第十五幕 22 『炎竜王の目覚め』


 赤茶けた荒野を進む私達。

 暫くは平坦な道のりであったが、やがて……






「凄い景色だな……こんな場所がこの世にあるとは」


「本当ですわね。寒々しいのに、雄大で……」



 かつて聖域のリュートに聞いた話……『荒涼たる赤茶けた大地に刻まれた、地獄の底にまで繋がってるかのような深い深い谷』。

 目の前に広がる光景は、まさにその言葉通りのものだった。



「確か、谷底に降りなきゃ行けないんだっけ……?」


「そうです。こんな断崖絶壁に見えますが……階段状になっている場所があります」


 私の呟きにロランさんが答えてくれる。


 彼やシェラさん、ミーティア、シフィルは空を飛ぶ手段があるのだけど、それ以外のメンバーはそうじゃないからね。

 案内役のロランさんがいなければ、下へ降りる方法を探すだけで時間が取られてしまっただろう。




「じゃあロランさん、案内を……」



 と、私が言いかけたとき……突然、ミーティアが声を上げる。



「うにゃ?……おじちゃん?どうしたの?」


『おじちゃんじゃねぇと言ってるだろ……』


 いつものやり取りをしながら、すーっ……と、ミーティアの身体から現れたゼアルさん。



「どうしたんですか?ゼアルさん……?」


『……スオージ山の本体が目覚めた。どうやら、お前たちに同行するのはここまでのようだ』


「えっ!?」



 ゼアルさんの本体……?

 って、炎竜王が目覚めたの!?



「一体何が……」


『分からん。だが、ただ事じゃねえのは間違いねぇ。こうなれば俺は本体の元に行かなきゃならねぇ』



 その表情は真剣そのものだ。


 もしかして……グラナとの大戦で、何か起きたのか?



「おじちゃん……お別れ……?」


 ミーティアが今にも泣きそうな声で言う。


 それを聞いたゼアルさんは……



『な〜に、パッと行って、また直ぐに戻って来らぁ』


 表情を和らげて優しい口調で応え、触れることはできないがらも、頭を撫でる仕草をする。



「ぐす……本当?」


『おお、本当だとも。俺ぁ嘘なんかついたことはないだろ?』


「……うん!!」



 ……ある意味で、ゼアルさんはミーティアにとって一番身近な保護者とも言えるもんね。

 そのやり取りを見て、ちょっと妬けるなぁ……なんて思った。



「ゼアルさん……どうかお気をつけて」


『ああ。……なぁに、あっちにゃディザールたちも居るんだろ?久々にタッグを組んで暴れられると思えば……楽しみですらあるぜ』



 その言葉は本心のものだとは思うけど、私達を心配させないようにと気遣ってもいるのだろう。



『じゃあ、またな!!』




 そうして、ゼアルさんの姿はフッ……と私達の前から掻き消えるのだった。

































ーー ウィラー王国 対グラナ戦線 ーー



 ウィラー王国の対グラナ戦線の上空に突如現れた『黒魔神竜』と魔族エルネラ。


 黒竜のあぎとが大きく開かれ、破壊の光が収束していく。



 そしてついに、その猛威が振るわれようとしていた。




「お姉ちゃん!!ブレスが来るよ!!結界を優先しよう!!」


「分かったわ、リナ!!」



 連合軍全体に対して支援を行っていた姉妹神は、予想外の強力な敵の出現を目の当たりにし、その力の全てを防御に割り振る事にした。

 二神の力でなければ、あの黒竜の攻撃は防げないと判断したためだ。



 そして、エメリールとエメリナが力を合わせ、連合軍全体を覆うような結界を張るのと、黒竜が咆哮とともにブレスを放つのは殆ど同時だった。





 ズガァーーーーーーンンンンッッッッ!!!!





 太陽が落ちてきたかのように視界のすべてを灼き尽くす光。

 鼓膜が破れるような凄まじい爆音。

 そして、二神の結界を隔てても、なお吹き飛ばされそうになるほどの衝撃波が連合軍の兵たちを襲った。




「くっ……!一撃で!?次防げないよ!?」


「落ち着きなさい、リナ。流石にあれ程の攻撃は連発出来ないわ。ブレスの兆候を見逃さなければ大丈夫よ。……だけど、流石のディザールでも難儀する相手なのは間違いないわ」


「あんなの……古代の魔獣・魔神クラスじゃない」



 初撃は何とか防ぐことが出来たものの……

 遥か昔に戦ってきた魔境の主たちの力を思い出した姉妹神の言葉と表情は……神の力を以てしても厳しいものになる事を思わせるものだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る