第十二幕 52 『続続・集結する力』


 闇と光がせめぎ合う。


 調律師が放つ闇の波動は虚無の如き漆黒となり、私が放つ滅魔の光を以てしても打ち払う事が出来ない。

 あの黒い波動が彼女を滅魔の光から護っているのは間違いないだろう。



「……何故、私が『調律師』と呼ばれているのか。教えて差し上げましょう」


 彼女がそう言うと、先程から鳴り響いていた甲高い金属音がいっそう強くなる。



「あらゆるモノには固有の『音』がある。それを『調律』すれば……整えることも乱す事も思いのまま。その対象に干渉することができる」


 ……そうか、それが『異界の魂』を意のままに操るという異能の正体か!!



「その対象は……あなた達人間も例外ではありません!!」


 音がますます大きくなる……!


 そして……身体から力が抜けていく!?



 不味い!!

 何とかしないと皆弱体化させられてしまう!



「[消音]!!」


「[風璧]!!」


 音に干渉すれば効果を乱すことが出来るはず……そう考えた私や姉さんが魔法を行使するが……



「無駄ですよ。『音』と言うのは、あくまでも例えですから」


 調律師の言う通り、効果があるような感じは全くしなかった。



「……どうやらカティア姫以外にも、あの厄介な[絶唱]を使える者がいるようですが……例えその効果があっても関係ありません。徐々にあなた方の力は失われ、いずれは立つことも困難なほどまで弱体化されるのです」



「くっ!![鬼神降臨]も発動しねぇ!!?」


「くっ……」



 父さんも、父様も……他の皆も武器を取り落として、中には立つこともできずに膝を着く者も……


 私も、もう立っているのがやっとだ。

 これはヤバいよ……

 このままじゃ……全滅しちゃう!?


 何とかする方法は無いのか……!




「さて。さしものあなた達も、こうなっては為す術もないでしょう。先ずは目障りなシギル持ちから死んでもらいます。最初は……あなたです」


 そう言った調律師が見た先にいるのは……ステラ!?


「!!」


 後衛で支援に当たっていた彼女は周りに誰もおらず孤立している!


 何とか動こうとする私を後目に、無情にも調律師は魔法を行使し……巨大な火球が一直線にステラへと向かっていく!!



「ステラーーーーッッ!!!」



 私やルシェーラ、シフィルの絶叫が虚しく響き渡る!!

 彼女が目を瞑ったのがまるでスローモーションのように見え……


 そして……!













「させるかよっっ!!!雷疾歩ライトニング・ステップ!!!!!」



 まさに大火球がステラを呑みこもうとしたその瞬間!!


 どこからともなく現れたフリードか、彼の切り札である超スピードの踏込でステラを抱き抱え、ギリギリで回避した!!



「フ、フリード君!?」


「あ、あぶね〜っ!!?間一髪だぜ……」



 良くやった!!

 フリード!!


 だけど……!



「っ!!何だっ!?力が抜ける……!?そうか、これで皆動けねぇのか……!!」



 おそらくは調律師の異能の範囲外から一気に近付いたので、弱体化する前にステラを救出出来たのだと思うが……



「……ふふ。そうなってしまえば同じですね。結局は時間稼ぎにしかなりません。さぁ、今度こそ」


「くっ……!」


 再び狙われたフリードは、自身が盾になるようにステラを抱き寄せる。


 調律師が再び魔法を発動…………と思ったその瞬間!!



「……!?[滅雷]!!」



 ドオンッッ!!!



 自身に向って飛来した何か・・を迎撃する調律師。



 更に……!!



「[輪転回帰]!!」



 時間差で襲来した……恐らくは魔法による雷撃や火球を結界魔法で防ぐ。



 攻撃の出どころは……

 あそこかっ!



 戦場となっている野外訓練場の遥か端の方、巨大な弩砲バリスタを操作するのはスレイン先生。

 そしてその傍らには次の魔法を放とうとしているレティとリーゼ先生。



 それだけではない。


 学園の教師、戦う力を持った生徒たちも……

 そして、アリシアさんの歌声が彼ら彼女らの力を極限まで高めている。


 黒い波動の範囲外、調律師の異能の力が及ばない訓練場の外周に集結した彼らから、調律師に向って一斉に攻撃が行われる!!!



 矢や魔法が次々と調律師に襲いかかる!


 しかし、彼女はそれらの尽くを躱し、迎撃し……どれ一つとして届くことがない……




「……この程度の攻撃。躱す程のものではありませんが……中々に鬱陶しいですね…………っ!?」



 その時、無数の攻撃に晒される調律師に肉薄する者がいた!!



「せやぁーーーーーっっ!!!」



 矢や魔法が飛び交う中、それの間を縫うようにして飛翔した少女ミーティアが滅魔の光を纏わせた双剣を振るう!!



「くっ!?」



 これには流石の調律師もたまらず、余裕だった表情を歪ませて回避に専念せざるを得ない。


 て言うか……何でミーティアは動けるの!?



「やっと動けるようになったよ。あなたのソレは一度見てるけど……『音』が少し違ったから手間取っちゃったよ」


「……なるほど。貴方だけは他の人間と少々『音』が異なりますからね。しかし……それで元々効果が薄かったとは言え、一度見たからと言って私の『調律』を逃れるとは」



 そう言う事か……!


 ミーティアの身体は『神の依代』だし、そこに宿る魂も私達とは成り立ちが異なる。

 だから、私達を弱体化させるための『調律』は効果が薄かった……



 私達が動けないこの状況……ここは彼女や学園の皆に希望を託す他は無いのか……!?

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