イメージ的には地面に生えている草を、腰を曲げずに狩る道具だ。

 規模的に“麦を狩る鎌”が、ちょうど良いだろう。


「よーし、作るぞ!」


 材料となるミスリル金属を、出して作業に取り掛かる。

 誰もいない草原に、リズミカルな金属音が鳴り響いてく。


「よし、できたぞ!」


 作り上げたのは“麦刈る大きな鎌”を改造したもの。


 ――――その名も《獄大鎌デス・サイズ》だ!


 作り上げた《獄大鎌デス・サイズ》の大きさは、武器の大矛に近い。


 でも刈りやすいように、曲線の長い鎌の刃物を付けてみた。

 柄の部分も長くして、持ちやすいデザイン。

 腰を曲げずに、足元の薬草を刈れるはずだ。


「よし、試してみよう……おお、いい感じだぞ!」


 試し刈りは、上手くいった。

 腰を曲げず、立ったまま、バリン草を採取することが出来た。


「あっ、そうだ。採取したモノを、そのまま収納するシステムにしよう!」


獄大鎌デス・サイズ》を少し改造。

 刈ると収納を、同時に行えるようにする。


「よし、どんどん採取していこう!」


 何しろバリン草は、一束で10ペリカにしかならない。

 頑張って沢山採取しないと、経費にもならないのだ。


 シュン! シュン! シュン! 


 リズミカルに、どんどんバリン草を刈っていく。

 うん、慣れてきたぞ。

“もう少しだけ”スピードアップしてみよう。


 シュン! シュン! シュン! ビューーン! ザクザク!


 ん?

 何か今、《獄大鎌デス・サイズ》から“斬撃”が、飛んでいったぞ。


 お陰でバリン草を一気に、刈ることが出来た。

 すごい効率がアップした感じだ。


「なるほど。もしかしたら“普通の冒険者”は斬撃を飛ばして、薬草を採取しているのかもしれないな……」


 そうでなければ、一束10ペリカの低賃金の依頼など、誰も受けないだろう。

 きっと他の冒険者も斬撃を上手く使って、薬草の採取をしているのだ。間違いない。


「よし、それなら遠慮はいならいな。どんどん斬撃を飛ばして、草原の奥まで採取していこう!」


 ――――その後は楽しい採取作業だった。


 見つけたバリン草の群生地を、ひたすら斬撃で切り裂いて、そのまま収納。

 どんどん草原を突き進んでいく。


 ズッ、シャーー! ギャーー!


 ん?

