第一幕 14 『ブレゼンタムの休日 神殿参り』

 …また、あの不思議な夢を見た。


 そして、重要なことが分かった。

 小さいカティアはカイトさんのことが好き。

 つまり【私】はカイトさんが好き。

 ファイナルアンサー。


 いや、それも重要なのかも知れないけど…そうじゃなくて。

 カティアの魂を傷付けたのはやはり『異界の魂』であろう事が、小さいカティアの証言で明らかになった。

 今日はエメリール神殿に行って報告するつもりなので、その前に重要な情報が得られて良かった。


 今日は一日お休みにしたので、昨日よりは遅めに起床し、ゆっくりと支度をする。

 依頼も受ける予定がないので、普通の町娘風の格好に着替える。


 【私】はそれほど多くの服を持っているわけではないが、そこは年頃の娘らしくお洒落にはそこそこ拘っている。

 父さんにはお転婆娘だのと言われているが、十分に女の子らしいと思うぞ。


 今日のコーディネートは春らしくまとめてみた。

 若草色のワンピースにオフホワイトのカーディガンを羽織る。

 冒険者として活動するときは纏めていた髪は真っ直ぐに下ろし、頭には大きめの麦わら帽子。

 編み上げのロングブーツ、色は焦げ茶色。

 肩から斜め掛けに下げるポーチ。


 部屋に備え付けの姿見で、身だしなみをチェックする。

 うん、良く似合っている。

 などと、自画自賛な事を思いながら、最後に母の形見のペンダントを付ける。


 …そう言えば、母は王家の血筋と言われても不思議ではない感じだったって父さんは言っていたよね。

 このペンダントもそう言われて見てみると、由緒正しいものに見えてくる。

 実際、ペンダントトップは非常に精緻な細工が施された銀色に輝く台座に、美しい青い宝石がはめ込まれていて、とても高価そうな物だ。

 宝石の中には複雑な紋章のようなものが浮かび上がっている。


(…「王家の証」みたいなありがちなヤツだったり?実際、かつてのアルマ王国王家の血を引いてるのかも知れないわけだし…飛○石だったりして。そう言えば色も似てるな…)


「…バ○ス」


 …何も起きない。

 当たり前だ。

 って言うかその呪文は選択的にまずい。

 危うく何かが滅ぶとこだったわ。


「ま、考えたって分かるもんじゃないね。バカ言ってないでもう行こう」


 ああ、今日もいい天気だ。



 宿で少し遅めの朝食を取り外に出ると、大通りには既に多くの人が行き交っている。

 東門にほど近いこの辺りは商店が大きな割合を占めているので、買い物客などで賑わいを見せている。


 この街の中心である中央広場の周辺と東西南の門の辺りまでは主に商業地区、広場から北門までの間は領主邸を含む住宅地となっている。

 中央広場に面する地区には、ギルドや政庁舎などの公的機関、今回の目的である神殿などが集まっている。


 この大陸で信仰されている神々は数多いので、一つの街に全ての神の神殿を作る訳にもいかない。

 そのため、大抵の街には全ての神々を祀る統合神殿と呼ばれるものがある。

 それ以外には、その土地に特に縁のある神の神殿が建てられる事がある。

 この街は大規模な穀倉地帯を抱えているため、豊穣神として信仰されているエメリール様の神殿と、この国の王族にシギルを与えた、国の守護神ともいうべきディザール様の神殿が建てられており、ディザール神殿内の一画が統合神殿を兼ねている。

 今日はエメリール神殿のほかに、オキュパロス様にもお礼のお参りをしたいのでディザール神殿にも行こうと思う。



 という事でやってきましたエメリール神殿。


 石造りの建物で前世の教会などと比べると華美な装飾などはほとんど無く質素な感じだが、それがかえって神聖な雰囲気を醸し出している。

 入り口の大きな扉から真っ直ぐに行ったその先には、祭壇とエメリール様の神像があり、さすがにこれは建物の質素な雰囲気とは異って、なかなかに荘厳なものである。

 入り口の両側にはカーブを描く階段が設けられ、それを登ると壁に沿って一階を見下ろせるように回廊が巡らされている。

 壁にはいくつかの扉があり、時折神官らしき人たちが出入りしている。

 壁の上の方には明り取りの窓が並び、そこから斜めに光が差し込んで、より一層神秘的に見える。


(さて…エメリール様とお話するにはどうすればいいのかな…?まずは作法通りお参りしてみますか)


 神殿の中には他にも沢山の人がお参りに訪れており、神像の前に跪き両手を組んで祈りを捧げている。

 私もそれに倣うべく神像の前まで進み、神像を見上げてみる。


(ん〜、凄く綺麗な造形で美術品としてはすごいんだろうけど…あまり本人には似てないかな。もう少し、こう、優しさとか温かみが欲しいところだね)


 などと、心の中で失礼な批評をしてから、他の人と同じように跪いて祈りを捧げる。


(エメリール様、ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。お陰様で無事に転生することができました。あれから色々な事が分かりましたので、ご報告してもよろしいでしょうか?)


 心の中で語りかけると、不意に意識が引っ張られるような感じがして…


(あ、これはオキュパロス様の時と同じような感覚だ…)


 視界が白く染まっていった。
















「よく来てくれました、カティア」


 気がつくと、森の中の広場のようなところに立っていた。

 色とりどりの花々が一面に咲き誇り、柔らかな陽射しが枝葉の間から優しく降り注いでいる。

 広場の一角には質素だが、どこか可愛らしい感じのする木造の一軒家が立っている。

 目の前にはテーブルセットの椅子に腰掛け、柔らかな笑みを浮かべるエメリール様が。

 まるで至高の画家が描いた一幅の絵画のように神秘的で美しい光景に、しばし呆けてしまう。


「…あ、エメリール様、こんにちは。ここは、神界…ですか?」


「ええ、オキュパロスがそのように名付けたらしいですね。さあ、そちらに座ってくださいな。ゆっくりお話しましょう」


「あ、はい、失礼します」


 促されてエメリールさまの向かいに着席する。


「さ、お茶をどうぞ。お口に合うと良いのだけど」


 そう言って、良い香りが立ち上る紅茶のようなものを勧めてくれる。

 ん?今の私は精神体なんだよね?


「あ、ありがとうございます。えっと、今の私って飲めるのですか?」


「ふふ、香りも感じられるでしょう?目で見ているのもそうです。ここでは擬似的な五感があると思って頂ければ」


「あ、そう言えば。…じゃあ、頂きますね。…ああ、美味しいです」


 これは紅茶だね。

 詳しくはないけど、良い香りと程よい苦味、甘みが口の中に広がって、とても美味しく感じる。


「ふふ、良かったわ。…あなたには謝らなくてはなりませんね」


 そう言って申し訳なさそうな顔をしてエメリール様は言った。


「?…何のことです?」


「もともと男性のあなたの転生先が女の子だと言うことを伝え忘れていたことです。ごめんなさいね…」


「あ〜、その事ですか。いえ、確かに吃驚しましたが、記憶の共有もありましたし特に困ったことは…まぁないことも無いですけど…」


 もとのカティアの記憶や経験によって、普段の生活は全く問題ない。

 困ってるのは、自分の性的アイデンティティがどこにあるのかと言うか…ぶっちゃけ恋愛関連の事だ。

 相談はしたいが、それは報告の後だ。


「まあ、やっぱり何か困り事が?」


「あ〜、困り事と言うか悩み事と言うか…えと、それはまた後ほど…まずは報告をさせてもらっても?あ、オキュパロス様にはお聞きしてるのですよね?」


「ええ、ごめんなさいね、オキュパロスからの着信に気が付かなくて…」


(着信って…)


「いえ、オキュパロス様に助けて頂きまして、こうして無事に帰ってこれましたし。それで、転生直後は私の身に何が起きたのかは覚えていなかったのですが、『異界の魂』を間近に見たことで記憶を思い出した、と言うか不思議な夢を見たのです」


 そうして私は転生してからのこと、不思議な夢を見たこと、自分の推測したことを報告するのだった。





「…なるほど、あなたの推測通り『異界の魂』が原因だった可能性は高そうですね」


「断定はできませんか?」


「…一つ気になる点がありまして。『異界の魂』がこの世界の生物の魂を取り込んだ場合、通常はそのまま魂を失ってしまった肉体に憑依して支配してしまうのです。あなたが対峙したオーガもそうだったでしょう?しかし、カティアはそうなっていない。そもそも魂を喰らい尽くさずに離れる理由が分からないのです…もしかしたら私のシギルを持っていたことが関係するのかもしれませんが…」


