第十五幕 47 『別れの時』
ーーーー カルヴァード大陸 某所 ーーーー
茜に染まる空に、激しい光が何度も閃き、轟音が鳴り響く。
黒神教に絡んだ数々の事件や、異界の魂が原因となった強力な魔物の出没……これらのことから、世界中の人々に漠然と広がっていた不安。
それはグラナ帝国の侵攻という形で現実のものとなり、そして今……人知を超えた邪神の復活によって、世界そのものの危機が迫っている事が誰の目にも突きつけられていた。
しかし、人々は今、希望の光を目の当たりにしている。
イスパルの英雄姫、その名も轟く
遥か天空の戦いを見上げる全ての人が、カティアの勝利を願って祈りを捧げる。
彼女が世界の英雄となるその瞬間を待ちわびていた。
やがて夕日に染まった茜色の空に、一足早く夜空が訪れる。
満天の星空が広がり、その煌めきが流星となって、ただ一点に降り注いだ。
その余りにも美しく壮大な光景に、人々は英雄の勝利を確信するのだった。
ーーーーーーーー
私の、神々の、皆の、全ての人々の想いをのせた無数の流星が光の奔流となって、邪神リュートを飲み込んでいく。
「うおおぉぉぉーーーーっっっ!!!!」
闇が光に溶けていく。
そして邪神の断末魔…………いや、悲しき迷い子の泣き声が聞こえてきた。
私は、かつて始めて異界の魂と対峙したときのように、悲しき魂を慰めるための子守唄を口ずさむ。
ああ いと悲しき魂よ 哀れなる魂よ
眠れ眠れ迷い子よ
あなたが帰る道は既にない
眠れ眠れ安らかに
ただ あなたが安寧でありますように
眠れ眠れ
わたしはあなたの哀しみを忘れない…
いつまでも…いつまでも…
『ありがとう……カティア。私を邪神の軛から解き放ってくれて』
「琉斗……」
邪神に囚われていたリュートの魂が、気の遠くなるような時を経てついに解放される。
私の前に現れた彼の魂は、満足そうな穏やかな笑みを浮かべていた。
「こちらこそ、ありがとう。あなたの導きがあったからこそ……私はここに辿り着くことができた。……輪廻に還る事は出来そう?」
『ああ。またこの世界に生まれるかどうかは分からないが……輪廻の先の未来で、いつかまた会おう』
「うん……」
『それに、私の中には……ほんの少しだけ、あの悲しき魂の欠片が遺された。こいつもまた、輪廻に還って、いつの日か……そう、願っている』
そっか……
もし、そうなら……今度こそこの世界の一員として、生まれ変われるといいな……
世界を滅ぼそうとした邪神なんだけど……
あの悲しみを知ってしまった私は、そう願わずにはいられなかった。
そして、琉斗とも別れの時がやって来る。
私達を導き、そして立ちはだかった賢者リュート。
もう一人の私……
でも、既に私達は別の道を歩んでいる。
そして、例えここで別れたとしても。
『では、また会おう、カティア……そして、
「うん!!それまでは……さようならだね、
いつか再び出会うことを願って、私達は別れの言葉を交わした。
やがて邪神は光に溶けて消え去り、リュートの魂もまた旅立って行くのだった……
全ての戦いは、ここに決着した。
「カティア!!!」
「ママ〜!!」
「カティアさん!!」
邪神との最後の戦いに勝利を収め、再び舞台へと戻ってきた私を、皆が満面の笑みを浮かべて迎えてくれる。
「みんな、ただいま!全部終わったよ!!私達が勝ったよ!!」
終わってみれば……全員無事でよかったよ。
取り敢えず、邪神が滅びた以上はこの場所もいつまで保つのか分からない。
早く脱出しないとね。
しかし……
「カティア、よく頑張ったわね。これで、私達も心置きなく……」
「リル姉さん……?」
リル姉さんの声に振り返ってみれば……そこには12柱の神様たちが勢ぞろいして、満足そうなな笑顔を浮かべていた。
そして、その身体は……
「え……?みんな……身体が透けて……?」
「ええ。私達も、ここでお別れよ」
そんな衝撃の言葉を、リル姉さんは言うのだった。
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