 何かを虫か“蛇みたいなモノ”を、遠くで斬ってしまった。

 でも間違いなく人ではない。気にしないでおこう。

 そのまま採取を続けていく。


「ん? もうバリン草が見当たらないな?」


 気がつくと、けっこう遠くまで来ていた。

 かなりのバリン草を採取することが出来た。


「よし、戻って報告にいこう」


 駆け出しの冒険者なので、遠出の冒険はまだ早い。

 日が暮れる前に、ハメルーン街に戻ることにした。


「あっ、でも、ボクの【収納】はあんまり、人前で使っちゃダメだったな。よし、予定通り大きめのリュックサックを作ろう!」


《持ち運び鍛冶場》をもう一度出して、草原の中で作業開始。

 今度、作るのはミスリル製のリュックサック。

 伸縮自在で、かなり大量の荷物も入るように作る。


「よし、出来たぞ! これに採取したバリン草を、移動させて。よし、できた」


 かなりリュックサックがパンパンになってしまった。

 でも全部入れることが出来た。


「よし、今度こそ街に戻ろう!」


 大きく膨らんだリュックサックを背負って、ボクはハメルーンの街に帰還する。


 ◇


 街に戻って、そのまま冒険者ギルドに向かう。

 受付に直行して、お姉さんに報告する。


「あのー、バリン草の採取の依頼が終わりました」


「お疲れ様です。無事でなによりです」


 受付のお姉さんは、優しい言葉をかけてくれた。

 何か子どものお使いみたいだけど、今のボクには有りがたい言葉だ。


「それでは確認するので、こちらの鑑定台の上の出してください」


「はい。でも、かなり多めでが、この台の上で大丈夫ですか?」


 今回は結構な量のバリン草を採取してきた。


「はい、どうぞ」


「それじゃ、失礼します。よっと!」


 ガサ、ガサ、ガサ、ガサ、ガサ、ガサ、ガサ、ガサ。


 ミスリル製のリュックサックの中から、勢いよくバリン草が飛び出てくる。

 あっとう間に鑑定台の上から、あふれ落ちていく。


「えっ…………!?」


 お姉さんは目を丸くして、言葉を失っていた。

 もしかしたら間違って採取してきたのだろうか? 急に不安になる。


「い、いえ、間違いではありません。これ全部、バリン草です……えっ、でも、この異常な量は⁉ どうやって、一人で⁉ 一日で⁉」


「無我夢中で刈っていたら、こうなったんです……あっはっはっは……」


 なんか気まずいので、笑って誤魔化す。

 でも正解で良かった。


「ふう……分かりました。鑑定に少し時間を下さい。これが引換券です」


 どうやら採取した量が多すぎたらしい。

 ギルド職員が総出で、バリン草の数の確認をしていく。


「ハルクさん、お待たせしました。全部で、2,242束ありました。これが報酬の22,420ペリカです」


「おお、ありがとうございます!」


 受付のお姉さんに依頼料金を貰う。

 予想以上の金額だった。


 22,420ペリカといったら、五日間くらいの稼ぎ。

 それをたった一日で稼ぐことが出来たのだ。かなり嬉しい成果だ。


 よし、今宵は奮発して、少しリッチな定食でも食べようかな。

 食いしん坊なボクには、最高の時間になるだろう。


 ――――そんな時だった。血相を変えた冒険者が、ギルドに駆け込んできた。


 どうしたんだろうか?


「おい、大変だ! 西の草原に、《三つ目大蛇》の死体があったぞ!」


「「「なんだと⁉」」」


 ギルド内は一気に騒然となる。


《三つ目大蛇》は城の魔物辞典で見たことがある。

 体長数十メートルで、大木ように太い、危険な大蛇の魔物だ。


 それが西の草原で、切断された死体が転がっていたらしい。


「あの危険度ランクBの《三つ目大蛇》の死体が⁉ それは本当か⁉」


「冒険者の誰かが、倒したのか⁉」


「いや、金になる魔石は放置されたままだった……一応、これが証拠だ」


 魔物や魔獣の体内には、魔石と呼ばれる宝玉がある。

 魔道具の原料になるために、魔物強さによって高値で取引されていた。


「本当だ、これは《三つ目大蛇》の魔石だ。それなら、魔物同士で殺し合いを?」


「いや《三つ目大蛇》は鋭い斬撃で、真っ二つになっていた。まるで“大鎌”で一刀両断されたような、恐ろしい断面だった。あんなのは《剣聖クラス》でも不可能だ……」


「何だと⁉ それじゃ、いったい誰が……まさか、魔族の仕業か⁉」


「よし、とりあえずギルドマスターに報告を!」


 何やらギルド内には、更に騒然となっていく。

 危険度ランクBの《三つ目大蛇》を、一刀両断できる不気味な存在。


 そんな存在がハメルーンの街の近くにいる。いや、もしかしたら既に街の中に、潜んでいるかもしれない⁉


 想像して誰もが顔を青くして、冷や汗をかいている。


「なんか、ピリピリしているな。ボクには関係ないと思いから、帰ろう」


 こっそりギルドから抜け出していく。

 ふう……ひと息がつけたぞ。


「それにしても西の草原か。ボクも今度から気を付けないと。とりあえず今日は、酒場に定食を食べにいくか!」


 ――――ハルクは知らなかった。自分がいつの間にか危険な《三つ目大蛇》を、薬草の採取と共に《獄大鎌デス・サイズ》で討伐していたこと。


 ――――《三つ目大蛇》の魔石と素材は、五十万ペリカ以上の価値があって、放置ままにしてきたことを。


「うん! この定食美味しいな! 思い切って900ペリカも奮発して、良かったな!」


 こうして冒険者としてのボクの初仕事は、順調に幕を開けたのであった。

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