第五幕 13 『試練』

 ロアナ様に案内されて私達は応接室のような部屋にやって来た。

 …て言うか神殿のトップが自ら案内とは、この人も随分フットワークが軽そうだね。


 部屋の中にはロアナ様と私達の他にも、神殿の幹部らしき人達もいて、それぞれ紹介された。



「さて…改めて。ようこそいらっしゃいました、ディザール神殿総本山へ。我らが敬愛するディザール様の眷族たる方にお越しいただき、誠に光栄の至りです」


 先ほどの気さくな感じの挨拶とは異なり、他の人もいるからなのか格式ばった挨拶だ。

 私もそれに合わせて応える。


「こちらこそ、大司教猊下御自らお迎えいただけるとは恐縮です」


「と、堅苦しい挨拶はこれくらいで。皆様のご用件は神託でも伺ってますが…『聖剣』、ですね?」


「は、はい。その通りです」


 ちゃんと神託が降りている事に安堵しつつ、果してすんなり貸し出してもらえるのか少し心配しながら返事をする。


「分かりました。本来であればディザール様の聖剣は門外不出、おいそれと外に出すことはできるものでは無いのですが…他ならぬそのディザール様の意向でありますからね。ただ、あくまでも貸し出しと言う形でお願いします。期限は…一連の『邪神教団』の問題が解決するまで」


「は、はい!ありがとうございます!」


 よし!

 もともと借りる前提なので問題ない。

 そして、『邪神教団』の件も伝わってるんだね。


 しかし、話には続きがあるみたいだ。


「ただ…貸し出すにあたっては一つ問題があります」


「問題?」


 やはり、すんなり貸し出しとはいかないのかな?


「それについては私の方から」


 ロアナ様の横に控えた年配の男性がそう言って説明を始める。


 曰く、聖剣は神殿の地下深くの宝物殿に奉納されていて、そこに至るまでにはいくつかの試練を突破しなければならないと言う。

 かつて、ディザール様から託された時に、『聖剣が必要になったときは相応しき勇者の手に渡るように』、との言葉によるものだそうだ。

 盗難防止も兼ねており、特別な祭事のとき以外で聖剣を持ち出すには試練を突破する以外に方法は無いって…


 ……聞いてないよ!?



「試練…ですか。そうすると、結構時間がかかりそう…やっぱり一座の皆には先に行ってもらわないとかな…?」


「いえ、試練の間自体が神代遺物アーティファクト…『時忘れの秘術』が施されていて、精神世界での出来事になります。なので、現実世界では殆ど時間経過は無いはずです。もし試練に失敗しても現実世界に戻されるだけなので安全と言えば安全ですよ」


 まじか…

 要するに『神界』と同じってことだ。

 流石は総本山、神秘のスケールも大きいよ。


 それにしても…聖剣を手に入れるために試練に挑む、って如何にもゲームっぽいけど、こんなイベントは無かったなぁ…

 ブレゼンタム東部遺跡の例もあるし、もし似たようなイベントがあったならかなり参考になったのに…残念。


「なお、試練には4名まで同時に挑戦が可能です」


 …まるで図ったかのような人数設定だね。

 ますますゲームっぽいし。



「4名かぁ…私とカイト…う〜ん、安全性が担保されてるならミーティアも行く?」


「行く!」


「…まあ、ミーティアなら大丈夫…か?」


「あ、じゃあ私も行くよ」


「へ?レティが?」


「前衛は無理だけど、魔法使いも必要でしょ?」


 ふむ…

 魔法なら私もミーティアも使えるけど、レティは宮廷魔導師にも匹敵する腕前と言ってたし、枠があるなら来てくれたほうが助かるかな…?


