第十三幕 20 『決着の地は?』
その後はスムーズに協議が開始される。
最初にエフィとシェラさんに関する疑念を晴らすことができて良かったと思う。
ジークリンデ王女とアルド大公には感謝だ。
今回の会談を開催した趣旨、即ちグラナの侵攻が近いうちに行われるであろうと言う事についての認識共有。
前線各国は当然戦力を整えて侵攻に備えるのはもちろん、グラナとの国境を持たない国々も戦力の派遣や物資の融通などを積極的に行うことで一致。
グラナの内情についてはエフィや彼女の側近から説明が行われた。
現在の敵戦力については、『黒魔巨兵』がどれだけ配備されるのかがハッキリと断定できないが、少なくとも通常兵の戦力や練度などについてはエフィたちが知る範囲で共有される。
グラナ国内の地勢などについても。
それに基づく侵攻時期やルートの予測が議論され、戦力配置などの具体的な調整は会談終了後に各国軍部高官が早急に協議を行う事に。
そして、話し合われたのは国境付近の戦力強化だけではなく……
その話を議題に上げたのはステラだ。
彼女はアダレットの代表者だが、若輩であるため本国からやって来た高官も同席しているのだが、代表として自分の言葉でしっかりと発言する。
「国境付近の戦力強化は最重要かと思います。しかし、前線以外の国内情勢にも目を光らせておかなければなりません。かつて、我がアダレットが犯した過ちを繰り返さないように」
『過ち』と彼女は言ったが、それは罪悪感に囚われている訳ではなく、あくまでも未来を見据えた言葉であることが分かった。
その言葉には、当事者の一人とも言える父様が応える。
「ステラ王女の言うとおりだな。イスパルやレーヴェラントでは、実際『黒神教』が暗躍していた事であるし、つい先日のアクサレナでの事件もある。国内の不穏な動きにも十分な監視が必要だ」
「派遣によって国内戦力の低下が問題になるのであれば、徴兵による一時的な兵員増強や、これまで以上にギルドとの連携強化を図らねばなりませんな」
戦線維持のために国内が手薄になるのは望ましくない。
ただ、国内の事であれば具体策はそれぞれの国での検討となる。
この場では危機感の共有と、黒神教の動きが見られた場合などの情報連携強化を行う事で一致した。
それから、様々な議題についての検討結果が採択され、あるいは実務者レベルでの協議に申し送りとするものなど、実りある会議が行われる。
そして、最後の議題となったのが……魔王復活の可能性と邪神に関する話だ。
これについては、私達に話してくれたのと同じようにシェラさんから300年前の顛末について語られる。
魔王は滅んではおらず封印されていたこと。
その封印が既に解けている可能性があること。
これらの話については事前に共有はされているが、当時実際に戦った者から語られるその事実は、特に説得力があっただろう。
「魔王の復活……これは調律師の言動からして間違いないと思います。であれば、グラナからの侵攻が行われる場合……その軍勢の中には、おそらく魔物が混じるはず」
それこそが魔王の異能だ。
伝説で語られる魔物を自在に操ると言うのは、事実だったということだ。
「それに加えて、調律師を始めとした魔族たちも、それぞれが強力な戦力でしょう」
「シェラ様は……調律師以外の魔族はご存知無いのでしょうか?」
円卓の代表者の一人から質問が上がる。
調律師はシェラさんの300年前からの因縁の相手だし、何度も戦ってきてるから……それこそ先日も戦ったばかりなので、その恐ろしさは十分に分かっている。
その前に相対した獣騎士や奇術師も恐ろしい敵だった。
当然、他の魔族の力も知っておきたいところだ。
エフィの情報によれば、残る『七天禍』は……『調律師』『薬師』『軍師』『占星術師』『魔剣士』だ。
「調律師以外の魔族……七天禍の殆どは、ここ二十年ほどの間に調律師が集めた者達です。生憎とその実力のほどは、はっきりとは分からないですが……おそらくは、これまでに倒している獣騎士や奇術師とそう変わらないと思います。ただ……『軍師』は300年前から存在してます」
「え……!?だとしたら……この300年の間、そいつは何をしていたんでしょう?」
「それは分かりませんが、彼と調律師は魔王が最も信頼を置いた側近なのは間違いありません。私は直接相対したことは無いのですが、どうやら直接戦闘に長けたタイプでは無かったようです。『軍師』の名から察するに、軍略に力を発揮する異能なのではないか……と、当時はテオフィール達と話をしていました」
この間の事件で調律師に撤退指示を出していたところを見ても、こちらの状況を把握していたのは間違いない。
それも、その異能の一端なのかも。
「エフィメラ殿は、七天禍の情報はお持ちでは無いのですか?」
「申し訳ありません。黒神教の幹部に関する情報は、たとえ私達皇族であっても分からない事の方が多いのです。精力的に活動していたヴィリティ……調律師はともかく、他の幹部は……。分かるのは『調律師』や『軍師』などの呼び名くらいですね。……あぁ、いえ、一つ分かってることがありました」
一端そこで区切ってから、エフィは何かを思い出すように続ける。
「黒神教の総本山はグラナの帝都パニシオンにありますが、七天禍はそこではなく、彼らの『聖地』を拠点にしている……と、聞いたことがあります。それは黒神教発祥の地、『黒き神』が眠るとされる場所です」
「300年前の魔王との決戦の地ですね。場所が分かれば良いのですけど……」
やはり、この時代においてもそこが決戦の地となるのだろうか。
『黒き神』がリュートが予言した邪神なのであれば、全ての決着はそこで着くのかも知れない。
その地がどこにあるのかが分かれば……
もしこの先で魔族と戦うことがあれば、それを聞き出さなければ……そう思うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます