第十五幕 20 『最強の神』
ーー ウィラー王国 対グラナ戦線 ーー
血なまぐさい戦場には似つかわしく無い、美しい歌声が響き渡る。
それはただの歌ではなく、戦士たちを鼓舞し力を与える魂の歌。
豊穣神にして、魂の守護者たるエメリールの力の発露だ。
それに加えて、一足先に地上に降臨していた生命神エメリナが継続回復の結界を展開し、多少の怪我はたちどころに癒やされる。
神々の加護を得た連合軍の戦士たちは精強で勇ましく、グラナ軍を圧倒していた。
「おい、ガエル!!前に出過ぎだぞ!!足並みを揃えろ!!」
「分かってる!!だがここは突破するぞ!!うぉーーーっっ!!」
「援護します!!」
フリード、ガエル、ユーグは学生の身でありながら、歴戦の騎士、魔道士と遜色ない働きを見せている。
彼らはエフィメラの部隊に参加し、前線でその力を振るっていた。
「あの者たち……エフィメラ様の同級生との事でしたな。まだ若いが……なかなかやる」
「ええ、頼もしい仲間です。ただ、あまり無茶はして欲しく無いのですけど……」
エフィメラは複雑そうにブレイグ将軍の言葉に応える。
ガエルは彼女の護衛のようなものだからまだ良いとして……彼に付き合う形で参加したフリードとユーグに対しては、少し申し訳ない気持ちがあるようだ。
「男が自らの意志で決めたことならば、それは尊重してやるべきでしょう」
「そう……ですね。私たちも負けてられません。行きますよ!!」
「はっ!!」
そう言って、エフィメラは符術の札を手に、自らも戦いに身を投じる。
そして、そんな主を頼もしいと思いながら、ブレイグも彼女に追従するのだった。
一方……グラナ軍に単身で突撃し、多くの魔物を蹂躙しながら攻め入る武神ディザール。
まさに鎧袖一触……かの神を相手にする者は、一合たりとも打ち合えず地に伏す事になった。
「ふっ……!!」
ドォーーーーンッッッ!!!
軽く剣を一閃させただけで凄まじい衝撃波が広範囲に広がり、轟音を立てて数多の魔物を吹き飛ばす。
そうやって邪魔者を排除しながらディザールが目指すのは……
「うむ。これが黒魔巨兵とやらか……多少は骨がありそうだな。いざ、参る!!!」
敵陣深く切り込んだ武神は、ついにグラナ軍最大の脅威と対峙する。
黒魔巨兵は全部で8体。
ディザールは、黒き巨人の威容に全く臆することなく、これまでと同様に突撃を敢行する。
いや……これまでと違い、手にする剣が鮮烈な輝きを放つところを見れば、ギアを引き上げたであろうことが分かる。
そして。
「ハァーーーッッッ!!![天地滅閃]!!!」
気合一閃!!
まだ彼我の距離が離れている状態から垂直に振り下ろされた剣から、これまでとは比較にならない衝撃波と閃光が放たれた!!
ザンッッ!!!
剣閃は巨人の頭の天辺から股間まで真っ二つに切り裂いてしまう!!
そして、巨人は再生する間もなく黒い灰となって崩れ落ちた。
「この程度か……よし、他も残らず滅してやろう」
何でもない事のようにディザールは呟くが……その比類なき武の力こそ、他の神々をして『最強』と言わしめる所以である。
その後。
彼の宣言通り、全ての黒魔巨兵が滅び去るのに、それほど時間はかからなかった。
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