「そう言えば…エメリール様は他にどんな要因があると思うのですか?」


「異界の魂も可能性の一つとして考えていましたが、その他にも、高位アンデッド、特定の魔法、呪いの類…などいくつか想定しておりました」


「そんなに色んな可能性があるとは…」


「ですが、あなたの推測や夢の話を聞くに、やはり異界の魂が原因である可能性が最も大きいと思います。あなたが見た夢に出てきた子供のカティアは、僅かな意識の残滓が夢という形で語りかけてきたのではないでしょうか」


「やっぱりそうですよね…あの、エメリール様、異界の魂に取り込まれた魂はどうなるのでしょうか?異界の魂を滅すればカティアの失われた魂も元に戻ってくるのでしょうか?」


「…残念ながら、異界の魂に取り込まれてしまった魂はもはや戻ってくることはありません。少なくとも、私にも他の神々にも救う術は無いのです。ですから、せめてこれ以上犠牲者を出さないためにも、出来るだけ速やかに滅しなければなりません」


 そうか…残念だな。

 やはり、少しずつ魂が癒えるのを待つしかないのか。

 そして、エメリール様が言うように早く他の異界の魂も見つけて何とかしないと…


「今回の件で国とギルドには情報が共有されましたので、もし見つかれば退魔系魔法の使い手を中心とした討伐隊が組まれると思います。その時、私が近くにいれば参加することもできるでしょう」


「…出来れば、あなたには危険な事をして欲しくは無いのですが、致し方ありませんね。ですが、無茶はしないで下さいね」


「はい、私も転生したばかりですぐに死にたくはありませんし、無茶はしません。心配して下さってありがとうございます」


 自分を犠牲にしてまで、なんて殊勝な心掛けは無いけど、出来るだけの事はしようと思う。



「しかし、前回の魔王の時代より、もう三百年の時が流れたのですね…」


「その時のグラナ皇帝に異界の魂が取り憑いたのですよね?」


「ええ。彼はもともと支配欲が強く領土拡大の野心が強かったらしいのですが、異界の魂が肉体を支配するとその欲望は妄執と言うべきほどまでに増大され、同時に得た強大な力を以て大陸全土を巻き込む大戦を開始したのです。グラナ帝国のルーツである東の民族では異界の魂は『黒き神』として信仰されていて、黒き神を人の身に降ろす事で人智を超えた力が得られると信じられていました。そのため、彼は自らの意思で黒き神にその身を捧げたと言われています」


「…そんな信仰があるとは知りませんでした。しかし、それはただの迷信などではなく、実際に強大な力を得てしまった、て事ですね。そして、その力と言うのは伝説によれば…」


「ええ、魔物を支配する力ですね。そして彼はその力を用いて大陸全土で戦端を開けるほどの強大な魔物の軍勢を作り上げた。…異界の魂がこの世界の生物の魂を喰らい肉体を支配すると、異能の力を得るのです」


「…もしかして、あのオーガの結界も?」


「そうですね。あのオーガは異界の魂に支配されることで、その暴虐性が増大され、獲物を取り逃さないように、とあの様な異能を得たのではないでしょうか。異能の力は支配された個体がもともと持っている欲望や妄執に関係した能力を得るようです。そして、その欲望が大きければ大きいほど強力なものになる。特に、人間のように自我が強い生き物が支配されてしまうと、先の魔王の様に強大な力を持つものが生まれてしまうことがあるのです」


 はあ…結局、前世の世界もこの世界も人の欲望が戦争を引き起こすというのは変わらないんだよな…


 それにしても、グラナ帝国か…三百年前の大戦で魔王を倒したあとも、版図は縮小したものの帝国自体は今に至るまで存在し続けている。

 そして、ゲームのイベントにもあった十五年前の大戦もグラナ帝国の侵攻によって引き起こされたものだ。

 全く、迷惑な国だな…



「さて、報告いただく話はこれくらいでしょうか?」


「あ、そうですね。また何か分かったらお話させてもらいますね」


「はい、お願いします。では、カティアの悩み事というのを聞かせてもらいましょうか?」


 …そうだった。う〜ん、改めてとなると気恥ずかしいな…


「え〜と、なんと言うか。私って前世は男だったじゃないですか?でも、今の身体は女な訳で…性的アイデンティティと言うか、恋愛と言うか、よく分からなくなってしまって…」


