第十幕 15 『待ち伏せ』
街道はやがて山道となり、峠越に向けて勾配が険しくなっていく。
両側が急斜面に挟まれたV字谷となっていて、谷の底を流れる渓流に沿って道は続く。
谷底だと風の通り道になるから、本来であれば雪の吹き溜まりになるところだが、街道はしっかりと除雪がされているようだ。
そのおかげで進行スピードは思ったほどには落ちずに済んでいる。
麓付近では薄っすらと積もるだけだった雪は、標高が高くなるにつれ段々と深くなっていく。
今はもうあたり一面が真っ白に染まっていた。
「ふわ〜…おそとはまっ白だよ、ママ!」
「そうだね……う〜、がくがくぶるぶる…寒いよぉ…」
「そんなに毛布を被ってるのに、まだ寒いの?この馬車は割と防寒もしっかりしてるはずなのだけど…」
外套を着て、それでも足りず毛布を数枚被ってるのにまだ寒い。
私自身、こんなに寒さに弱いとは思わなかった…
前世の『俺』の記憶からすれば尚更だ。
確かに女性は寒がりの人が多いイメージだが…ここまでとは。
うう…かくなる上は…
「[熱風]!……あ〜、生き返る…」
「あったかいね〜」
「でも、ずっと使い続けられる訳じゃないでしょう?」
「大丈夫です、定期的に使いますから。魔力消費もそこまでじゃないし……もっと早くこうすれば良かった」
まだ峠はまだまだ先で、今もなお山道は登り坂…標高が上がり続けてる。
つまり、これからもっと寒くなるという事だ。
とてもじゃないけど、黙って受け入れるほどの余裕はなかった。
母様もミーティアも平然としているのが信じられなかった。
と言うか、外の人たちはもっと大変なんだよね……魔法が使える人は私みたいに何とかしてるのかもしれないけど。
そうして一行は雪景色の山道を黙々と進んでいく。
異変が起きたのは、あともう少しで峠に至るという所まで来た時のことであった。
コンコン…
今も移動中の馬車の扉がノックされる。
何だろ?
カーテンを開けて窓から外を見ると、ケイトリンが何か話をしたそうにしていたので、窓を開ける。
「どうしたの?」
「…少し、不穏な空気を感じます」
「えっ!?……魔物?」
「詳しくはまだ分かりませんが…この先、街道の両側に多数の気配を感じます。押し殺した敵意のようなものも」
「ほかの皆には?」
「既に伝えて警戒体勢になってます」
相変わらず手際が良いね。
「母様…どうします?」
「最悪を想定して、仮に狙いが私達だとすると…相手はこちらに気がついていると思う?」
「こちらは街道を普通に進んでいるだけですからね…向こうのほうが高所だから、おそらくはもう視界に捉えて待ち伏せしてるかと」
「そうすると、引き返そうとすれば背後を突かれるわね…だけど、このまま進んでも高所を押さえられてると地形的に不利…」
魔物ならともかく、もし相手が野盗なんかだったら高所から弓矢で攻撃されるリスクが大きい。
意図的に落石を起こされたりするのも危険だ。
しかし、ここから引き返そうとすれば、背後から襲われる可能性がある。
どっちにしてもリスクが大きいが…
どうする…?
そんなふうに、私達が決断に悩んでいると…
「カティア」
「あ、父さん?ティダ兄も」
「お前、[暴風結界]は使えねえのか?」
確かにそれなら矢を吹き散らせると思うけど…
「あ〜…私、それ使えないんだよね。風魔法はシフィルが得意なんだよなあ…姉さんは使えないの?」
「アネッサは風魔法は苦手だそうだ」
「それなら私が使えます」
「母様…?」
「私も中途とは言え学院の魔法科出身ですからね。
「お、王妃様!流石にそれは危険ですぞ!」
母様が戦闘に参加すると表明すると、それを聞いたお付きの一人が苦言を呈するが…
当の母様はそんな言葉もどこ吹く風と行った様子。
「私も曲がりなりにもイスパルの端くれです。それに、カティアみたいに前衛に立つわけでは無いのだし…これくらいはさせて頂戴」
う〜ん、流石は武神の国。
王妃様も結構武闘派だね〜。
まあ、母様の言う通り支援に徹してもらえば大丈夫かな…?
「ケイトリン、母様の護衛お願いね」
「…え〜と、カティア様はどうなさるのです?」
「私はみんなと一緒に前線で戦うよ」
「…その格好で、ですか?」
「…あ」
そうだった…今の私はいつもの冒険者の格好じゃない上に、あまりの寒さで着膨れしていたよ。
「まあ、お前は今回は砲台になってろ」
「…そだね」
魔法攻撃でサポートよろ、ってことね。
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