カタリナのひらめき

 カタリナが反撃をして来ないことに気づき捨て身の攻撃をし始めるヴィオラ。鎖の防御では追いつかなくなってきたカタリナは、露骨に距離を取りながら戦い始めた。


「逃げてばかりでは勝てませんわよ」


「そうですね。本官も気疲れするのでしたくありませんよ」


 そう言いつつも距離を取ることをやめないカタリナに、ヴィオラは段々と焦り出していた。

 

「《太陽を砕く牙スコル・ファング》」


 ヴィオラが剣先を飛ばすが鎖で弾かれ、その隙に近づき生え替わった剣で斬ろうとするが、もう片方の鎖が剣に巻き付かれ剣が折られる。そして、剣が生え替わるより先にカタリナが再び距離を取る


「もしかして、わたくしの《太陽を断つ迅毛スコル・スキン》が解けるのを待っていますの?」


「そうですよ。強化武装は堅すぎてほとんどの武器が通りませんからね」

 

「それなら、時間の無駄使いですわね。《太陽を断つ迅毛スコル・スキン》に制限時間はありませんもの」


 しかし、昨日の戦いにより下手に相手の言うことを精査せずに信じるのをやめたカタリナには、ヴィオラの揺さぶりに乗るほど甘くはなかった。


「そうですか。なら、お互い気長に決闘ができまね。それとも、休憩にでもしましょうか?」


「それはいい提案だけど、わたくしには不要なものですわよ。貴女だけ休憩してくださいます?」


「本官はまだ余裕ですよ。どこかの阿保女には随分と余裕がないようですが」


「本性が見えていますわよ」

 

「生憎、本官には品性は必要ないものでしてね」


 一向に攻めてこないカタリナにヴィオラは挑発が失敗したことを悟り、再びカタリナに向かって走り出した。


「《太陽を砕く牙スコル・ファング》」


 再び飛んできた剣先を弾くカタリナ。しかし、何度も弾いていたのか今度は隙にならず、そのまま飛び込もうとするヴィオラの剣を大きく弾き、ヴィオラがよろめいた隙に再び距離を取った。

 それでも近づいてくるヴィオラに、カタリナはヴィオラ自身に鎖を巻き付けた。

 

「そろそろですかね」


「何の話ですの?」


 巻きついた鎖を掴みカタリナを引き寄せようとするヴィオラに、カタリナは自身の枷を外した。


「時間です」


 カタリナの言葉が引き金となったのかヴィオラの強化武装が解け始める。カタリナは腰に下げた拳銃を手に取りヴィオラに向けた。


「待って、わたくしはまだ」

 

「終わりです」


 撃たれる寸前で鎖を解いたヴィオラだったが一歩遅く、カタリナの銃弾が右胸、脳天、喉元と次々に撃たれ大きく光の粒子が噴き出した。


「さすがにこれで終わりましたかね」


 第三の寵愛を警戒してか再び距離を取るカタリナに対し、武装が完全に破壊されたヴィオラは立ち尽くしていた。


「どうして……」


 ヴィオラが強化武装が想定していた時間より早く解除されたのが気になっているものだと思ったカタリナは親切心から教えることにした。


「強化武装を使うの初めてですか? あれほど剣を生やしていたら使用時間も短くなりますよ」

 

「……そうなんですのね」


 先程までの威勢はどこにいったのか、しおらしげなヴィオラにカタリナは少々毒気を抜かれていた。


「それなら、早く退場するのがいいと思いますよ。そこに立ち尽くされると観客が不安になってしまいます」


 カタリナの言葉を受け重い足取りで舞台から立ち去るヴィオラ。


「面倒臭い人ですね」


 ヴィオラの雰囲気とは違い会場は盛り上がっていた。

 

 


―――――――――――――――

 


 決闘が終わり武装を解いたカタリナは待機所に戻っていた。


「おつかれ! カタリナちゃん」


 そこにはヨゾラがいた。


「……どうしてここにいるのですか?」


 この待機所は着替えもする更衣室にもなっていた。つまり、ヨゾラがいるのはとても不味い状況だった。


「決闘で勝てたカタリナちゃんのことをお祝いに来たんだよ」


 そんなことを知ってか知らずか呑気に答えるヨゾラにカタリナは扉の方を指差した。


「そうですか。では、警備の人に突き出すので大人しくしていてください」


「まあまあ、そこは道に迷ったってことで許してくれない? 忍び込んだことは謝るからさ」


「本官に謝られても困りますね」


「そこを何とか」


「ふーむ」

 

 昨日の件もあり、カタリナはヨゾラのことを安易に逃してもいいものかと考えた。しかし、突如別の考えがカタリナの脳内に響き渡った。


「まあ、知らない仲ではないですし。今から本官が言うことを一つだけ従ってくれればヨゾラ君のことを見なかったことにします。もちろん、とても簡単なことです」


 カタリナの不穏な雰囲気を感じ取ったヨゾラは楽して手紙を届けようとしたことを後悔していた。けれど、簡単なことではなかったらすぐに武装して逃げればいいと考えた。


「えーっと、僕は何をすればいいの?」


「とりあえず、手を出してください」


 カタリナの言う通り簡単なことで、ひとまずほっとしたヨゾラは恐る恐る手を出した。

 けれども、カタリナはその手を握ったり触ったりするだけだった。


「ふむ、男の子にしてはあまりゴツゴツしていない可愛らしい手ですね」


「それだけ?」


「それだけですよ」


 そう言いながら、カタリナの輪になっている鎖型の寵愛の証が光った。しかし、それだけで武装もすることもなくカタリナは手を離した。


「《風の暗殺者》」


 ヨゾラが武装をしようとするも鳥の羽のような寵愛の証は光もせず、ただの飾りになっていた。


「いきなり武装をしようとするのは物騒ですね」


「従うのは一つだけだよね?」


「ええ、そうですよ。本官の言うことに一つだけ従う代わりに見逃すと言う約束です。なので、もう本官の言うことに従う必要はありません。もう出ていっても構いませんよ」


 しかし、ヨゾラには寵愛能力無しで外にいる人間に見つからずに出る手段は持ち合わせていなかった。


「人を騙すのは良くないと思うよ?」


「何のことだか本官にはさっぱり分かりません。関係ない話ですけど、この服を着たヨゾラ君はとても可愛くて女の子に見えるかもしれません。可愛い女の子なら本官と一緒にいても問題ないように見えますね」


 カタリナの手には自身の着替えがあった。


「確かに可愛らしい服だね。カタリナちゃんってそんなのも着るんだ」


「本官も非番にはお洒落をしますよ。見たところヨゾラ君にも着れそうな大きさですね」


「いやいや、カタリナちゃんの方が似合ってると僕は思うよ。うん」


「もちろん、本官の着替えなので下着もありますよ」


「それだけはやめてください。お願いしますカタリナ先輩」


「分かればいいんです」


 渋々カタリナから着替えを受け取ったヨゾラはそれでも決心がつかないのかずっと服を眺めていた。


「そういえば、本官は人を脱がせたことはありませんでした」


「自分で着替えられるよ!」


 小声で叫んだヨゾラは着替えようと服に手をかけた。


「さすがにあっち向いてて?」


「そのくらいはいいですよ」


 カタリナが振り向かないうちに着替えようとするも女性物の服の着方がわからず、結局カタリナに聞きながら着替えるヨゾラだった。

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