 と、早くも転生二日目にして頭を悩ませていた事について相談するのだった。



「なるほど、そうですか…すみません、どうも私は男女の恋愛というか、機微には疎いので…転生前にも伝えました通り、私に言えるのはありのままの自分を自分自身が認めてあげてください、としか。でも、そうですね、せっかく相談してくれたのですから、私よりも適任者に聞いてもらいましょうか」


「適任者?」


「ええ、私の妹のエメリナの方が良いアドバイスをしてくれるかもしれません」


「エメリナ様と言うと、『生命の女神』と言われている…」


「ええ、あとは『恋愛の女神』とも。あの子ならあなたの悩みにも、答えてくれるのではないかと。ちょっと待ってくださいね」


 と言ってどこからともなく取り出したのは…スマホ?


「…あ、もしもし?リナ?いま大丈夫かしら?…いま私の大切なお客様が来ているのだけど…そうよ、私のシギルを受け継いでいる子…それで、その子の相談に乗っていたのだけど、私だとあまり良いアドバイスができなくて…え?ええ、そうよ恋愛関連の…え?すぐ行く?あなたも相変わらずそう言う話好きよね…じゃあよろしくね、待ってるわ」


 と言って通話を終えた。


「…あの、エメリール様、それは…?」


「あ、これですか?任意の相手と通話するための魔道具ですよ。神々の一柱、技巧神オーディマが趣味で作った『ゴッドフォン』と言います。あなたの前世の世界にも似た物があったでしょう?[念話]でも良いのですけど、相手の都合も関係なく声が届いてしまいますからね。重宝してるんです」


 ゴッドフォン…ですか。何だかイメージが崩れるなぁ…


 なお、[念話]は神代魔法だ。音の伝播を制御する[伝声]とか[拡声]などは普通に使われているが、思念を直接相手に伝える[念話]はその存在や効果が知られているのみで、詠唱などは失伝してしまっている。



「リルおね〜ちゃ〜ん!来〜た〜よ〜!」


 女の子が突然、シュンッ!と現れて、元気な声をかけてきた。

 エメリール様や私と同じような、光の加減によって金にも銀にも見える不思議な色合いの髪をツインテールにした、年のころは私と同じくらいのとても可愛い女の子。

 顔立ちはエメリール様をもう少し子供っぽくした感じ…と言うか私に似ている気がする。

 瞳の色もエメリール様や私と同じ菫色。

 エメリール様とエメリナ様は姉妹なんだから似てるのは当然なのだが、私も含めて三姉妹に見える。


「リナ、早かったのね」


「そりゃあもう、面白そうな話だったからね!…あ!あなたがカティアね!私はエメリナ。エメリールお姉ちゃんの妹よ!」


「あ、初めまして、カティアです。よろしくお願いします、エメリナ様」


 エメリナ様の勢いにちょっと圧倒されながらも挨拶を返す。


「あら、エメリナ様だなんて何だか他人行儀だわ。お姉ちゃんの眷族なら私にとっても身内のようなものなんだから、リナって呼んでね!言葉遣いももっと砕けても良いと思うわ」


