第十四幕 37 『占星術師』


 賢者の塔の地下にて、ミーティアが行使した大転移魔法[天道律]の光に包まれた私達。

 眩い光のため閉じていた目を開いたとき、そこには不思議な空間が広がっていた。


 イメージとしてはアレだ……亜空間とか異次元空間とか、そんなやつ。


 光源などは見当たらないがぼんやりと明るく、互いの姿ははっきりと視認できた。


 何もない空間なので方向感覚は意味をなさないが、僅かに重力が感じられる。

 それを基準にすれば、どうやら私達は頭上に向かって飛翔しているようだ。






「一瞬で目的地に着くわけじゃないんだね」


 思わず呟く。

 転移魔法って言うくらいだから、目を開けたら目的地に着いていた……なんて想像していたのだけど。


「[神帰回廊]はこのような場所は通らないのですけどね」


 あ、シェラさんは[神帰回廊]を使えるんだ。

 確かに彼女はいつも神出鬼没だったね。






「不思議な場所だな」


「足場が無いと落ち着きませんわ……」


「私は空を翔ぶのは慣れてる方だけど、こう何も無いと感覚がおかしくなるわね」


「ここなら迷子になっても仕方がないよね」


 テオ、ルシェーラ、シフィル、メリエルちゃんがそれぞれ感想を言う。

 メリエルちゃんは、もう迷子の原因は解消されたはずだけど……染み付いたコンプレックスは中々根深いね。



「ミーティアちゃん、ここはどういう場所なのかしら?」


 ステラが術者であるミーティアに聞くと、皆の注目が集まる。


「ん〜……私も良く分からない。直ぐに出口になると思うんだけど……ミーちゃん、分かる?」


「次元の狭間とか、異空間とか……そのようなものだと認識してますが、詳しい理屈なんかは私も分からないです」


 まぁ、彼女たちも術者としての手順は分かっても、そこまで細かい事は分からないか。


「取りあえず、ちゃんと目的地に辿り着ければ何でも良いよ」


 もしリーゼさんが居たら、考察に没頭してしまいそうではある。



 と、そこで何者かの声が……


『こいつは、地脈の流れをベースに大転移魔法の力で一時的に作られた異空間だな』


「その声は……ゼアルさん?」


『おうよ』


 そーいや、この人もいたんだっけ。


「姿が見えないということは……まだ力が戻らないんですか?」


 ゼアルさんには、レーヴェラントでの魔軍襲来の時、ダンジョン攻略の時、そして調律師との戦いの時と、何度も力を使ってもらっている。


『だな。短い期間で何度か力を使ったからな……流石に今回は力を貸すほどには戻って無いな』


「まぁ、しょうが無いですね……今回は見守ってて下さい」


『ああ。ま、神々の加護を得たお前らなら、大丈夫だろ』
















 そうして、時空の流れのようなものに身を任せていた私達だったが……





 パリィンッ!!




 何もないはずの空間に、突如としてガラスが割れたような音が鳴り響いた!!



「えっ!?誰かが干渉を!?」


「ミー姉さま!!流れが変わります!!このままじゃ……!!」


「ミーティア!?何が起きたの!?」


 何か不測の事態が起きた事は、彼女たちの慌てた様子から分かるが……一体何が?



「誰かが私の魔法に干渉して、強制的に目的地を変えようとしてる!!」


「「ええっ!?」」


 こんな大魔法に干渉!?

 一体誰が……!?



「くっ!!ダメ!!制御が奪われる!!みんな気を付けて!!」


 き、気を付けろって……

 何をどう気を付ければ良いの!?



 そうこうしているうちに、進行方向にはトンネルの出口のような光が見え、あっと言う間に近づいたと思ったら……





















「ここ……は?」


 半ば呆然とした誰かの呟きが聞こえる。


 ふと気が付けば、私達は見知らぬ場所に立っていた。

 辺りを見渡せば……草木も何も無い、赤茶けた荒野が広がる。


 一体、何処に出てしまったんだ?






「そう簡単に、我らの聖地に足を踏み入れる事は出来ませんよ」


「誰っ!?」


 突如聞こえてきた、知らない女性の声。

 鋭く誰何の声を上げながら、声が聞こえた方を振り向くと……!



「お初にお目にかかります。私は黒神教、七天禍の一柱。『占星術師』のフォルトゥナです。……まぁ、覚えていただかなくても結構です。あなた達はここで死にますから」


 魔族の特徴である白銀の髪は、腰まで届く位の長いストレートヘア。

 前髪は眉の上できれいに切り揃えている。

 やはり魔族の特徴である黄金の瞳。

 そして、『占星術師』の名の通り、占い師が着るようなゆったりとしたローブに身を包む。


 神秘的で怜悧な美しさをもつ、妙齢の女性であった。




「あなたが転移魔法に干渉したの!?」


「ええ。星の巡りが重要な魔法ならば……私にとって、干渉するのは造作も無い事です」


 私が問い質すと、彼女は至極あっさりと答えるが……[天道律]ほどの大魔法に干渉するなど、並大抵の力の持ち主ではない。



 黒神教の本拠地たる『黒き神の神殿』で、七天禍と遭遇する可能性は高いと思っていたけど……やはり戦いは避けられないようだ。



「魔族……今の私達なら!!負けませんわよ!!」


「邪神を相手にするかもしれないんだ。こんなところで躓くわけにはいかん!!」



 そして、激戦の幕が上がる!!

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