第十五幕 9 『調律師 再び』


 私達の前に再び立ちはだかる『調律師』。


 荒野に悠然と佇むその姿が、どこか寂しそうにも見えるのは……私の気のせいだろうか。


 ただ一つ言えることは……きっと、彼女の妄執は姉であるシェラさんに向かっている。

 そして、それはシェラさんも同じだと、彼女自身が言っていた。



 『全てが終わったら、また一緒に暮らそう』



 その約束は果たされることなく……道が分かたれた姉妹は、いま再び対峙する。

 その姿は、あまりにも悲しかった。


















「……ヴィー」


「姉さん、ここで決着を付けましょう」



 あくまでも冷淡に『調律師』は告げる。

 それは、無理矢理感情を押し殺しているように見えなくもなかった。


 やっぱり彼女は……





「『魔剣士』……やはり裏切りましたか。だから危険だと、魔王様にも具申してきたのですが。『軍師』め、一体何を考えているのか」


「さあな。あいつの考えてる事は誰にも分からねぇだろ。それよりも……お前こそ命令違反なんじゃねえか?軍師のやつぁ、カティア様を神殿に招く……と言ってただろ」


「ふ……いかに奴が、表向き『教皇』の地位にあるとはいえ、私も魔王様も奴に指図される謂れはない」



 ……さらっと驚くべき話が出てきたね。

 『軍師』と『教皇』は同じ人物……?



「ちょっと待って!!『軍師』が『教皇』って……じゃあ、黒神教の最高指導者ってこと!?」


 グラナ帝国の皇室を傀儡と化し、実質的に帝国を支配しているのは、黒神教の教皇だと言う話だった。


 ふと横目で見れば、それを教えてくれたはずのシェラさんも驚いている事から、彼女も『軍師』と『教皇』が同一人物であるのは知らなかったのだろう。


 思わず私が会話に割って入ると、『調律師』はその冷たい目をこちらに向けて言う。



「表向きはそうです。ですが、あくまでも『軍師』は魔王様の配下。黒き神をその身に降ろし、全人類を高みへと導くのは……偉大なる魔王様なのです」


 彼女はそう言うが……『軍師』の正体があの人だとすれば、魔王ですら利用されているのかも知れない。


 そして……



「『黒き神を降ろす』……やはり、邪神が復活したのか!?」


「それを答える義理はありませんね」


 テオの問に、調律師は素気なく答える。




「さあ、問答はもう終わりです」


「あなた一人で、この人数を相手にするつもりですの?」


「随分と、虚仮にされたものね。以前の私達と同じだと思ってるのなら……それは甘い考えだったと思い知らせてやるわよ」


 シフィルの言う通りだ。


 以前、戦ったときは相当な苦戦を強いられたけど……今回は色々と対策がある。

 早々好き勝手にはさせないよ。



 しかし……


「それは私も同じこと。黒き神の波動が……私にも力を与えてくれているのです。……さぁ、刮目するがいい!!」



 言うやいなや、調律師から黒い光の波動が放たれる!!


 そして、かつてと同じように、彼女の背中から黒い翼が現れた!!




「くっ……!!これは……以前よりも……!?」



 『黒き神』の波動が力を与えると言ってたけど……確かに前回よりも強大な力を感じる。



「俺は邪神の波動の影響は受けてねぇんだが……」


「私もです。恐らく……私達は完全な魔族ではないから……」



 ロランさんとシェラさんには、邪神の波動の影響は出ていないと言う。



「そうよ。だから姉さんも、もう一度…………黒き神にその身を捧げるのよ!!」



 ブワッ……!!!



 調律師の叫びと共に、黒い波動が迸る!!



 そして、調律師ヴィリティニーアとの最後の決戦が、ついに始まるのだった……!


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