第十三幕 55 『森都防衛戦9 意地』
………
……
…
「……何だ!?これはっ!?」
ブレイグ将軍の驚愕の声が戦場に響く。
かく言う私も驚きで声が出ない。
あの瞬間……
ブレイグ将軍の大技を躱すのは不可能と判断した私は、ダメージを負う覚悟でリヴェラを大盾形態に変化させて凌ごうとした。
そして、私が紅い光の奔流と衝撃波に飲み込まれそうになった、まさにその時……
「これは……木?」
目の前にあるそれは、私を護るように突然石畳を突き破って生えてきた木……のように見える。
もしかしてこれは……
『精霊樹の木の根だよ、カティア』
私の疑問に答えてくれたその声は……
「やっぱり……メリエルちゃんだね?でも……一体どこから?」
声はすれども姿は見えず。
精霊樹って言ってたけど、これが木の根なら……本体は相当な大きさのはず。
……と、そこまで考えて分かった。
ちらっ、と背後を振り返ると、ここからでもよく見える巨大な樹。
あれは大樹広場のシンボルである御神木と聞いたけど、多分あれがメリエルちゃんの言う精霊樹なのでは?
その私の予想を裏付けるようにメリエルちゃんは言う。
『私自身は大樹広場にいるんだけど、今の私の感覚は精霊樹と一体化してるみたい。森都中に張り巡らされた精霊樹の根を通じて、現在の戦況が手に取るように分かるの』
おおぅ……この娘は一体どこまでパワーアップするのか……
「す、凄いね、メリエルちゃん……助かったよ!!」
『うん!他の皆も順調に押し返してるし、ステラも頑張ってくれてる。私も……纏めて魔物もグラナ兵も叩き出してやるんだから!!』
いや、頼もしいね。
やっぱりウィラー大森林では、メリエルちゃんは無敵なのでは……?
『グォーーーッッ!?』
『ギィアーーーッッ!!?』
「うわぁーーっっ!?」
「木の根が襲って……ぐわっ!?」
街路の至るところから飛び出してきた木の根が魔物たちを貫き、グラナ兵達を打ち据える!!
一応人間相手には手加減しているようだ。
これが全ての戦場で起きているのなら……もはや趨勢は決したか?
「くふっ……くははははっっ!!」
それまで、あまりの事態に呆然としていたブレイグ将軍が、突然大きな声を上げて笑い出した。
だ、大丈夫かな?
「ふふふ……よもや神の眷族の力がここまでとはな。いやはや……俗人凡人ごときでは到底抗えるものではなかったか」
……いや、あなたは十分こっちサイドだと思うけど。
「でしたら……降伏してもらえますか?」
私は今一度その問いかけをする。
例えブレイグ将軍一人が強力な力を持っていても、事ここに至っては戦況を覆す事は出来ないだろう。
「……いや、まさかな。おめおめと敵に降伏することなど有り得ぬ。だが……お前たち!!俺に付き合うことはない!!命を無駄にするな!!お前たちは武器を捨て投降せよ!!」
「将軍……!しかし!」
「私達も最後まで戦います!!」
「ならん!!これは命令だっ!!」
……あくまでも自分自身は武人として最後まで戦うつもりか。
それでも部下は投降させようとするあたり、やはり高潔な人物なんだろう。
……だったら。
私も覚悟を決めて、戦いに決着を付けようじゃないか。
さっきはメリエルちゃんに助けられたけど……
「メリエルちゃん。ブレイグ将軍とは、私が一対一で戦うよ」
暗に、手出し無用と言う意志を込めて言う。
『カティア……分かった!!男と男の真剣勝負に、これ以上余計な手出しはしないよ!!』
……いや、私は女ですがな。
ま、確かに……これは【俺】の意地なのかもしれないけど。
「……まこと、女にしておくのが勿体ない程の武人よな。かつての英雄王に勝るとも劣らぬぞ」
「男とか女とか、この場では関係ないことでしょう?」
「ふははは!!すまん、その通りだな!…………礼を言うぞ」
礼を言われる筋合いは無いね。
ただ単に、お互いの意地を通すだけの話だ。
さぁ、ここからは……もう語るべき言葉はない。
後は剣と拳をぶつけ合うのみ。
そして再び激戦が始まる。
今度こそ雌雄を決するために……!
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