第十四幕 11 『黒き神の神殿』


 かつて『黒き神の神殿』を東大陸の地で発見したと言うリュート。

 そして、その場所がついに明らかになる。



 彼は一呼吸置いて私達を見渡してから、語り始めた。



「グラナ王都パニシオンを旅立った私は、東に向かいながら道中の町や村に立ち寄って情報を集めつつ、少しずつ候補を絞り込んでいった。段々と未開の地へと踏み入り、人の集落も無くなって後は地道に捜索を続け……」



 ごくり……

 私達は黙ってリュートの話に聞き入る。



「そして何ヶ月も方々を彷徨いながら……ついに隠された神殿を発見したんだ。そこは険しい山々を超えた先。荒涼たる赤茶けた大地に刻まれた、地獄の底にまで繋がってるかのような深い深い谷……あぁ、地球で言うところのグランドキャニオンみたいな感じかな?」


 ふむ、分かり易い例えだね。

 脳裏に映像が浮かぶよ。



「そこも相当に広大な場所で、その中から神殿を探し出すのも一苦労と思われたんだけど……そこに辿り着いたとき、明らかに魔素の流れに特異性がある事にに気が付いた。私はその中心地が何処なのかを探りながら、谷の底へと降りていった」



 どうやら……そろそろ旅の終わりが見えてきたね。



「それは正しく神殿だった。そんな谷底にあるのだから、おそらく隠されていたんだと思うけど……実際に目の前にすれば、そうとは思えないほどに巨大で、荘厳で……そして禍々しい雰囲気を醸し出していた。漆黒のそれは全く陽の光を返さず、まるでそこだけ『闇』が蟠っているかのようだった」



 話を聞いただけでも異様さを感じる。

 正しく邪神を祀る神殿といった雰囲気だったんだろう。



「あまりにも禍々しい雰囲気に呑まれて、流石に少し気後れしながらも中に足を踏み入れると……」


「「「ごく……」」」



「そこは広大な空間。奥の方は階段状になっていて、その上には祭壇らしきもの。そして、巨大な神像……まるで悪魔のようなそれが途轍もない禍々しさを放っていた。特異な魔素の流れはどうやらその神像を中心に渦巻いて、如何にも何かあると思わせるものだった。私は直感的に、この神殿こそが邪神が封じられた地であると確信した」



 リュートが語った光景は、かつて私が夢に見た魔王との最終決戦の場所と一致してるように思えた。


 しかし、リディアたちはどうやってそこを見つけたんだろう?

 そして、何故その場所に関する話が現在に伝わっていないのか?

 それはもしかしたら、この300年の間に黒神教が暗躍した結果なのかも知れない。



 ともかく、今重要なのは、邪神の封印地と思しき場所を知った今、どう動くべきか……という事だ。


 いや……先ずはリュートがそこを発見したとき、どうしたのかを聞くのが先か。


 彼は更に話を続ける。



「さて、とうとう目的の場所を探し当てて……当然、そこで詳しい調査をするつもりだったんだけど、どう言う訳か物凄く嫌な予感がしてね。『このままここに居てはいけない』、『早くここを立ち去らなければ』……そんな焦燥感が私を襲ったんだ」


「焦燥感……?」


「それが何なのかは分からない。とにかく本能的な怖れとも言えるそれに衝き動かされて……情けないことだが、尻尾を巻いて逃げ帰ってしまったんだ」


「……」


 一体何なのだろう?


 これまで聞いてきた話の感じからすれば、彼は未開の地にも怖じけずに挑むような勇気を持った人物だ。

 そんな地を身一つで旅するだけの力もある。

 ……自分で言うのも何だが。


 しかし、そんな彼が得体のしれない恐怖に支配されて、何も調べずに逃げ帰るとは……

 いや、それこそ邪神の強大な力を感じたが故の事かも知れないけど、どうもそれだけじゃない気がする。



 あ、そう言えば……


「あの。以前から気になってたんですけど……桧原琉斗はこの世界に『転移』したんですよね。転生ではなく。つまり、地球から肉体ごとこの世界にやってきた」


「あぁ……言いたい事は分かるよ。地球から転移してきたと言う割には強い力を持ってるのは何故か……って事だろう?」


「ええ。琉斗は武術は修めていたけど、この世界の基準に照らし合わせれば、そこまで突出した力を持ってるわけではなかった。それに、賢者リュートの伝説や遺したものからすれば、どう考えても『魔法』が使えるとしか思えない。知識は学べば良いけど、実際に使うのに身体の造りが違うのはどうしようもないと思ったのですが……」


「それはね、私にも分からないんだ。そもそも寝たきりだった身体が完治したのも謎だ。君が考えたように、私はこの世界に来てから魔法の存在を知り、そして実際に使うことが出来た。それも理由は分からないが……合わせて考えれば、単純に『転移』したのではなく、その際に身体がこの世界に適合するように造り変わったのかもしれない」



 ……身体が造り変わる。

 そんなことがあるのだろうか?

 だけど、確かにそうとしか考えられないのかも。


 そしてそれは、凄く重要な事を示している様な気がするんだよね……

 それが何かは分からないんだけど。

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