第十四幕 エピローグ 『繋がる運命の輪』


 荒涼たる大地を征く私達一行。

 先頭を歩くのは、案内役となったロランさん。


 その道すがら、彼は自身の事情を話し始めた。



「……あの、300年前の決戦の時。俺は魔王に致命的な一撃を貰って気を失ってしまったんだが……」


 そのシーンは夢で見た。


 あの戦いの後の彼の生死は分からなかったけど……生き延びて、こうして私達の目の前に現れるとは思いもよらなかった。



「次に目が覚めたとき……もう既に、俺は魔族となっていたんだ。場所も別の何処かに移動させられたらしく……『軍師』の野郎が、俺の身に何が起きたのか教えてくれた」


 『軍師』……フォルトゥナの話によれば、私を『黒き神の神殿』に招こうとしているらしいが……

 300年前より存在し、魔王の信頼も厚いという。


 一体何者なのか?

 そして、何を企んでいるのか?

 ここ最近の黒神教絡みの事件は、全て彼の筋書き通りなのか?



「奴が言うには……リシィを喰らおうとした『黒き魂』は、既のところでテオフィール様のシギルの力で祓われたんだが、それは完全じゃなかったらしい。その残滓が生き残ろうとして今度は手近にあった俺を喰らおうとしたんだ。だが……力の大部分を失っていたため、完全に食らうことは出来なかったようだな」


「それじゃあ……私と同じように、人間としての自我を保つことが出来た……という事?」


「そうだ。俺とお前は、同じ『黒き魂』に喰われかけ、共に人間のまま魔族になった。……言ってみれば、魂の絆で結ばれてるって訳だな!」


「っ!?」


 ロランさんの言いように、シェラさんがまた顔を赤くする。

 ものは言いようだねぇ……



「あなた、そんな性格だったかしら?……ま、まぁ、こうしてここに居る理由は分かったわ。それで?何で黒神教なんかに力を貸していたの?」


 少し怒ったように、シェラさんが問う。

 自分達が戦っていた相手に与してきた事が納得いかないのだろう。

 


「お前の手によって魔王が封印された事も、軍師から聞いたんだ。そして、いつかその封印が解けるであろう事も」


「……」


「封印が解けた時、きっとお前は再び魔王と対峙する。そう思った俺は、完全に魔族になったフリをして……いつの日かお前とともに戦う日が来ると信じ、黒神教の一員として内部から情報を探ろうとしたんだ」


「……あ!?もしかして……アグレアス侯爵に情報を流していたり?エフィ……エフィメラ皇女を逃したのも……」


 グラナ皇家とアグレアス侯爵家の繋がり。

 もしかして、そこに関与してたのが彼なのでは……?



「それとなくな。あまり大っぴらには動けなかったから、大した事は出来なかったが……リシィの仲間だって事で、グラナ皇家の信頼はある程度得られたんだ。……あるいは、軍師の奴は全部お見通しだったかもしれんがな」



 なるほど……これで一つ謎が解けたね。

 エフィが無事にイスパルに亡命できたのも、黒神教の幹部に協力者がいたのであれば納得だ。



「それで、それ以来300年間……軍師の奴は色々画策していたようだが、黒神教としては雌伏の時を過ごし、目立った動きは無かったんだが。それが動いたのが20年ほど前の事だ」


 20年前……シェラさんが目を覚ました頃だ。

 その数年後には、グラナによるカルヴァード侵攻が行われている。



「来る『黒き魂』の増大期に合わせて、再び活動を活発化させたって訳だ」


「……15年前の大戦。あれは、何だったんですか?」


 一つ考えられる理由としては……人々を不安に陥れて、負の感情で地脈が【陰】の気を帯びることで、異界の魂を呼び込み易くする。

 これは、かつてウパルパ様に聞いた話からの推測だ。


 だけど、それだけじゃ無い気がしていたんだ。



 私の質問に、ロランさんは眉根を寄せて答える。


「さぁ……な。奴の思惑がどういうものだったのか、よく分からんが。………いや、奴は何か言ってたな」


 と、過去を思い出そうとする素振りを見せる。


 そして、暫しそうした後……彼は言った。










「そうだ、確かこんな事を言ってたな。『イベントの予行演習』だと」


「!!?」 



 イベント……?


 イベントだって!?



 その言いよう……まるで『ゲーム』みたいじゃないか!!


 それじゃあ……『軍師』の正体は……まさか?


 いや、あり得ない!!







 私が、自分が思い至ったその可能性に混乱していた、その時……




 空気が一変するのを感じた!!




「なっ!?なんだ!!?」


「何ですの!?この禍々しい気配は……!!」


「うぅ……気持ち悪いの……」



 突如として、世界が暗転するかのような禍々しい気配があたり一面に満ち溢れたのだ。



「何なの?これは……!!風が淀んでる……?」



「まさか……邪神……?」


「かも知れねぇ……この気配、向う先の方から放たれてるみたいだぜ」



「……行こう!!そして、全ての決着を付けよう!!!」



 そして私達は走り出す。


 禍々しい気配の元……邪神を奉じる『黒き神の神殿』へ……!!




















 次々と明らかになる事実。


 鎖のように繋がった運命の輪。


 その果てに、私は辿り着こうとしている。




 果たして、そこで待ち受けるのは……?



 そして、遥かな太古から続く『黒き魂』や『邪神』との戦いに、全ての決着が付くのか……?




 その運命を切り開く事が出来るのは………私たち次第だ。





ーー 第十四幕 転生歌姫と繋がる運命の輪 閉幕 ーー

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る