第七幕 35 『武神杯〜準決勝 魔封拳』

 武神杯本戦二日目。

 今日は準決勝、決勝が行われる。


 最初の試合はラウルさんと私の対戦だ。


 会場は昨日の時点で満員御礼だと思っていたが、今日は更に多くの観客で埋まっており、試合前にも関わらず凄まじいまでの熱気が渦巻いている。

 というか、あんなにギュウギュウでまともに試合を見れるのかな…?



 もう既にラウルさんも私も舞台の上に立ち、試合開始の合図を待っているところだ。

 司会のお姉さんが昨日と同じように選手紹介を行ってるようだが…私は目を閉じ感覚を研ぎ澄ませるために集中力を高めているところなので内容は頭に入ってこない。



『さあ!それでは準決勝第一試合、ラウル選手対カティア選手の試合開始となります!』


 そこで私は目を開いて構えを取る。

 ラウルさんも同様だ。


「両選手、準備はよろしいですね?それでは…始め!!」


 ついに激戦の火蓋が切られた!!










「[炎弾・散]!!」


 試合開始の合図とほぼ同時に私は魔法を放つ!


 昨日聞いた『魔法は通用しない』と言うのを確かめるためだ。


 炎の散弾は威力は低いものの広範囲にばら撒かれるので回避は難しいはず。

 ガードしながら無理やり突破するのは容易だけど…多分私の意図を察してくれるのでは、という期待もある。


 さあ、どう出る!



「へへっ、早速確かめにくるか。いいだろう!!」


 そう言ってラウルさんはその場から動くこともなく目前まで攻撃を引きつけ…その拳が光を放つ!


「はぁっ!!!」


 光を纏った拳を振るうと炎の弾丸は呆気なく霧散してしまった。


 あれは…拳だけに結界魔法を纏わせてるのか…?

 だけどあんなふうに魔法をかき消してしまう事ができるのは…それこそ私が昨日の試合で使った[輪転回帰]くらいだ。

 それもあんなに一瞬で発動できるものではない。


「どうだい?これが俺のスキル『魔封拳』だ」


「スキル…魔法ではない?」


「ああ。魔力は使うがな。俺は魔法の素養は殆ど無えが、魔力制御はそこそこ出来てな。それを何か活用できないかってんで…いろいろ試行錯誤して編み出したんだぜ」


「編み出した…?凄いっ!」


「おう、ありがとよ。因みに参考にした魔法は姫さんも昨日使っていた…」


「[輪転回帰]?」


「そうだ。他のも試したんだがな。魔法の素養が無いせいか、ものにできたのはコイツだけだ」


 なるほど。

 [輪転回帰]は発動までのプロセスが特殊で、他の魔法とは根本的に違うのかもしれない。

 そのせいなのか、この魔法って使い手が凄く少ないんだよね。

 前の試合で切り札たり得たのも、それが理由の一つだ。



「つ〜わけで、魔法が効かねえ理由は分かったか?因みにコイツを知ってるやつらからは、もう一つの二つ名…『魔殺し』って言われてんだ」


 魔殺し…そのまんまだけどピッタリだね。

 私の二つ名よりいいなぁ…



 だけど、あの拳で魔法をかき消してるんだよね?

 もう少し大きいのはどうかな?


「[雷龍]!!」


 予選でジリオンさんを下した雷撃魔法だ。

 これも対処できるのかな?


 仮初の命を与えられた雷の龍がそのあぎとを開いてラウルさんに襲いかかる!!



「いかに強力な魔法でも同じことだ!!」


 ラウルさんがカウンターで雷龍の頭を殴りつけると、パアッ!と一瞬の光を放って魔法が霧散してしまった。

 ふむ…これも効かないか。


「魔法ってのはな、効果を生み出している核のようなものがあるんだ。そこを叩いてやればこの通りだ」





『お〜っと!!どうやら昨日のインタビューでラウル選手が言っていたことは事実のようです!!』


『う〜ん…魔法の核があるというのはその通りなんだけど〜。普通は見極められるものじゃ無いわよ〜。でも、実際[雷龍]すら無効化したし〜、ハッタリではないわね〜』


『まあ、そんなハッタリかますヤツでもねえからな。しかし本当に強くなったもんだ』



 魔法の核を見極めてそこを破壊する、か。

 本当に凄い…!


 いよいよ魔法は期待できないと言うことだね。




「これで分かっただろ?じゃあ、そろそろこっちも行くぞ!!」


 そう言うや否や、ラウルさんは地面を蹴って猛烈なスピードで距離を詰めてきた!


 よし。

 私も切り替えていこう。

 先ずはこの攻撃をカウンターだ。


「うりゃあーーーっ!!!」


「ふっ!!」


 真正面からの小細工なしの拳打。

 私はそれに合わせて薙刀を振るい、袈裟に斬りかかる。


 するとラウルさんの拳は一瞬のうちに軌道を変えて薙刀を巻き取るように腕を絡める。


 武器を奪う気か!!


 私はそれに逆らわず薙刀から手を離し、震脚で一歩踏み込みながら掌底をラウルさんの鳩尾に叩き込む!!


「ちっ!!」


 ラウルさんは薙刀を絡めとった腕とは反対側の腕で防御しながら掌底の衝撃を逃がすように後退する。


 私も後方に跳びながら、ラウルさんが退き際に投げ捨て空中でクルクルと回転していた薙刀をキャッチして着地した。



『ダードレイさん、今のは?』


『ああ、ラウルがカティアのグレイブ…じゃなくてナギナタだったか…を奪おうとしたんだがな。カティアはむしろ逆らわずに手放してしまう事でラウルの隙を突こうとしたんだ』


『でも、ラウル選手は防ぎましたね』


『ああ。二人とも戦闘センスがずば抜けてるな』


『なるほど、準決勝に相応しい戦いですね!』





「まさか、あんなにあっさり武器を手放すとはな…」


「ふふ、格闘も選択肢にあるっていったでしょう?」


「ああ、そうだったな。ホント…楽しいぜっ!」


 ラウルさんが再び間合いを詰めるべく飛び出す。

 今度は真っ直ぐではなく、ジグザグにステップを踏みながらだ。


 そして私の左側、薙刀の刃から最も遠くなる場所に回り込んで蹴りを放ってくる!


「うらぁーーっ!!」


 まともに受ければ場外まで吹き飛ばされそうな破壊力がありそうだ。

 私は身を屈めて頭上ギリギリにやり過ごしてから、蹴りを放った軸足を狙って地面スレスレを薙ぎ払う!


 だが、ラウルさんは蹴り足を瞬時に戻して薙刀を踏んで止めようとする!


 またか!


 今度は手放さず、無理やり軌道を変えてすくい上げるように斬りつける。


 ガインッ!!


 しかしそれは手甲に弾かれる。


 弾かれた勢いで薙刀を反転させて石突を顔面めがけて付き出す。


 スウェーで躱しながら蹴り上げてくる。


 身体を捻って躱す…





 至近距離で嵐のような攻防が繰り広げられるが、お互いに決定打が無い。

 やはりこの距離はやりにくい。

 だが、間合いを取ろうとしても即座に踏み込まれるので、なかなか自分の間合いで戦うことができない。

 そのため段々と手数は向こうの方が多くなってきてる。



 完全にペースを掴まれる前にスタイルを変えた方が良さそうだ。


 私はそう考え、攻防の手は緩めずに頭の片隅で戦闘プランを練り直すのだった。

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