第八幕 11 『地下神殿』

 倉庫に突撃した私達は地下に通じる階段が無いか手分けして探すことに。


 あの暗殺未遂事件の際に一時封鎖されていたが、捜査が一旦打ち切りになった事で解除されていた。

 だが、その後も監視の目は緩められることはなく、人の出入りはチェックされていた。


 そんな状況下だったので、封鎖が解除されたあともどうやら倉庫としての通常業務は再開してなかったらしい。

 そのため、私達が突入した時には中に誰もおらず、荷物の類も殆どない、パッと見はもぬけの殻といった感じだった。


 ここへの出入りが監視されていたにも関わらず、ここにミーティアがいるのであれば…つまりそれは、直接内部に転移してきたと言う事になる。



 それにしても…あの事件の時に徹底的に捜索が行われたと思っていたのだが、よっぽど巧妙に隠されていたのだろう。

 どうやってそれを暴き出すか…





「…カティア様。あの辺りに、どうやら目眩ましの魔法が施されてるようです」


 神殿から一緒に来てくれていたティセラさんが、ある一点を凝視しながらそう言う。

 正面入口から真っ直ぐ進んだところ…最奥の壁面近く、一見なんの変哲もない床面だ。


「まさか…その類の隠蔽が無いかは、宮廷魔導士も動員して徹底的に調べたはず…」


 以前よりこの倉庫の捜査を担当したらしい騎士の一人が呆然と呟く。


「無理もありません。これは殆ど一般には知られていない…東方の術式ですから。これを看破するには、その系統の知識がなければ困難を極めます」


 東方の……

 確かに東方には、独自の系統の魔法が存在すると聞いたことがある。


「私は東方出身の友人がおりまして…ある程度あちらの魔法の知識を教わったことがあるのです。前提知識さえあれば…『天より授かりし聖なる銀鏡を以てここに真実の姿を映せ』…[聖銀鏡]!」


 私の知らない魔法だけど…彼女の話からすれば、魔法で隠されたものを看破する魔法なのだろう。


 白銀の輝きがティセラさんの前に集まり、それはやがて姿見ほどの大きな鏡のようになると…パアッと一際眩い光を放つ!



 すると…!



「こりゃあ…」


「こんなものが隠されていたなんて…」



 私達の目の前には、地下へと続く立派な階段が…


 ここにミーティアが…!



「行こう!みんな!」


 意を決して私達は地下へと降りていく。

















 階段は相当に長いもので、相当な深度まで降りて…ようやく最後まで降りたところにあったのは、広大な空間だった。

 照明の魔法が使える者が照らしているのだが…奥の方まで見通すことが出来ないほどだ。




「地下にこんな広大な空間が……」


「これはまるで…」


「ええ、神殿…みたいですわ」


 あれ?


「ルシェーラ、いつの間に?」


「ミーティアちゃんの危機かもしれないのです!急いで馳せ参じましたわ!」


 最初はミーティアの事を妹にしようと画策してたくらい可愛がってたからね。




「だけど…もし、ここが神殿ってことなら、やっぱり…」


「黒神教が黒幕である可能性が高いな」


 私の言葉をカイトが続ける。


 荘厳な柱が立ち並ぶ広大な空間を奥に向かって進んでいるところだ。



「でも、こんなものが王都の地下にあるなんて…信じられませんわ」


「アクサレナは遷都してからまだ300年ほど…それほど歴史が長いわけではないのですが、ここは…」


「あのブレゼンタム東部遺跡の地下都市に雰囲気が似ている」


「じゃあ、神代の?」


「…どうやら話はそこまでのようッス」


 と、ロウエンさんが警告を発する。

 その視線の先には…いつの間にか黒いローブの男が立っていた。

 いや、フードを頭からすっぽり被っていて顔が見えないので正確に性別は分からないけど…かなり大柄なので恐らくは男だろう。


「何やら騒がしいと思えば…まさかここを発見するとはなァ…」


 野太い声はやはり男のものだ。

 その声音は少し下卑たような…人を小馬鹿にした感じがする。



「ここは…一体何なの?それに、あなたは…」


「くくく…こんなとこまで来たんだ、予想はついてんだろ?」


「黒神教か…!!」


「いかにも」


「ミーティアはどこにいるの!?」


「あん?ミーティア…?ああ、ヤツが連れてきたガキか」


 やっぱり!

 こいつらが攫ったのか!!


「…返してもらうよ!!」


 そう言って私達は臨戦態勢を取る。

 だが、私達を前にしても男は余裕の態度を崩すこともない。


「ふん…残念だが、ここから先に進ませるわけには行かねえな」


「この人数相手に、てめぇ一人で相手にできるってのか?」


 エーデルワイスのメンバーの他に、ルシェーラ、ティセラさん、騎士団の精鋭たち…この場には二十名を超える戦闘員がいる。



「はっ!シギル持ちならともかく…たかが人間風情が何人群れになろうともこの俺の相手がつとまるものかよ!!」


 そう言って男は、バッ!とローブを脱ぎ捨ててその姿を顕にする。


 白髪に金の瞳を持つ精悍な顔立ち。

 浅黒い肌の筋骨隆々とした体躯の巨漢だ。



 ヤツが両足を広げて力を貯めるかのように踏ん張ると、強大な闘気と…これはっ!?


「これは…『異界の魂』と同じ瘴気…か?」


 そう、この何とも言えない相容れないような感じは、異界の魂から感じる瘴気のそれと同じものだ。


 その不穏な闘気がどんどん高まって行き、そして…ヤツの身体が変容する!!


「何人かシギル持ちがいるみてぇだからな…最初から全開でいかせてもらうぜ![獣化ゾアントロピー]!!」






 そして…そいつは現れた…!


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