第十一幕 4 『ヘリテジアは語る』
…何か記憶が飛んだ。
気がついたらテオのお膝の上だったよ。
やっぱりダメだったのか…
でも!
私は諦めない!
いつかきっと…飲めるようになるはず!(※なりません)
「……無理して飲まなくてもいいだろうに」
「だって…飲みたいんだもん」
呆れたようにそう言うテオに、半ば意地になって返す。
前世でお酒を嗜んでた身としては諦めきれないんだよ。
ハプニング(?)もあったが、いよいよ宴も酣となってきた。
美味しい料理に舌鼓を打ち、楽しく会話で盛り上がる。
私としては、神代の様々なエピソードが非常に興味深かった。
神話で語られるような出来事の事実であるとか、裏話とか……当事者たちから聞ける機会なんてそうそう有るものではないだろう。
そんな賑やかで楽しい時間を過ごしていたのだが…ふと、ヘリテジア様が話しかけてきた。
「…少し、良いだろうか?」
「あ、はい。何でしょう?」
周りが騒いでいても、この方だけは一人静かに聞き役に徹していたのだが…
話が振られれば相槌を打ったりするけど、積極的に会話に入ろうとはしてなかったので、話しかけられたことに少し驚いた。
「……お前の話はエメリールから聞いているのだがな。何やら『賢者』に関わりがあるかも知れぬ…とか」
「え、ええ。でも、実際に私とどういう繋がりがあるのかは何とも…」
前世地球から転移した琉斗が、更にこの世界で転生したのが【俺】なのでは…と言う予想はある。
でも、その確証が無いので結局謎のままなんだけど。
「そうか。……実はな。某は、賢者リュートに会ったことがある」
「…えっ!?」
リル姉さんは直接の面識は無いって言ってたけど。
ヘリテジア様は会ったことがあるんだ…
「そ、それで…どう言う方だったのですか?どんな話をされたのです?」
「…大した事は話しておらぬ。ただ…面白い人物だった故、良く覚えている。何せ異なる世界からやって来た、と言っていたのでな」
うん。
それは記録映像でも言ってたね。
会話の内容からも【俺】本人としか思えなかった。
「彼は…この世界の人間が、その時代において持ち得なかった様々な知識を知っていた。故に、異なる世界からやって来たというのもあながち嘘ではない…と思ったものだ」
う〜ん…異世界転移のお約束、知識チートをやっていたということか。
今から何百年…いや、神代の頃だからもっと前……当然今よりも技術、知識なんかは進んでなかっただろうから、【俺】程度の知識でも有用なものが色々あったのかもしれない。
魔法なんかは神代の方が優れた魔導士が多かった…なんて話もあるから、一概には今の方が進んでるとは言い切れないけど。
「某も、彼の知識には興味を掻き立てられ、彼も某に興味を持った。そしてお互いに様々な話をした」
「そう…だったんですね」
「うむ。それで……その時の記憶を元に、エメリールに彼の魂の質を見定めてもらった」
「えっ!?……そんなことができるの?」
隣で一緒に話を聞いていたリル姉さんに聞く。
「完全ではないけど、ある程度なら」
「そ、それで…?」
逸る気持ちを抑えながら、続きを促す。
だが、リル姉さんは何だか困ったような顔で少し考える素振りを見せてから答える。
「それが…よく分からないのよ。他人の記憶を元にしてもある程度は『見える』はずなのだけど、彼の魂は…何か靄がかかったかのように見通せなかったの」
「そっか…それはしょうがないね」
「ごめんなさいね。彼は肉体ごとこの世界に『転移』して来た…ということが関係しているのかもしれないわね。私もそんなケースは見たことがないから…」
「異世界転移…本当にそんなことが起こり得るのか…」
「自然に発生するってのは、まずありえねえな」
私の呟きに答えてくれたのは、空間神のシャハル様。
と言うか、いつの間にか皆聞き耳を立ててるね…
「魂だけなら…記憶を保持したまま転生ってのは、結構事例があるみてえだけどよ」
レティみたいな例もあるもんね。
「自然に発生し得ない、ということは誰かの意志って事ですか?」
「そういう事になるんだが……例えば、俺が同じことをしようと思ったら、ここにいる奴ら全員の力を借りて、その上で地脈の魔素も根こそぎ使って何とか…ってとこだな」
う〜ん…空間神と言われるシャハル様がそれなら、出来る人なんて居ないのでは…
「まぁ、俺らだって神様なんて言われても、全知全能ってわけじゃねえからな。俺たち以上の力を持つ何者かが地上にいないとも言い切れねえ」
その言葉には、他の神様方も頷いて同意を示す。
始めてリル姉さんに会ったときも同じようなことは言っていた。
でも、こうして地上を去ったあとでも色々気にかけてくれるんだから、私達人間にとっては敬うべき神様には違いないね。
「……ということで、謎は謎のままではあるのだが」
?
どうやらヘリテジア様の話には続きがあるようだった。
「賢者リュートも、自分が何故この世界に転移したのかは非常に気にしていてな。元の世界に未練があるというわけでは無かったようだが、色々研究は重ねていたらしい。そして、この世界でも特異な存在……ダンジョンに目を付けていた」
「ダンジョンに…?」
「ああ。あれは一種の『異界』だ。転移、転生、空間、異世界……そういったものと何か関わりがあるのではないか…そう考えたのだな」
改めて言われてみれば、確かにダンジョンというのは異質な存在だ。
あくまで現実のこの世界に、そこだけまるでゲームシステムが組み込まれているかのような…
「某が賢者について知ってることはそれくらいだな。参考程度にしかならんと思うが」
「い、いえ!凄く有意義な話だったと思います。ありがとうございます!」
謎は謎のままだけど、こうして少しづつヒントを積み重ねていけば、きっといつかは真実が明らかになる…かもしれない。
それにしてもヘリテジア様って……無口な方かと思ったら、結構饒舌なんだね。
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