第十三幕 35 『魔獣』
「メリエルちゃん、本来だったら森の入口から森都まではどれくらいの行程なんだ?」
イスファハン王子が問いかける。
最初の予定では竜籠でひとっ飛び……だったのだが、それも出来なくなった。
更に、街道もなく木々が密集してるため馬車も使えないのでは、こうして地道に歩いていくしかない。
もう、かれこれ数時間は歩いてきただろうか。
森の入口から変わらない光景……光の回廊が続いていた。
「徒歩で街道を進むなら……日の出とともに出発したら日没前くらいに到着する感じかな?普通は途中の宿場に泊まって2日かけて行くみたい」
イスファハン王子の問にメリエルちゃんが答える。
私はその話から大体の距離を予測する。
「10時間くらいかな?途中休憩を入れるとして……歩く速さは大体4km/hと考えると……大体30km前後くらい?」
「あ、うん、そのくらいだと思う。宿場は10kmおきにあって、森の入口から森都の間には確か二つあったとおもうから」
「そう言えば気になってたんだけど……結構街道に人の往来があったと思うんだけど、その人たちはどうなったのかしら?」
ステラの疑問は私も気になっていた。
「……ダンジョン化(?)したのが夜だったのなら、街道を往来する人もそんなにいなかったと思うが……」
「そもそも、その宿場とか街は今どうなってるんだろうな?」
「それは分からない……でも、巻き込まれた人が居ないと良いのだけど」
宿場や街がどうなってるかも分からないけど、まだそこに居たほうがマシだと思うんだよね。
とにかく、この光の回廊が街道をなぞるものなら……そろそろ最初の宿場があってもおかしくないはずだ。
そう思って更に進もうとするが……私は何らかの気配を察知した。
今回のパーティーメンバーだと斥候役は私が担当することになる。
ロウエンさん程ではないけど、そこそこ熟練の斥候くらいの実力はあると自負ししているところだ。
だけど、私が皆に警告を出そうとしたとき……メリエルちゃんが先に言う。
「……何かいるみたい。この先すぐのところ。魔物かな?」
「気配を感じるの?メリエルちゃん?」
「ううん、森の木々が騒めいて……何となく教えてくれてる感じがするの」
お〜……凄いね『
まさに森の中は彼女の
「私もちょうど気配を察知したところだよ。大きな気配が一つ。魔物だと思う。ゆっくり近づいてくるね」
「よし、いよいよ戦闘か。腕が鳴るな。同じような風景で飽きてきたところだったんだ」
「不謹慎だぞ、イスファハン殿。……まぁ、気持ちは分かるが」
イスファハン王子とジークリンデ王女が、そう言いながら武器を抜く。
イスファハン王子はオーソドックスな長剣、ジークリンデ王女は波打つ刃が特徴的な両刃大剣……前世で言うところの『フランベルジュ』だろうか。
前衛はその二人にテオも加えた三人だ。
私はリヴェラをいつものように薙刀にさせて中衛、遊撃のポジション。
ステラは弓を構えて後衛。
魔法支援・魔法火力のメリエルちゃんも後衛だ。
それぞれが戦闘態勢をとって、何者かが現れるのを待つ。
やがて光に照らされた森の奥から姿を現したのは……
『ぐるるるぅ……』
「こんなところまで伝説に忠実じゃなくても良いのに」
「本当だね」
メリアの伝説の序章、彼女たちが夜の森で遭遇して激戦を繰り広げたと言う魔獣。
獅子の頭と胴体、肩口から山羊の頭が生え、尻尾は蛇と言う異形の獣……キマイラ。
ギルド指定の脅威度ランクA〜A+相当の強敵だ。
やつは私達に対峙すると、唸り声を上げて威嚇したあと、大きく息を吸い込む動作を見せた!
「『守護聖壁』!!」
ブオーーーーッッッ!!!
メリエルちゃんの結界が私達を包むのと、キマイラの火炎のブレスが放たれるのは殆ど同時だった!
「うおっ!?いきなりかよっ!!」
「ナイス判断だ、メリエルっ!!」
「固まるとブレスが来る!!後衛に行かないように引き付けながら散開して取り囲むんだ!!」
「後衛の二人は私が護るから!前衛は攻撃に集中して!!」
夜の森の静寂を破り、激戦の幕が上がる!!
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