「ふふ、そうね。私も様付けじゃなくてリルとか、何でしたらお姉ちゃん、て呼んでくれたら嬉しいわ」


「あ、それいいね!じゃあ私はリナお姉ちゃん、で」


 むむ、神様に馴れ馴れしい口調で話すのはいささか抵抗があるのだけど…でも、身内って言ってくれるのだから…


「うん、わかったよ。でも、『お姉ちゃん』はちょっと恥ずかしいから…リル姉さん、リナ姉さん、これからもよろしくね」


「うんうん、よろしく〜!」


「ええ、よろしくね」




「それで?恋愛の相談だって聞いたのだけど?」


「う、うん。実は…」


 先ほどリル姉さんに話したことをもう一度説明する。

 うう…二度も話すのは恥ずかしいなぁ…



「ふむふむ、なるほどなるほど。まあ、あなたの場合はなかなか複雑な事情だものねぇ…悩むのは仕方ないと思うわ」


 話を聞き終えたリナ姉さんはそう言ってくれる。

 事情を汲んで同意してくれるだけでも嬉しいと思う。


「そうね〜、基本的にはお姉ちゃんと同じで、自分自身の思いを否定しない事が大事だと思うのだけど、そうは言っても急には無理よね。恋愛って結局のところ子孫を残すために必要な感情なのよ。もちろん、それだけじゃないけどね。だから、もとのカティアの体に感情が引っ張られるのは仕方がないの。でもあなたは前世の記憶もあるのだから、それに違和感を感じるのも当たり前なのよ」


 うん、それは自分で気持ちを整理してみて思ったことだ。

 でも、それを他人の言葉で肯定されると気持ちが楽になる。


「あとは、そうね。『恐れ』を抱いてるのかしらね」


「…恐れ?」


「そう。自分が変わることへの恐れ。自分の前世を否定されるような恐れ。あとは、その彼に前世が男であるという事を知られるのが怖い、とか」


 …どうなんだろう?

 自分が変わることに対する恐れと言うのは、転生するときにも言われたものだ。

 正直そこまで深く考えたことはないし、そんな恐れを抱いているとも思えない。

 どこまでいっても、あくまでも自分は自分であるという思いしかない。


 そうだよ、自分自身を肯定するなんてことはとっくにできている。

 じゃあ、もしカイトさんに自分の前世を知られたとしたら?

 もしかしたら、気持ち悪いと思われるかもしれない。

 嫌われてしまうかもしれない。

 それを想像するのはとても怖い…嫌だ、そんなのは。


 ああ、だから自分が傷つくのを恐れて、彼に惹かれていることを否定するのか。


「私は、前世のことを知られてあの人に嫌われるのが怖い…んだと思う」


「そう、整理がついたのね。ふふ、でもその心配は杞憂よ?あなたがそうだったなんて、知りようがないもの」


「でも、何か騙している気が…」


「何言ってるの。別に何もかもを明らかにする必要なんて無いのよ?人間、知られたくない秘密なんて誰にでもあるものでしょ」


「うん…そうだね、それも、あまり深く考えないことにするよ」


「まあ、いろいろ言ったけど、あせる必要は無いのよ?まずはお友達から始めましょ!でも良いのだし。相手のこともよく知っていかないとだしね?」


「…そうだね。自分らしく気楽に、自分のペースで行くよ。周りに盛り上げられてるだけで、これが恋愛感情なのかも良く分かって無いんだし。そもそも、昨日初めて出会ったばかりなのに…」


「あら?恋に落ちるのに時間なんて関係ないわ。あ〜、それにしても初々しいわ!最近神殿に来る人の悩みってドロドロしたのが多くてねぇ…癒やされるわ〜。ほんと、カティアちゃんてば可愛い!」


 と言ってリナ姉さんは突然抱きついてきた。


「わわっ!?ちょっ、急に抱きつかないで〜」


「どお?こ〜んな美少女に抱きつかれて、男としてドキドキしちゃう?」


「え?…う〜ん、特に何も…」


「ほら、男の記憶があっても、あなたはもう女の子なのよ。何も心配することはないわ」


 そう言って微笑むリナ姉さんは見た目は私とおなじくらいだけど、本当の姉のように見えるのだった。



 その後も三人で他愛のない話をしたが、そろそろお別れの時間だ。


「リル姉さん、リナ姉さん、今日はありがとう」


「ふふ、私も楽しかったわ。報告とかじゃ無くても、また遊びに来てね」


「私も楽しかったよ!あ、そうだ。今度はリリア姉さんも呼ぼうよ」


「リリア姉さん…と言うと、もしかして…」


「ええ、私達の長姉のエメリリアよ。そうね、今度は姉さんも呼びましょうか。今日の話を知ったら拗ねてしまいそうね」


「あはは!あり得るわね!ちゃんと宥めないとダメね」


 この二人のお姉さんなら、きっと素敵な人に違いないだろう。

 会えるのが楽しみだな。




「では、またお会いしましょうね」


「またね〜!」


「はい、また今度、さようなら!」


 こうして、私の意識は神界を離れて現実世界に戻るのだった。

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