第十二幕 33 『策士』
暗殺組織『黒爪』に関する情報について、エフィメラさんが話を始める。
「『黒爪』とは……元々、黒神教において裏の仕事を請け負っていた下部組織に源流があります。国外において工作活動を行うために分離独立したのが『黒爪』なのです」
『黒爪』が黒神教と関わりがあるのは明白だったので、それは特に驚くべき話ではない。
「カティア様たち
それもそうだろう。
そうじゃなければ暗殺なんてする必要ない。
おそらくは、『異界の魂』や魔族に抗し得る存在として認識されてるのだろう。
特に私なんか、彼らにとって天敵みたいな能力だろうし。
「それで、彼らの現在の拠点ですが……」
「エフィメラ様。それは私から説明申し上げます」
「そうですね……お願いできますか」
「はい」
そう言ってエフィメラ様の説明を引き継いだのは、アグレアス侯爵だ。
彼が説明するということは……アグレアス侯爵家の関連施設とかなのかも。
「我が家が所有する倉庫に黒神教の地下神殿へと通じる入り口が隠されていたのは、カティア様もご存知かと思います」
「ええ。直接この目で見てますから。王都地下に、あれだけの施設がダンジョン以外にあるとは……驚きました。あれは、何なのですか?」
「申し訳ありません、あの地下神殿の由来は私も知らないのです。分かっているのは、神代以前より存在していたと言う事と……これもどういう経緯だったのか分かりませんが、300年前からその管理を我が家が任された、と言う事です」
結局、あの神殿が何なのかは分からないのか……
だけど、今はそれは関係ない。
それよりも、この話をここで出してくるということは、黒爪の拠点と関係があると言うことなのだろう。
「あの地下神殿ですが、カティア様達が発見された部分は一部分でして……未だ発見されていない部分がございます」
「……隠し部屋、と言う事ですか?」
「そうです。魔法的な仕掛けではないので、それと知らなければ発見は困難です」
なるほど。
入り口が難解な魔法の隠蔽によって隠されていたから尚更か。
あれだって、私の
だから、発見した地下神殿でも他に隠されたものがないか……それはティセラさんの協力のもと行われていたが、特に発見は無かった。
だが、魔法によらない仕掛けの存在に気が付かないのは致し方がないところだろう。
「そう言えば……ミーティアの誘拐に、あなたは関わっていないのですか?」
「あれは『調律師』がミーティア様に興味を持った事が発端で起きた事件で、私は直接は関わってません。表立っては動けませんでしたが、それとなく誘導しようとは思ってたのです。……出る幕はありませんでしたが」
苦笑しながら彼は言う。
そして、さらに教えてくれたところによると……私の暗殺指令は受けていたのだが、大した実力もないチンピラのような者たちに仕事を依頼するとかして、のらりくらりと躱していたとのこと。
と言うか、敢えて自分の名前を出させることで、敢えて身動きし難い理由を作ったのだとか。
う〜ん……策士だわ。
「でも、今もあの倉庫や地下神殿は監視されています。あそこを拠点にするなら……どうやって出入りを?」
「地下の隠し通路の他、地上に直接出入りする通路もあるのです。そして、それは……巧みに偽装しておりますが、実質的にアグレアス家が所有する別の倉庫にあります」
実は、あの事件の後のアグレアス家の処遇はまだ決定していない。
証拠固めが難航していると言う点と、アグレアス家の他の者たちの関与についても慎重に調べを進めているためだ。
今のところは侯爵単独の企みであったとの見方が強く、現在の家督は暫定で奥さんが継いでいたはず。
最終的には、爵位剥奪とまではいかないが、降格は確実だろうと言われていた。
今回、事実が判明したとことで再び議論が必要になりそうだけど……
それは置いておくとして、侯爵家所有の資産などにも当然捜査の手は入ってる。
だから、直接的に侯爵家所有の建物なんかは監視下におかれてたりするので、後ろ暗い連中が利用するのは難しいだろう。
「こう言った場合を想定したセーフハウスのようなものを幾つか用意してるのですが、そのうちの一つを奴らが押さえて利用した……というわけですな。ですが……」
「あなたの死は偽装だから……そう言った者たちの動きが無いか秘密裏に監視していた。つまり、罠を張っていた……と言う事ですね?」
「その通りです」
二重スパイだということがバレるリスクが高まったので、死を偽装した上で、かつて自身が手引して亡命させていたエフィメラさんの元に身を寄せて姿を隠した。
その実、黒神教の動きは逐一監視しており、今回それに黒爪がかかった……
う〜ん……重ね重ね、策士だねぇ。
これは父様にはしっかり説明をして、頼もしい協力者であることを分かってもらわないとね。
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