第十一幕 33 『樹海の王』

 辺りの様子に注意しながら慎重に森の中を進む。

 相変わらず奇妙な気配が漂っていて気が休まらず、歩くだけでも精神的に疲れる。


 そして、どこまで進んでも変わらない景色。

 どれくらい歩いたのか、時間の感覚も曖昧になってきた。


 多分、数時間は歩いたと思うのだが……



「…意外なほど魔物に遭遇しませんわね?」


「そうだな。だが、視界も悪いし気を緩めることは出来ないな…」


「でも、ずっとこの調子じゃあ…気が滅入っちゃうね」



 魔物に遭遇しないのは悪いことでは無いと思うのだけど、どうにも嫌な雰囲気だ。

 気を紛らわすために私はミロンに話しかける。

 …今はミーティアの頭の上にちょこんと座っていて、何だか癒やされる光景だ。


「ねぇ、ミロン?道案内は出来ないって言うけど、何かアドバイスくらいはしてくれないの?」


「ふむ……そうですね、では少しだけ。この階層は少々特殊なのですよ」


「まぁ、それは見れば分かるけど」


 どう見ても地底とは思えない景色な時点で、少々どころかかなり特殊だろう。


「それです。今目の前に見えてる風景。その中にこそ答えがあります。一つ言えることは、この森を突破しなければ次の階層に行くことは出来ません」


「目の前の風景に答えがある……?」


「何かその言い方だと、普通の方法ではこの森は抜け出せないと言う風に聞こえますね…」


 うん、ケイトリンの言う通り、確かにそう言う意味に聞こえるね。


 今はゼアルさんの誘導で魔素の流れを辿っているのだが……


「ゼアルさん、魔素の流れに何か変化はありますか?」


『いや……特に変わったところはねぇな』


「……これまで歩いてきたところから見ると、どうも大きな円を描いてるようッス。もうすぐ一周するんじゃないッスかね?」


「円を?……じゃあ、このまま歩いていてもダメって事?」

 

「そうッスね……まぁ、もう少ししたらそれも分かるッス」


 また何か目印でも付けてるのかな…?

 とにかく、今はロウエンさんの言う通りに進むしかないか。





 そうして、更に進むと……


「ああ、やっぱりッスね。最初に転移してきた地点に戻って来たッス」


 そう言いながら指さしたのは、木の枝に括り付けられた白い布。



「無限回廊の時も思ったけど、ホントいつの間に……」


「へへ、退路確保は斥候スカウトの基本ッス。これまでの道筋も分かるようにしてるッス。ケイトリンも似たようなことはしてたみたいッスよ?」


「そうなの?」


「はい。まぁ、私は円を描いて戻ってくる事までは分かりませんでしたけど」


 どちらにしても、二人とも流石だね。

 私も一人だったらもう少し慎重に行くけど…今回は完全にお任せである。

 それくらい信頼してるって事だ。




「でも、結局どうすれば良いのでしょう?」


「…魔素の流れは道標にはならない、と言う事ですわよね?」


『いや、そうとは言い切れねぇんじゃないか?要するに、魔素の流れは渦を巻いてるって事だろ?』


「…なるほど。渦の中心となってる場所なら、いかにも何かありそうではあるな…」


 確かにそうだね。

 他に指針があるわけでもなし、今は考えられるだけの事をやらないと。



「それじゃあ、円の中心を目指すという事で…方角は分かります?」


「円と言っても、それが分からないくらいルートは直線に近かったッスからね。これまでのルートと直角方向…こっちッス」



 そして、今度はロウエンさんが指し示した方向に歩き始める。




















 方向を変えて再び歩き始めてから暫くすると、ずっと漂っていた奇妙な気配が濃くなったような気がした。

 しかし、やはりはっきりとした原因は分からず、やや警戒を強めながら進むしかなかった。




 だが……遂にハッキリとそれと分かる変化が確認できた。




「これは……」


「大きい木なの!」


 これまで見てきた樹々とは一線を画す大樹が唐突に目の前に現れた。


 他の樹々もそれなりに大きく目算で2〜30メートルはありそうなのだが、目の前に聳え立つ大樹はそれよりも更に倍以上の高さに見える。

 当然、幹の太さもかなりのもので、大人が数十人手を繋いでようやく囲めるかどうか。


 まさに樹海の中心に佇む王者の風格が漂っていた。




 圧巻とも言える光景に、みんな暫くは息を飲んで魅入っていると……


 突然、どこからともなく声が響く。



『よくぞここまで辿り着いた、勇敢なる者たちよ。先に進みたくば我が試練を超えてみせよ』



 ……どうやら、当たりだったみたいだね。

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