「じゃあ、お願いするね」


「任せて!」



「お決まりですかね。では、試練の間にご案内しましょう」














 ロアナ様に案内されたのは、大聖堂の神像が立つ祭壇の裏手…正面からは見えないところだ。

 これはきっとアレだな。


 私達に説明をしてくれた男性が、祭壇の裏を何やらゴソゴソ弄っている。

 すると…ああ、やっぱり。


「隠し階段ですか」


「はい。ここは限られた者しか知らないので、皆さんもご内密にお願いしますね」


「ええ、もちろんです」


 そして、私達4人とロアナ様は隠し階段を降りていった。













 階段は魔道具らしき照明によって明るく照らされ、思いのほか広く歩きやすいが、相当深くまで下るようでまだ終わりが見えない。


「かなり下るのですね…」


「もうすぐ着きますよ。…ああ、見えてきました」


 ロアナ様が言った通り、階段の終わりが見えてきた。


 そして、階段を下りきった所から通路が続いている。

 こちらはそれほど長くは無く、先の方に既に扉が見えている。

 階段も通路も石造りで、大人5人が横に並んで歩いても余裕があるほどに幅が広く、天井も高い。

 雰囲気としては、あのブレゼンタム東部遺跡に似ている。


 通路の先に進んで扉の前までやって来る。


「この扉から先が試練の間になります。この扉は魔法によって封印が施されているので、今それを解きますね。…『聖剣を求める者に、相応しき力を示すための試練を』」


 どうやら扉の封印を解くためのキーワードは神代語みたい。


 ロアナ様の言葉に反応して扉が淡く輝き始め、両側に開いていく。

 扉の先には同じような通路が続いているようだ。


「さあ、ここから先は試練に挑む者だけが進むことができます。…できれば助言の一つもしたいところなんですが、試練の内容は挑む者によって変わるのでそれもできないのです。ですから私から言えるのは…どうかご武運を」


「ありがとうございます。大丈夫ですよ、きっと聖剣を手に戻って参ります。さあ、みんな行きましょう!」


「ああ、行こうか」


「がんばるの!」


「ちょっと緊張してきたね」


 そうして私達は扉をくぐって先に進む。



 …?

 今、何か違和感が…


「あ!?カティア、後ろ見て!」


「え…?あっ!?」


 レティの声に後ろを振り返ると、今しがた通ったはずの扉がなく延々と通路が伸びていた。


「なるほど、既に試練の間…精神世界に入ったと言うことか」


「…そうみたい。取り敢えず前に進むしかないみたいだね」


 さて、これからどんな試練が待っていることやら…











 通路を進む事しばし。

 再び扉が現れた。


「…第一の試練てことかな?」


「何か扉に書いてあるよ。これは神代語か…『一つ目…勇敢…進む…』…う〜ん、ところどころの単語は分かるけど私じゃ読めないや」


「どれどれ?『第一の試練は汝らの勇気を試すものなり。勇気を持って一歩を踏み出すべし』だって」


 私がそれをスラスラ読み上げると、レティが食いついてきて耳打ちする。


(…それって、もしかして転生チート?お約束の『言語理解』とか?)


(うんにゃ、オキュパロス様に直接頭に刷り込んでもらった)


(何それ、どっちにしてもチートじゃない…)


(まあ、たまたまだよ。レティだって知識チートやってるんだから良いじゃないの)


(む、それはそうだけど)


「どうした?何か問題でも?」


「「いいえ、何も!?」」


「?…まあ、いいか。それよりも、勇気を試すと言うのは何だろうな」


「こわいオバケがいる?ぶるぶるっ…」


 あら、ミーティアってばお化けが怖いの…?

 そういうところは子供らしいんだね…

 しかし、お化けで勇気を試すって、それじゃ肝試しだよ。

 それはないでしょ…多分。



「まあ、入ってみないと分からないよ。勇気の試練なんだから、勇気を持ってばばーんっと開けてみよ〜」


「あ、レティ!ちょっ…心の準備が…」


 と、止めるまもなくレティが扉を開けてしまった。




 果してその先には…?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る