第七幕 38 『武神杯〜準決勝 閃刃vs双蛇剣』

 選手控室のモニターを見ながら、次の試合が始まるのを待つ。

 部屋にいるのはもう私と護衛の二人だけだ。


 ラウルさんも一緒に観戦すると思っていたのだが、大会スタッフに呼ばれて出ていってしまった。



「次はティダさんですか…あの猛者揃いの劇団でもナンバー2の実力者なんですよね?」


「表向きはそう言ってるね…ただ、父さんと大きな力の差があるわけじゃないし、二人が本気で戦うところを見たこと無いから…実際のところはどうなんだろ?」


 ケイトリンの問にそう答えるが…

 一時的に能力を増大させるスキルがあるから、本気で戦えば父さんの方が強いと思うけど…素の実力は互角なんじゃないかな。


「ティダさんもイーディス選手もこれまで全く本気を出してないから、どちらが勝つのか予想がつかないですね…」


「うん、特にイーディスさんは未知数だね。あの剣…あれを二刀流で扱うなんて想像もつかないよ」


 まあ、それもすぐに分かる。

 何だか自分の戦い以上に緊張してきた。






『準決勝第一試合は激戦の末、カティア選手がラウル選手を下して決勝に駒を進めました!!続いて準決勝第二試合…ティダ選手とイーディス選手、舞台へどうぞ!』


 最初の試合の興奮が冷めやらぬ中、次の対戦者二人が舞台へと上がった。


 ティダ兄はお馴染みの二刀流スタイル。

 ミーティアの片逆手二刀流ではなく両方とも順手の二刀流だ。

 通常よりやや短めの長剣…長さも重さも全く同じものを二本持つ。


 対するイーディスさんは、あの奇剣…前世で言うところの『ウルミー』を持つのはこれまでと変わらないが、今回はそれを二本持っている。

 昨日のインタビューで『本気を出す』と言っていたが…これが本来の彼のスタイルであり、『双蛇剣』の二つ名の由来なのだろう。


 帯刀状態はクルクルと巻いてコンパクトに収めているが、それを伸ばすとかなりの長さになる。

 おそらくは2メートル以上あるのではないだろうか?

 その靱やかで柔軟な刀身は当然ながら通常の剣技では到底扱えるものではなく、特別高度な技術を要する。

 まして、それが二本ともなれば…その技量たるや、筆舌にし難い。



 二人ともここに至るまでその実力の半分も出していない。

 ティダ兄の実力の程は知っているが、イーディスさんの実力は未だ未知数であり、正直勝敗の予測は立てられない。


 もちろん身内のティダ兄に勝ってもらいたいところではあるが…


『ティダ〜!がんばって〜!!愛してるわ〜!!』


『あ、こら!!解説が依怙贔屓すんじゃねぇ!!…誰だよコイツ連れてきたの…』


 いや、父さんでしょ…

 今回は二人とも魔法は使わなさそうだから姉さんの出番は無いと思うんだけど…解説そっちのけでキャーキャー言ってそうだよ。



『あ、あはは…取り敢えず気を取り直して…ダードレイさん、今度の試合はどうご覧になりますか?』


『あ、ああ…そうだな。先ず、ティダのやつは…前も言ったが、とにかくスピードファイターだ。またたく間に間合いを詰めてあの二刀から繰り出す連続攻撃で反撃も許さずに一方的に…というのがスタイルだな』


『これまでの試合も殆ど一瞬で決着がついてますものね…』


『ああ。そんで、対するイーディス選手は、ついに本気を見せるようだな。あの鞭のような剣が二本。間合いも恐ろしく広い上に回避困難な一撃。それが二刀から繰り出されるとなると、近付くのも一苦労だろうな』


『いかにティダ選手が攻撃をかいくぐって自分の間合いに入れるか、あるいはイーディス選手が神速のティダ選手を捉えることができるか…そのあたりがポイントとなるという事でしょうか?』


『その通りだ』


『私のティダなら余裕よ〜』


『もうお前帰れよ…』


 父さんと姉さんがゆる〜いやり取りをしてる間に、舞台上の二人は既に臨戦態勢となっている。


『さあ、いよいよ試合開始となります!』





「始めっ!!」



 審判の合図とともに、ティダ兄は猛烈なスピードで相手との距離を詰めるべく駆け出した!


 対するイーディスさんは片方の蛇剣をまるで新体操のリボンのように操って、自分自身をぐるりと円形に取り囲む。

 全方位の防御のようだが…


 ティダ兄はそれに捉えられる前に大きく跳躍して、防御圏外の頭上から攻める。

 すると、イーディスさんはもう片方の蛇剣を鞭のように振るってそれを迎撃する!


 キィンッ!


 ティダ兄はそれを片方の剣で弾き、もう片方の剣を頭上から振り下ろす!


 だが、イーディスさんは後方に跳躍してそれを躱しながら、今度は双蛇剣を同時に鞭のように振るう!


 ビュンッ!!ビュンッ!!


 キキィンッ!!


 ティダ兄も双剣でそれを弾き返して自分の間合いに入ろうとするが…


 イーディスさんが僅かに手首を返しただけで、弾かれた蛇剣がまるで生きているかのようにその切っ先をくねらせて背後からティダ兄を襲う!


「チッ!!」


 それを察知したティダ兄は身を捻って躱す。


 すると、イーディスさんは大きく両手を振って遠心力で双蛇剣を真っ直ぐ伸ばした状態で、さながら扇風機のように回転させる!


 あと一歩で間合いに入れなかったティダ兄は、後方に跳躍しながらその刃の旋風を躱した。







『ふむ…先ずは互角か。ティダは間合いを詰めきれないが、イーディスもまだ完全に捉えることは出来ていない。だが、まだお互いに本気じゃねぇな』


『まだまだこれからという事ですね』


『そうよ〜、私のティダはまだまだこんなものじゃないのよ〜』


 はいはい。


 だが、その通りだ。

 本気のティダ兄の動きは文字通り姿が掻き消えて見える程なんだから。

 さっきのは小手調べで、相手の間合いや攻撃のバリエーションを確認したのだろう。





 その予想に違わず、いよいよギアを上げたティダ兄が先程とは比べ物にならないスピードで姿を消した!


 さあ、どう出る?


 ガキィンッ!!


 次の瞬間にはイーディスさんの目の前に現れて、ティダ兄の一撃をイーディスさんが篭手で防いだところだ。


 そうだ…間合いに飛び込んでも、イーディスさんはあの全身鎧で身を固めている。

 ダメージを与えるのは容易ではないだろう。

 狙うとすれば可動部の隙間…当然そこは守ってくるだろうから尚更だ。


 一方、イーディスさんは本気のティダ兄の動きを蛇剣では捉えきれなかったようだ。

 ただ、見えてないわけではないので防御自体は間に合ったということだ。



 何れにせよ…お互いに決め手はまだないまま、互角の戦いが続く。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る