第二幕 13 『隠し部屋と謎の女の子』
ダンジョンのボスであるミノタウロスを倒し、ダンジョン
そんなとき、周囲を調べていたリーゼさんが何かに気付いて私に話しかけてきた。
「カティアさん!ちょっとこちらに来ていただけますか?」
そう言われて向ったのは、ボス部屋の扉から入って真正面、部屋の一番奥にある壁のところだ。
「何ですか?リーゼさん。何かありましたか?」
休憩していた他の皆も集まってくる。
「ここ、見て下さい。これって
そう言われて見てみると、戦闘中は気付かなかったけど、確かにいくつかの印が円を描くように配置されているのが確認できた。
これは【俺】の記憶には無いものだ。
ここまで来て現実世界との相違があるとは…
「…確かに、
一対の翼を象ったような印は以前私が発動したときのものと同じものだ。
「他にも…全部で12種類?」
「この大陸の王家の祖に
「ああ、こっちはレーヴェラントに伝わるリヴェティアラ様のものだ」
各王家の祖先に
その印が何故ここに?
一つ思い当たるのは、あの手記に書かれていた『神の依代』か。
何となく、そっとリル姉さんの
すると、突然印が輝き出した…!
「え!?ひ、光った!?」
ごめんなさいっ!?
私、何もしてません!!(嘘)
と、内心混乱していると、印の光は石材の継目を伝って壁全体に広がった。
そして、少しずつ壁の中心が音も立てずに左右に開いていく…
「壁が…」
「これは…隠し通路ッスか…カティアちゃんの
そうして、完全に壁が開き切ると光が収まり、奥へと続く通路が現れたのだった。
「…行ってみましょうか?」
「…そうだな」
「これは、ワクワクしますわね!」
「そうですね!また何か大発見が期待できそうです!」
「あの手記にあった『神の依代』があるんスかね?」
そんな話をしながら皆で通路を進んでいく。
そして10メートルくらい進んだところで再び大きな部屋にたどり着いた。
部屋の中央には、四阿のように屋根に覆われた祭壇のようなものがあった。
さらにその奥には、よく分からない構造物が。
大きな石造りの…石碑のようなもの。
ひとまず祭壇?の方に向うと…
「…えっ!?お、女の子!?」
興奮を抑えきれず一人先行していたリーゼさんが、祭壇の上を確認したとたん驚愕の声を上げる。
そう、祭壇の上には小さな女の子が背中を丸めて横たわっていたのだった。
皆も驚いて声も出ない様子。
私ももちろん驚いている。
しかし、私が驚いているのは、こんなところに小さな女の子がいるという事だけではない。
髪の毛は光の加減によって金にも銀にも見える不思議な色合い。
私の髪色に似ているが、やや暗い色合いのように見える。
そして、その顔は…
夢で見た小さいカティアと瓜二つだった。
一番最初に見たときの3歳くらいの姿だ。
他の皆も、私にそっくりであることに気付いたようだ。
「…え〜と?娘さんですか?」
「そんな訳ないでしょう!?」
リーゼさんのボケに思わずツッコミを入れる。
「でも、本当にカティアさんにそっくりですわ…娘は無いにしても、何らかの血の繋がりがあるのでは?」
「小さい頃のカティアちゃんにそっくりッス。大将が見たらビックリするッスよ」
「そもそも何故こんなところに?偶然迷い込むような場所じゃないだろ?」
「その子、生きてるんスよね?」
「あ、呼吸はしてるみたいです。寝てるのか気を失ってるのかは分かりませんけど…もしかして、この子が『神の依代』なんですかね?」
「う〜ん?…でも、ただの女の子がこんなところにいる方が不自然だし、その方が納得はできるかも?私に似ているのは良く分からないです」
と、色々話をするが、結局この子が何なのか結論は出ない。
これはリル姉さんに相談かな?
