第10話愛の嘆美・高村光太郎:崇高な愛の行為

高村光太郎の「愛の嘆美」を読みました。

『高村光太郎全集』(電子書籍版)の智恵子抄収録の一篇大正三年二月の作です。


高村光太郎の詩は、子供の頃に読んだ少女マンガのモチーフに使われた「あどけない話」国語の教科書に載っていた「レモン哀歌」「道程」の他、ほんの数編しか読んだことがありませんでした。


今回あらためて詩集を読んでみて、印象に残ったのがこの詩でした。


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愛の嘆美

       高村光太郎


底の知れない肉体の慾は

あげ潮どきのおそろしいちから___

なほも燃え立つ汗ばんだ火に

火竜サラマンドラはてんてんと躍る


ふりしきる雪は深夜に婚姻飛揚ヴオル・ニュプシアの宴をあげ

寂寞とした空中の喚起をさけぶ

われらは世にも美しい力に力くだかれ

このとき深蜜のながれに身をひたして

いきり立つ薔薇いろの靄に息づき

因陀羅網いんだらもうの珠玉に照り返へして

われらのいのちを無人に鋳る


冬に潜む揺籃の魔力と

冬にめぐむ下萌の生熱と___

すべての内に燃えるものは「時」の脈搏と共に脈うち

われらの前進に硬骨の電流をひびかす


われらの皮膚はすさまじくめざめ

われらの内臓は生存の喜にのたうち

毛髪は蛍光を発し

指は独自の生命を得て五体に匍ひまつはり

ことばを蔵した混沌のまことの世界は

たちまちわれらの上にその姿をあらはす


光りにみち

幸いにみち

あらゆる差別は一音にめぐり

毒薬と露とは其の筺を同じくし

堪えへがたい疼痛は身をよぢらしめ

極甚の法悦は不可思議の迷路を輝かす


われらは雪にあたたかく埋もれ

天然の素中にとろけて

果てしのない地上の愛をむさぼり

はるかにわれらの命を賛めたたへる


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 勉強不足ではっきり理解できない言葉もいくつかあったのですが、あえて調べたりせずに読みました。

実際の意味をしらなくても感覚的に、イメージとして詩の内容は伝わってきます。


 この詩は、男女の愛の行為を詠っていると思うのですが、「肉体の慾」と表現しながらも生々しくはありません。


これが散文だったら、また別の印象を持ったかもしれませんが、詩であるということで美しく崇高で神聖化された行為に感じられます。


詩人の智恵子への愛の深さが垣間見えるような気がしました。

(記:2016-07-19)

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