第六幕 10 『入学の勧めと妹との出会い』


「ときにカティアよ…『学園』に入る気は無いか?」


「学園…ですか?」


 もうこれで何度目だろう?

 学園入学を勧められるのは。

 確かに興味はあるけど…


「でも、唯でさえ一座と両立させるつもりなのに、そんな余裕があるとも…」


「…お前、劇には出演しねえから普段の稽古も無えだろ。公演期間中だって大抵は夕方からだし、学校通うくらいの時間はあると思うぞ」


「…ボイトレとかはやってるよ」


「それだって気が向いたときにチョロっとやって来て一〜二時間くらいだろ。毎日でもねえし」


 うぐ…

 それじゃ私が暇人みたいじゃないか…

 確かにブレゼンタムにいた頃は冒険者の仕事の方が多かったかもしれないけど!


「まあまあ、ダードレイさん。重要なのは本人の意思ですから。カティアは学園には興味はないのかしら?」


「えと…興味はあります」


「そう、なら私としても入学を勧めるわ。学生時代に築いた人脈というのは特別なものよ。あなたが今後、王族として生きていくつもりなら、きっと大きなプラスになると思うの」


 機会があるなら通ってみたいとは思うけど…

 そうだね、レティやルシェーラと一緒ならきっと楽しいと思う。

 母様が言う通り、新しい友達もできるかもしれないし。


「王族としての公務なども今すぐどうこういうものではない。上に立つ者として相応しい知識や教養を身につけるのも大切なことだ。カーシャの言うとおり人脈作りと言うのも大事だな。…異界の魂の話は、必要に応じて協力はしてもらいたいが、現状はすぐにお前に動いてもらうような事案があるわけでもない」


「…分かりました。やりたい事は何でもやってみたいとも言いましたし。私、学園に通ってみたいです。…でも、私が入りたいと言ってすんなり入れるものとも思えないのですが…?」


 この国でも屈指の難関校なんでしょ?

 それに、レティやルシェーラがもう入学決まってると言うことは、試験も終わってるのだろうし。

 まさか王族のコネとか…?

 いや、そんな事をするような人達には見えない。



「ああ、枠さえあるならまだ推薦することは可能なはずだ。もちろん試験はあるがな。宰相、たしかまだ枠はあったと思うが」


「はい、陛下。以前もそのお話が出たので最新情報を確認したところ、まだ枠は残っているようです。今年はモーリス家のレティシア様や侯爵殿のお嬢様など、特に優秀な方が入学される一方で、合格者数としては定員割れだったようですからな」


 あ、宰相さんの存在を忘れてた。

 これまでずっと黙ってたけど、父様に話を振られて初めて喋ったよ。


「…試験に合格できるかは分かりませんけど」


「リュシアンからはかなりの博識ぶりと聞いてるぞ。事前に試験対策すれば大丈夫じゃないか?」


「過去数年分の問題は公表されてますので、手配いたしましょう」


「確か、今カティアに付いてもらってるマリーシャは学園の出よね?彼女に見てもらうのもいいかもしれないわ」


 お、おぅ…

 トントン拍子に話が進んでいくよ…


 入学時期は秋。

 推薦枠の試験はそれより少し前にあるらしい。

 今はもうすぐ初夏が終わろうという頃合いだ。

 試験までそこそこ時間がある。


 前にカイトに言った通り、【私】は一時期図書館で本を読み漁ったりしてたので、結構知識はある方だし、数学なんかの理系教科は【俺】の得意領域だ。

 他にも前世の記憶が役に立つかもしれない。

 試験まである程度時間があるなら何とかなるかな?


 …何とか…なるのかな?



 とにかく、皆の熱心な勧めにも後押しされて(試験に合格すれば)学園に通うことになった。

 何だかんだ言ったけど、楽しみであることには違いない。

 そうだ、通信の魔道具を試しがてら、レティとルシェーラにも連絡しておこうっと。

 














「さて、色々と話が長くなったが…そろそろかな?」


 と、父様が言ったタイミングで、コンコン、と扉がノックされた。


「失礼します。クラーナ様をお連れいたしました」


「うむ、ちょうどよいタイミングだな。入ってくれ」



 そして、メイドさんに連れられて入ってきたのは…


 ゆるふわの淡い金髪と翠の瞳を持つまるで人形のように愛らしい女の子。

 この子がクラーナ、私の異母妹いもうと…?


「おとうさま、おかあさま、およびでしょうか?」


 小首を傾げて、少し舌足らずな可愛い声で尋ねるその様は非常に愛らしい。


「おぉ、クラーナ、よく来たな。こっちへ来なさい。…紹介しよう、俺とカーシャの娘でクラーナと言う。カティアの異母妹と言うことになるな」


「クラーナ、こちらのカティアはあなたのお姉様なのよ。…良かったわね、前にお兄様かお姉様が欲しいって言ってでしょ?」


「おねえさま…?」


 と、コテン、と首を傾げてこちらを見上げてくる。

 …可愛い。


「ええ、はじめまして。私はカティアって言うの。こんなに可愛い妹に会えて、とても嬉しいな」


 私がそう挨拶すると、それで初めて理解できたのか、だんだんと嬉しそうな笑顔が広がる。


「おねえさま!!うれしい!!」


 そう言ってギュッ、と抱きついてきた。

 私もすっぽり包み込むように抱きしめる。

 思わずそのまま抱き上げる。


 ふわ〜、あったかくて柔らかくて良い匂い〜…

 はっ!?

 いかんいかん、トリップしかけたわ。


「おねえさま、あったかくていいにおいです…」


 ごめんね、柔らかくなくて…



「あらあら、すっかり仲良しさんで嬉しいわ。クラーナ、毎日ではないけど、これからカティアもここで暮らすことになるのよ」


「ほんとですか!?うれしい!」


「今日はこっちに泊まるから、あとでゆっくりお話しましょうか?」


「はい!」


 よかった、すぐ懐いてくれて。

 私も可愛い妹ができて嬉しいな。




「あら?おかあさまがだっこしてるのはだあれ?」


「ああ、その子は私の…娘でミーティアって言うの」


「まあ!おねえさまのこどもなの?」


「え〜と、本当の子供ではなくて、養子…って言っても分からないか…」


 う〜ん…何て説明したら分かるのかな?

 …まあ、いっか。


「とにかく、私の娘で、歳も近いと思うから仲良くしてくれると嬉しいな」


「はい!…でも、いまはおねむさんみたいなのです」


「うん、そうだね。そのうち起きると思うから、その時にね」


 お菓子の食べ過ぎで寝ちゃったとは言えない…



 そんな私達のやり取りを周りの大人たちは微笑ましそうな表情で見守っていた。

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