第十一幕 31 『ディープ・ダンジョン』


「なっ!?」


「転移した!?」


 迷宮妖精のミロンから話を聞こうとした時、これまで居た石造りの部屋から全く異る景色に一変したのだった。



「これは……森の中か?」


「空が……見えますわ。ダンジョンの中に居たはずなのに……」


 あまりの出来事に、皆呆然となる。


 これまで探索してきた人工的な通路や部屋とは全く異る風景。

 鬱蒼と生い茂る木々に囲まれた、森の中のようだった。


 そして、空を見上げればそこに天井はなく、木々の間から青い空が見えるのだった。



「ちょ、ちょっと…どういう事!?ミロン、説明して!!」


「これはウッカリしてました……どうやら転移装置ポータルが作動してしまったようです」


転移装置ポータル?じゃあ、ここはまだダンジョンの中だと言うの?だけど、どう見てもここは……」


 転移装置ポータルはダンジョン内の移動に用いられるものだ。

 王都ダンジョンでは、入口付近、及び5階層毎に設置されている。

 一度作動させれば後は自由に転移装置ポータル間で移動が出来るようになるので、ダンジョン攻略には欠かせないものなのだ。



「ここは、第76階層です。第50階層以降は殆ど異界なので……こんな風景ですけど、間違い無くダンジョンの中ですよ」


「第76階層……ハハハ、最深到達記録よりも遥かに深いッスねぇ……」


「も、戻れるのっ!?」


 こんな深部に放り出されて戻れないなんて、冗談じゃない!


 だが、ミロンは無情にも告げる。



「残念ながら…第60階層より後は最深部までポータルはありません」


「そんな……いえ、最深部は何階層なの?」


 最深部の階層によっては戻るよりも進んだほうが良いかもしれない。



「最深部は第80階層になります」


「なら、進んだほうが速そうだけど……」

 

「問題は魔物の強さだな。最深到達記録の……確か第32階層だったか。そこで現れる魔物は殆どがAランクだと聞く」


「そうすると……倍以上深いここだと、Sランクとか出ちゃったりするんですかね?」


 単純に考えればそうなるけど…


 普通にエンカウントする敵が、古龍とか伝説級の魔物だったりするとか……無理ゲーすぎるわ。



「いえ、ボスはそれなりですけど、普通に出現する魔物の強さは30層と大差ありませんよ」


「だったら、まだマシだけど…それでも殆どAランクだと、無駄な戦いは避けたほうが良さそうだね」


 一口にAランクと言っても様々だけど。

 危険な相手には違いない。




「それにしても……完全に想定外だったよ。うぅ…学校の時間までに戻れるかなぁ?公演もあるし……皆も巻き込んじゃってゴメン!」


「私はこれくらいの事は起きるかも、と覚悟してたから大丈夫ですわ。カティアさんとダンジョンの組み合わせなんて…」


「同じく」


「うに」


「ッス」


「私も」


 ……皆、私のこと一体どう思っているのか。

 一度オハナシが必要なのでは?



「あ、それなら多分大丈夫ですよ。ここは殆ど異界と申しましたでしょう?時間の流れが地上よりも遅いはずです」


「…何というご都合主義」


「…あれ?逆だったかな?」


「ちょっと!?」


 ヤダよ!?

 戻ったら50年後でした…とか!!



「ああ、いや、大丈夫です。確かリュート様が……10日くらい過ごしたのに1日と経って無かった、とか言っておられましたから」


「…なら良いんだけど」


 某修行部屋みたいだね。













「まあ、転移してしまったのはしょうがないとして……話が途中だったけど、案内というのは結局何なの?……何となく分かった気がするけど」


「はい、お察しの通り……私の役目は、リュート様の足跡を辿ろうとする方を導く事です。差し当たっては、このダンジョンの最深部までご案内いたします」



 やはりそう言う事か。

 隠し部屋の転移装置ポータルからダンジョン最深部付近まで飛ばされたのだから、そういう事なのだろうとは思った。



 今日は様子見程度のつもりだったんだけど……こうなったら、賢者リュートがこのダンジョンで一体何を見せたかったのか、この目で確かめてみようじゃないか。


 …どのみち、前に進まなければ帰れないのだから。







「……よしっ!みんな行こう!」



 こうして私達は……賢者以外、誰も到達したことのないダンジョン最深部に向かって歩み始めるのであった。


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