第九幕 28 『野外実習〜洞窟探検』

 行方不明(毎度)になったメリエルちゃんを捜索するべく、私達は見つけた洞窟に入っていく。


「ちょっと待ってね…『反唱』からの〜[光明]っと」


 代行の魔符で明かりを灯す。

 持ってきておいて良かったよ。


「なんすか?ソレ?」


「これはね、『代行の魔符』って言うの。便利だよ〜。お買い求めはアズール商会でド〜ゾ」


「はぁ…」



 明かりも確保したし、それでは進みますか。

 今回は斥候役のケイトリンを先頭に、私、ガエル君、フリードと続く。



「あ、そう言えば…戦闘要員とか言ったけど、ガエル君はそれで大丈夫?」


 今回の実習にあたっては、それぞれ護身用のための武器の携行が許されている。

 私も佩剣してるのだけど、ガエル君は流石に大剣を持ってくるのは憚れたのか、普通の長剣を腰に帯びている。


「問題ない。普通の剣もそれなりに使える。それに、洞窟の中ならこちらの方が良いだろう」


「そっか。それもそうだね」


 因みにフリードの武器は刺突剣レイピア護手短剣マンゴーシュだ。

 チャラい割に伝統的な武器を選ぶなぁ…



 洞窟は入り口こそ人一人通れるくらいだったのだが、中に入ると思いの外広い。

 地面もほぼ平で割と歩きやすい…と言うか、これは多分…


「…おそらく人の手が入ってますね、これは」


「だよね…一見ただの自然洞窟に見えるけど…あ、ほら、あそこ煤けてる。多分松明を設置していた跡じゃないかな」


 等間隔にあるのでおそらくそうだろう。

 多分、自然の洞窟に手を入れて、人が歩きやすいようにしていたのだと思う。


「…なかなか鋭い観察力だな」


 と、ガエル君に褒められてちょっと照れる。


「ふ〜ん…するってーと、この洞窟は何なんですかね?」


「さあ?でも、古代の山岳信仰の聖地って話だし、宗教的に意味のある場所なんじゃないかな?…そんな事より今はメリエルちゃんを捜さないと」


 確かに気にはなるけど、とにかく今は前に進まないと。

 幸いにも今のところ洞窟は一本道で、迷う心配はなさそうだ。


 比較的歩きやすいこともあり、私達はどんどん奥へと進んで行った。

















「結構奥まで来たと思うんだけど…う〜ん、ここにはいないのかなぁ?」


 感覚的にはもう数百メートルは進んだと思う。

 平らだと思っていたが、どうやら緩やかな下り坂になっているようだった。


 思いの外大規模な洞窟みたいだけど、迷子になってこんなに奥まで来るものだろうか…

 でも、メリエルちゃんだしなぁ…



「いえ、カティア様。ここで正解だったみたいですよ」


 と、ケイトリン。

 そう言うって事は、メリエルちゃんの気配を察知したのかな…と思ったんだけど。


「これ、見てください」


 指差す先を見ると、そこにあったのは…


「足跡…っすか?」


「ああ、地下水が染み出して泥濘んでるんだ…まだ新しいね」


 壁面からチョロチョロと水が染み出して、地面に水溜りを作っている。

 そこに、小さな足跡が出来ていたのだ。



「大きさ的にはメリエルちゃんの可能性が高いね。じゃあ、このまま進もう」


 手がかりを見つけた事で希望を見出して、前進を再開した。













 更に進むこと暫し。


「ん?何だか段々広くなってきた?」


「ええ。それに…水の気配がしますね」


 水の気配か…そう言えば、さっきも地下水が染み出しているところがあったね。

 そして、その答えは直ぐに分かった。







「これは…」


「スゲぇ…」


 思わず、目の前の光景に息を呑んだ。


 突如として開けた広大な空間。

 目の前には豊かな水を湛えた地底湖が広がっている。

 そして、キラキラと白く輝く滑らかな岩肌の石筍が立ち並び、天井からも氷柱つららのように垂れ下がる。


「鍾乳洞…こんなに大規模な…」


 何という神秘的な世界なんだろう…

 やはり、この洞窟は山岳信仰の巡礼の為のものなんだろう。

 目の前の光景は正に聖地と呼ぶに相応しいものだ。


 しばしの間、誰もが無言でその光景に見惚れるのだった。









「…!カティア様、あっちの方に気配が!」


 ケイトリンのその声で我に返る。

 そうだ、メリエルちゃんを捜さなければ!


「行ってみよう!」


 ケイトリンが示した方向、地底湖のほとりを進んで行く。



 すると、[光明]の魔法のものらしき光が先ず見えて…

 程なくして、探し求めていた姿を視界に捉えた。


「メリエルちゃん!」


 呼びかけると、ハッ!とこちらに振り向いて…


「カティアっ!うわ〜んっ!!怖かったよ〜!!」


 泣きながら私に抱きついてきた。


「お〜、よしよし。もう大丈夫だよ〜」


 私の胸に顔をうずめ(られず)泣きつくメリエルちゃんの頭を撫でながら、小さい子にするようにあやしてあげる。



 そうして、落ち着くまで待ってから、事情を尋ねてみた。



「メリエルちゃん、一体どうしてこんなところに?」


「うう…ぐすっ……それが、山道を歩いてるときに、洞窟の入り口を見つけて…何だろう?って思ってたらいつの間にか中に入っていて」


「うんうん、それで?」


「それで、また皆と逸れちゃうって、慌てて引き返そうとしたんだけど、途中で転んじゃって。そしたら、どっちが出口なのかもわからなくなっちゃって…」


「…マジで筋金入りっすね」


「…それ以前に誰にも気付かれずに逸れるのが謎なんだが」


 それはもはや固有スキルの類だね…きっと。



「まあ、何にせよ無事で良かったよ。皆も心配してるだろうから早く戻りましょう」



 無事にメリエルちゃんを見つけることが出来てホッと一安心。

 さあ、戻ろうか…という時だった。


「…!カティア様っ!何かいます!!」


 ケイトリンが鋭い声で警告を発したのは。



 その声に呼応するかのように、突如として何者かの気配が地底湖より現れた!!

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