「それで、この子どうしましょう?このままにしておく訳にもいかないでしょうし」
「そうだな、流石に放ってはおけないか」
少なくとも、小さい子供をこんなところにおいていく訳にもいかないので連れて帰ることになった。
見た目は私そっくりで気になるので、他の人に任せるのも躊躇われ、私は女の子をそっと抱き上げる…
と、彼女に触れた瞬間に何だか不思議な感覚がした。
何だろう…自分の身体の中に、何か暖かなものが流れ込むような感じ。
「カティア、大丈夫か?俺が背負っていくぞ?」
「!い、いえ、大丈夫ですよ。この子軽いですし、全然苦になりませんよ」
少しぼぅっとしてしまったのか、カイトさんが心配して声をかけてくれたところでハッと我に返る。
何だか急にこの子の事が愛おしく感じて、他の人には渡したくないと思ってしまった。
実際、女の子はお人形のように非常に愛らしく、腕の中に抱えた小さな身体は暖かで、とても庇護欲を掻き立てる。
「…私も抱っこしたいですわ…」
「私も…ほんと、可愛いですねぇ…」
女性二人はやっぱり愛くるしい女の子を抱っこしたいようだ。
「じゃあ、後で交代しましょうか」
「「ぜひ!」」
本当は渡したくないんだけど、独り占めは良くないよね…
「そう言えば、こっちの石碑?は何なんスかね?」
ロウエンさんが部屋の奥にある石碑のようなものを指差して言う。
「何かは分からないですけど、何らかの魔法装置に見えますね。ほら、床に魔法陣の様なものが描かれてます」
リーゼさんの言うとおり、石碑を中心として直径3メートルくらいの魔法陣の様なものが描かれている。
「カティアさんが触れたらまた起動するのではないですか?」
と、ルシェーラ様が言うので、女の子を抱っこしたまま石碑に触れてみるが…
「…特に何も起きませんね」
「残念ですわね。まあ、調査の方は専門家にお願いいたしましょうか」
特にこれ以上得られるものはないと判断して、私達は隠し部屋を後にした。
帰還しながら第5階層、第4階層のまだ探索していないところを巡っていくが、魔物に遭遇することはなかった。
ところどころで魔物の死骸が散乱していて、おそらくダンジョン産の魔物に淘汰されたのだろう。
こちらとしては手間が省けて助かったよ。
女の子はまだ目を覚まさない。
呼吸は穏やかで単に眠っているようにしか見えないけど、ちょっと心配だ。
約束通りお嬢様やリーゼさんと交代で抱っこしている。
「ふわぁ〜、かわいいですわ〜。ほっぺプニプニ〜」
「本当に。髪の毛もふわふわサラサラです。カティアさんって今も凄く美人ですけど、子供の頃もこんなに可愛かったんですねぇ…」
ほっぺをつんつんされたり、頭をナデナデされてもやはり目を覚まさない。
「う〜ん、ちゃんと目を覚ますのか心配だなぁ…」
「大丈夫ですわ。だってこんなに可愛いんですもの!」
ああ…お嬢様がポンコツになってる。
その後も退路は特に問題もなく、地上に戻ってくることができた。
早朝から探索を開始して、今は昼過ぎくらいだろうか?
しばらく薄暗い地下にいたので、日差しがとても眩しい。
ちょうど地下遺跡の入り口付近にジョーンズさんが来ていたので、早速報告に向う。
「ジョーンズさん!ただいま戻りましたわ!」
「あ、お嬢様!ご無事で何よりです!」
「無事にダンジョン
「おお!本当ですか、助かります!では、報告はテントの方でお伺いしましょうか」
という事で、皆で調査隊の大テントに移動する。
「…ところで、その女の子は?何だかカティアさんに似ているように見えるのですが…」
…ですよね。
「遺跡の最深部で保護したのですが、この通り眠っているので詳しい事は何も…」
「…ふむ、不思議ですね。ああ、どうぞ中に入ってください。散らかっていて申し訳ありませんが…」
ジョーンズさんに促されてテントの中に入ると、思ったよりも中は広々としていて意外と快適そうだ。
奥の方には簡易的な寝台がいくつか。
個人の荷物や発掘用と思しき機材が端の方に寄せられていて、言うほど散らかってはいない。
入り口すぐのところに事務机とちょうど人数分の椅子があって、私達はそこに着席する。
私は女の子を抱っこしたままだ。
それぞれ席に着いたあと、カイトさんとお嬢様が中心となって報告を始める。
ダンジョン
一通り内部を見て回って、魔物の脅威が無いことを確認した事。
隠し部屋の事。
隠し部屋の事を話すときには、お嬢様がジョーンズさんに口止めをした上で、私がリル姉さんの
そして、私にそっくりな女の子の事。
「…なるほど、内部でのお話しについては分かりました。魔物もいなくなった事ですし、しっかり調査して謎を解き明かしていきたいと思います。それにしても…カティアさんの事が一番驚きましたよ」
「くれぐれも口外しないようにお願いしますわ」
「ええ、承知しております。あとはその女の子ですか…『神の依代』というのがその子のことかもしれない、と言うのは可能性の一つとして考えられなくもないとは思いますが…それを裏付けられるものが無いと何とも…」
「目を覚ましてくれれば何か分かるかも知れませんが…でも、こんなに小さな子供ですからね。あまり期待は出来ないかも…」
と、私は答えながら、女の子の頭をナデナデする。
う〜ん、本当にいい手触り。
癖になりそう。
「しかし、目を覚ましたとしてこの子どうしましょう?あんな場所にいたのだから、身寄りなんて無いですよね?」
「それでしたら、うちで預かりますわ。お父様に養女にしてもらって…そしたら私の妹という事に。うふふふふ…」
…何かお嬢様が怪しげに笑ってる。
そうしてもらうのが一番なのかもしれないけど、なんか離れ難いんだよなぁ…
自分でも不思議なくらいこの子に対して愛情が湧き上がってくるんだ。
「…ん〜…んみゅぅ…」
その時、女の子が身動ぎをして声を上げた。
「あ!?目が覚めたみたい!」
女の子の瞼がピクピクと震え、私の腕の中で精一杯伸びをして…
「ふわぁ…」
と、可愛らしくあくびをした。
そして、寝ぼけた様子で目を両手でコシコシとこすってから、ぱっちりと開いた彼女の瞳が私を捉え、口を開いた。
「…ママ!」
ふぁっ!?
何ですと!!??
衝撃の一言に、その場が凍りつくのだった。
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