2章:時を賭ける少女(第1話)

仮説:スキルの種別と、死に至るまでの時間、あるいは使用回数には、有意の相関があるのではないだろうか






「あれ? ねえ桜チャン…。あれ、見て。国府チャン、どうしたんだろう?」


「あたしも、良くわからないの。声をかけても上の空で…。昨日の今日で、あんなにやつれるなんて…」


「国府チャンに、何か訊いてみた?」


「うん。でも、ひきつった笑顔を見せるだけで、何も答えてくれないんだよね…」


「あの、元気だけがとりえの国府チャンが…。恋煩いだろうか」


「恋煩い? 国府ちゃんが? えへへ。誰に対して?」


「そりゃ、鳴海先輩に決まってるじゃん」


「う、うそ…」


「いや、だってさ…。と、とりあえず、ボクからも国府チャンに訊いてみるよ」




「国府チャン、おはよ!」


「……コクリ」


「こ…国府チャン、元気ないね…どうしちゃったの?」


「……」


「これは重症だ…。一旦、桜チャンのところに戻ろう…」




「桜チャン、あれはどうかんがえてもおかしい…」


「やっぱりそうだよね…。どうしたんだろう。神宮ちゃんの寿命の事なら、もう大丈夫なのに…」


「ボク、鳴海先輩を連れてくるよ。本当に恋煩いかもしれないし」


「い…いや、そうだとしたら、鳴海くんを連れてくるのは逆効果じゃないかな」


「じゃ、じゃあ、ゴブ先輩を連れてくるか…」


「ちょっとお、誰でも連れて来ればいいってものじゃないでしょ」


「桜チャンそれはゴブ先輩に失礼だよ。ふふ」


「そ、そういうつもりじゃ…」


「あっ! もしかして…」




「ねえ、国府チャン。言いたくなかったら、別にいいんだけどさ…」


「……」


「もしかして、国府チャンの超能力を使って、何か…なんていうか…見てはいけないものを数値化して見ちゃった…とかじゃない?」


「……」


「神宮ちゃん…見ちゃいけないものって…。国府ちゃん…そうなの?」


「……あ、あのね…」


「う…うん…。続けて、国府ちゃん」


「あの…私ね…。私…」


「国府チャン、無理しなくてもいいよ!」


「私…えっと…。私…自分の超能力で、人の命を助けたい。できるだけ短時間に、できるだけ多く…」


「どどど、どうしたの…国府チャン…」




「桜チャン、昼休憩だというのに…国府チャンの様子が、やっぱりおかしいよ。弁当もひろげずに、ひたすらヒマワリの種を無心に食べ続けてるよ…。あれじゃハムスターだよ」


「視線も定まっていないみたいだよね…。国府ちゃん、今までこんな事なかったのに…」


「保健室に連れて行った方がいいかな?」


「とりあえず、そうしようか…。でも、心に原因がありそうだよね。あたしたちにも言えない事があるのかなあ…」


「よし、国府チャンに声をかけよう。ねえ、国府チャン! 国府チャン!」


「……」


「桜チャン、やっぱり上の空だ…」


「ねえ、国府ちゃん、聞こえてる? あたしたち、国府ちゃんの事、とても心配してるんだよ?」


「…あ、さっちん…」


「よかったあ…反応してくれて。ねえ国府ちゃん、一緒に保健室にいかない? あたしたち、見ててつらいよ」


「保健室…かあ…」


「ほら、国府チャン、ボクたちが付き添ってあげるからさ。このままじゃ、国府チャン、どうかなっちゃうよ…」


「う…うん。ありがとうねえ…。でも、大丈夫…。体のどこかが悪いとか…じゃ…ないと思うから」


「国府ちゃん、おでこ貸してね…。うん…熱があるわけではなさそうだね」


「じゃあ、やっぱり恋煩い?? 国府チャン、失恋でもしたの?」


「…うふふ…。失恋かあ…。失恋もいいよねえ…。でも、そんなんじゃないよ…多分」


「桜チャン、これ、1割くらいは失恋な気がするんだけどボク…」


「失恋って…誰に対して?」


「いや、だからさ、鳴海先輩だよ」


「鳴海くん…。そうなの? 国府ちゃん」


「さっちん…さすがにそれは違うけど…でも、鳴海せんぱいでもいいよねえ」


「どどど、どういう意味なの? それ」


「桜チャンが動揺しているっ! でも、保健室が嫌なら、鳴海先輩に相談してみようよ。昨日も助けてくれたんだから、今日も助けてくれるよ」


「そ…そうだね。じゃあ、あたし、鳴海くんを呼んでくるね」




「なんだ、豊橋先輩もいっしょなのか」


「ほう、神宮前も一緒なのか」


「お、おい豊橋。あんまり後輩をいじめるような言い方をするなよ」


「俺は特段、礼儀指導に興味がある訳じゃない。常に本音を前提に生きているだけだ」


「ふう…わかったよ」


「ほら、国府ちゃん、鳴海くんと豊橋さんが来てくれたよ」


「あ…ありがとうございます…」


「ね? 先輩がた、国府チャンご覧の通り、ちょっとおかしいんスよ、今日」


「国府はこの状態になった事について、何か話してた?」


「いえ…特に…。あ、そう言えば、できるだけ短時間に、できるだけ多くの人の命を救いたい、って言ってた…っス。あとは無尽蔵にヒマワリの種をむさぼっていたくらい」


「短時間に…? 人の命を? それって、もしかして…」


「おい、国府の精神状態について面倒を見る前に、明らかにしておきたいことがある」


「なんスか? 豊橋先輩」


「まず、何故、国府に、その不合理な超能力が発現したか、だ」


「ああ、そうか…。それは僕もずっと気になっていたんだ。少なくとも僕らの周りでは、国府にだけ特殊な超能力が発現したかのように見える。なにか要因があるはず…」


「鳴海くん、それって、マジシャンに催眠術をかけられたとか、宇宙人にさらわれてチップを埋め込まれたとか?」


「なんで桜はいつも、例えが小学生並なんだよ…。でも、そういうイメージ。より可能性が高いのは、何か放射性物質の近くに長時間滞在したとか…あるいは、強く頭を打ち付けたか」


「国府の超能力が発現したのはいつごろだ?」


「あ、あたしと神宮ちゃんが知っている限りだと、昨日の午前中には…。登校時に見かけるOLさんのバストサイズが数値化できる事に気づいた、って言っていたから…」


「国府よ。昼休憩が許す限りの時間をやる。ここ数日間の行動を記憶の限り、順に話せ」

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