第九幕 46 『伝説の風景』
「よし、これで全班揃ったな……集合!」
最後の班が到達したのを確認したスレイン先生が号令をかけると、思い思いに休憩を取っていた学生達が先生の元へと集まってくる。
「班のメンバーは全員揃ってるか?…大丈夫そうだな。では…皆、よく頑張った!道中トラブルに見舞われた班もあったようだが、こうして全員大きな怪我もなくゴールできたのは喜ばしいことだ」
トラブルのくだりで私の方をチラ見したね。
何か先生も私のことトラブル体質だと思ってるフシがあるね…
自分で問題を起こしたことは無いよ…多分。
「様々な困難を乗り越えることができたのは、皆が協力しあったからこそ…というのは道中を通じて皆よく分かっていることだろう。だが、まだ帰りがあるからな。王都に辿り着くまでが実習だと言うことを忘れずに、最後まで気を引き締めて頼むぞ」
家に帰るまでが遠足だもんね。
帰りは何も起きなければいいなぁ…
差し当たってはメリエルちゃんを迷子にさせない事だ。
「まぁ、折角ここまで来たんだ。よくこの絶景を目に焼き付けてから下山するといい。…ああ、そうだ。最初にゴールした班にはちょっとしたご褒美があると言う話だったが…」
そうそう、そう言えばそう言う話だったね。
何だろ?
ちょっと楽しだ。
「ふむ、カティア班、レティシア班、ルシェーラ班、シフィル班が殆ど同時だったな。では今言った班のメンバーはこちらへ」
そう言われて、私達はスレイン先生の前に集まる。
4班だから結構な人数になる。
「まあ、ご褒美と言っても別に大したものじゃない。もう一泊必要だからな…帰りはお前たちが山小屋を優先的に使って良いぞ」
お、地味に嬉しいね。
テントも趣があって良いけど、やっぱり屋根がある方が安心して眠れるし。
あ、最後の班は罰ゲームなんて話もあったけど……それは発破をかけるための方便で、別にお咎めがあるわけではないとのこと。
と言うことで有り難いお話は終わりなんだけど…先生も言っていた通り、殆どの班は直ぐに下山せずにここで景色を堪能していくことにしたみたい。
もちろん私達もそうだ。
「ん〜…風が気持ちいいね〜」
「ホント。心が洗われるような気がするよ」
「ディザール様が山を斬り飛ばした場所かぁ…まさに伝説の地だね」
「アハハ…流石にそれは大袈裟だと思うよ。いつかお会いしたときに聞いてみるよ」
「……え?誰に?」
ああ…私が神様たちと直接の面識があるのはレティやルシェーラ以外は知らないか。
「ディザール様御本人だよ。何時でもって訳じゃないけど、神界に招いてもらうことがあるから」
「「「……まあ、カティアだし」」」
その納得の仕方は納得出来ないが。
「う〜ん、でも本当に気持ちがいいね…一曲歌いたくなっちゃうよ」
「お!いいじゃない!折角の機会だし、みんなに聞かせてあげなよ!私みんなに告知してくるね!」
「そしたらわたしアリシアちゃん呼んでくるよ!さっき見かけたから!」
「え!?ちょ、ちょっと!?」
止めるまもなくレティとメリエルちゃんは、ぴゅーっと駆け出していった…
何気なく呟いた一言で、何だか大袈裟な話になってきた。
そしてゴメンね、アリシアさん。
でも、大勢の前で歌う経験はしておいた方が良いかも。
将来のエーデルワイス歌劇団の歌姫ですからね!
と言うわけで…急遽、即席コンサートが開かれることに。
ちょうど周りより一段高く石舞台のようになっているところがあったので、アリシアさんと二人でそこに立つ。
なんてお誂え向きな。
ギャラリーは同級生と先生、冒険者の皆さん。
期待の眼差しで始まりを待っている。
「みんな〜!今日は集まってくれてありがと〜!」
「「「うお〜〜〜っ!!」」」
ちょっとノリノリで挨拶してみたら、なかなか良い反応が返ってきたよ。
そうじゃないとね!
「あの〜…何故私まで…?」
「まあまあ、いいじゃない。何れは大人数の前で歌うこともあるのだし。予行演習と思えば」
「は、はぁ…で、でも、緊張しますぅ…」
まあ、そうは言っても彼女は歌い始めれば大丈夫だろう。
天性の歌姫だよ。
「じゃあ何を歌おうかな…」
「えっと…ここはディザール様の伝説の地とのことですから、それに関係する歌はどうでしょうか?」
うんうん、何だかんだ言っても結構乗り気じゃないの。
「よし、それで行こうか!」
と言うわけで、即席のコンサートを始める。
ディザール様を称える曲は荘厳で、勇壮で…低い男性の声の方が合う曲だとは思うけど。
でも、雄大な山並みをバックに歌う曲としては相応しい気もする。
私とアリシアさんの歌声がハーモニーを奏でる。
いつものホールとは違って音の響きは物足りないかもしれないが、開放的で気持ちよく歌うことができるね。
音響代わりと言っては何だが…歌声は山彦となって少し遅れて鳴り響き、まるで輪唱しているかのようだ。
そうして、伝説の風景に私達の歌声によってBGMが加えられ、学生たちは暫し聞き惚れるのだった。
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