第十三幕 エピローグ 『希望を胸に』


 ウィラー王国を襲った危機は回避された。


 敵味方双方に多大な犠牲が出たものの、地上に降臨した生命神エメリナ……リナ姉さんの力によって、喪われたはずの多くの命が復活を果たした。

 まさに神の奇跡と呼ぶに相応しい所業。


 ウィラー兵や森都の民のみならず、グラナ兵でさえも神の御業と慈悲深き心に感謝して、戦闘継続の意志はすっかり消え失せた。

 そして、意識を取り戻したブレイグ将軍を始め、グラナ兵は全員が武装を解いて投降するのだった。



 森都での戦闘終結と時を同じくして、ウィラー大森林も落ち着きを取り戻す。

 どうやら薬師が消滅したことによって操られていた魔物も正気を取り戻したらしく、散り散りになって潰走したとのこと。



 ここに、森都防衛戦はウィラー軍の勝利を以て終結するのであった。


















 そして、大樹広場に戦いを終えた戦士たちが集まる。

 エメリナ大神殿の鐘楼から援護射撃をしてくれていたステラも合流した。



「みんな!!」


「メリエルちゃん、お疲れ様」


 北街区の戦場から戻った私達をメリエルちゃんが迎えてくれた。

 一緒に居るのは……



「此度のウィラーの危機……皆様方の救援がなければグラナを撃退することは叶わなかった。心より感謝申し上げる」


 ウィラー国王メルド陛下……つまりメリエルちゃんのお父さんだね。

 戦装束に立派な鎧を纏い堂々とした様は、流石に一国の王の風格を感じさせる。

 あのメリエルちゃんのお父さんだから、もうちょっとゆるい感じの人かな〜……なんて思っていたのは秘密だ。



「本当に……間に合って良かったです」


 感謝の言葉をかけてくれた彼は、私達一人ひとりと握手を交わす。




 そこへ、少し遅れてやって来たリナ姉さんとメリアさんがやって来た。


「いや〜……あの原生林だったウィラー大森林にこんな立派な都市が出来たなんて、感慨深いわね〜」


「地上の様子は偶に見てたんでしょう?」


「そうだけどさ、やっぱり実際にこの目で直接見て回るのは違うよ〜」


 まるで世間話のようなノリでのんびりと。



 大樹広場にいた殆どの人が、リナ姉さんの登場に合わせて跪き頭を垂れる。

 メルド陛下でさえもだ。


 というか、突っ立ったままなのは私だけ……



 ハッ!?

 ……しまった。

 乗り遅れた!!


 それが普通の反応だよね……

 今からでも同じようにしたほうが良いかな?


 しかし、リナ姉さんは居心地悪そうに言う。



「あ〜……そういう堅苦しいのはいいから。ホラ!皆顔を上げて!!立って立って!」


「ふふ……相変わらずこういうのは苦手なのね、リナちゃんは。ほら、エメリナ様がこう言ってるのだから、皆立ちなさいな」



 メリアさんがそう言うと、皆は恐る恐ると言った風に立ち上がる。

 そしてメルド陛下が代表して感謝の意をあらわす。



「エメリナ様……いと尊きお方にお目通り叶ったこと、真に光栄でございます。この度は、ウィラーの多くの兵と民の命を救ってくださり心より感謝申し上げます」


「私は最後の最後で少しだけ力を貸しただけ。カティアちゃん達が頑張ってくれたから……もちろん、ウィラーの者たちの頑張りでもあるわ。みんなの力で勝ち取った勝利よ。ねっ?メリア」


 そう言ってリナ姉さんは、メリアさんに水を向ける。


「そうね。みんな本当によく頑張ってくれたわ。力を合わせて、良く持ちこたえてくれた。ウィラーの裔の者たちの頼もしい事……嬉しく思うわ」


「メリエルから聞いたときは驚きましたが……。まさか、初代女王陛下にお会いできる日が来ようなどとは夢にも思いませんでした」


「私は本人じゃなくてコピーだけどね。……こうしてリナちゃんや私が表舞台に出てきたのは、今まさに時代が動こうとしているという事」


 時代が動く……そこには様々な意味合いが込められているだろう。

 メリアさんのその言葉は、誰もが実感を持って納得するものであった。



 そうして、皆がお互いの健闘を称え合っている、その時……









「お姉ちゃん!!!」


 メリエルちゃんが叫び声をあげた。

 彼女の視線の先には……お付きの人に支えられて、こちらにやって来るメリエナさんの姿が。

 すこしやつれてはいるけど、瞳には力強い光が宿り笑顔が溢れていた。


「メリエル……!」


「お姉ちゃん!!」


 二人は、ひしっ!と抱き合って喜びの涙を溢れさせる。

 私も思わず貰い泣きしてしまう……



「メリエル……少し見ない間に、こんなに立派になって……ほら、泣かないで。」


「ぐすっ……カティア達が、助けてくれたから」


「そう……良いお友達に恵まれたわね」


「うんっ!!」





 こうして……新たな伝説の始まりの一幕は、姉妹の感動の再会で幕を下ろす。


 だが、これは序章に過ぎない。


 今回初めてグラナ軍がカルヴァード大陸内で軍事行動を取った。

 今後、本格的に侵攻が始まるのは想像に難くない。





 だけど……



 今、私達の眼の前で喜びを分かち合う姉妹の姿。

 確かな絆が、そこにはあった。


 苦難を乗り越えた先にある喜び。


 これから先に訪れるであろう戦いで必要なのは、希望を捨てずに最後まで諦めないこと。



 そんなことを教えてくれる光景だった。





ーー 第十三幕 転生歌姫と生命神の祈り 閉幕 ーー

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