1章:スは「スキル」のス(第3話)

「国府、あの男の子か!? 今、交差点で信号待ちをしている…」


「は、はい、そうです」


「よかった、みつけられて。まだ10分は経過してない筈だ。数値は? 確認できるか?」


「ええっと…2…ですね。あっ! 今、1になりました」


「鳴海くん…あと60秒ってことかな…」


「おい! そこの少年! その場を動かないで!」


「あっ! 鳴海くん、もしかして、あっちからやってくる車…」


「きゃああああああ!」


「このままじゃ駄目だ…! 車が少年に衝戟してしまう…。畜生!」


「あ、行っちゃだめ! 鳴海くん! 鳴海くんまで巻き込まれちゃう!」


「でも行くしかないんだ! 2人はそこで待ってろ!」


「あっ…理想の死に方って…ううん…。ねえ国府ちゃん、鳴海くんの寿命を分単位で数値化できる?」


「どどど、どうしよ~!」


「どうしたの?」


「鳴海せんぱいも男の子も、両方とも数値が…1…だったりして…」


「やっぱり…でも、どうすれば…」


「さっちん、このままじゃ2人とも死んじゃうよお!」


「わかった! あたしも行く!」


「あ、だめ! さっちん! さっちんまで巻き込まれちゃう!」


「鳴海くん! 止まって! あたしが助けるから!」


「バカ! なんで桜が来るんだよ!」


「こういう時は一緒だって言ったくせに!」


「そんな事を言っている場合じゃ…! わ、解ったよ!」


「あの車、居眠りか酔っ払いだと思う! 蛇行してるもの! 男の子も車の存在に気づいているみたい!」


「進路が予測できないなら少年の方を誘導したほうがいい! 遮蔽物はこっちの方が多い」


「わかった! ほら! そこのボク! お姉さんとお兄さんの方に走って!」


「少年、こっちに来るんだ!」


「わあああぁぁぁぁああん」




 ドガァァァアアアアン! ウゥゥウウウウン!




「……あ、あたしたち…生きてる…?」


「ああ、大丈夫みたいだ。少年、大丈夫か? 怪我はしてない?」


「あ…う…うう…ええ…」


「ああ…怖かったよねえ…。もう大丈夫だから、お姉さんが抱きしめてあげるから。ほら、ぎゅぅうう」


「鳴海せんぱ~い! さっち~ん! 無事だった~?」


「う、うん、国府ちゃん、あたしたちは大丈夫。男の子も、ちょっと動揺しているけれど、大丈夫みたい」


「しかしな…。ガードレールを吹き飛ばしておきながら、そのまま走り去るとは…」


「一応、警察に知らせておいた方がいいかな? 鳴海くん」


「そうだね…この少年のこともあるし、その方がいい。それと、国府、男の子の寿命をもう一度、確認してもらえるかな?」


「は、はい…。私のあてにならない寿命の数値化が正しければ、ええっと…0が1つ2つ3つ…で…4,000万…分だから…」


「分単位かよ…」


「はあ~ん! 計算できませんよ~」


「まったく…。4,000万分なら、だいたい80年くらいだよ」


「ゴ、ゴホン! えっと…あと80年生きられるみたい…です…」


「ふう…。そうか。それはよかったよ…」


「ねえ国府ちゃん…」


「なあに? さっちん」


「あたし、今、ちょっと気になっちゃったんだけどね…」


「桜、どうしたの?」


「うん…。さっき、男の子の寿命があと10分、って言ったじゃない? それでね、確かに自動車に轢かれそうになって、鳴海くんが助けたよね」


「僕と桜の2人でね。ついさっき経験した通りだと思うよ」


「うん。それでね、助けたあとに、寿命が80年になった…」


「…そうか、なるほど。桜が言いたいことが解ったよ」


「え~? 鳴海せんぱいは解ったんですか? なんですか? なんなんですか~?」


「国府、よく聞いて欲しいんだ。もし、国府が見た、あの少年の10分と80年の寿命が両方とも正しいとしたら…」


「はは…はい…」


「未来は変えられる、という事になる」


「未来を…変えられる…ですかあ? どういう意味ですか、それって」


「国府ちゃん。10分だった寿命が、あたしたちの干渉で80年になったんだよ。それって、凄いことだよ!」


「10分が80年に…? そ…そうか、そうなんだ~! その人の寿命が短く見えちゃっても、助けてあげられるかも知れないってことだよね! 私の超能力ってば、やっぱり凄い!」


「いや、確かに凄いよ。凄いと思う。ただし、寿命が正しく見えていたのなら、だけどね」


「そそそ、そうでした…」


「なんで、あたしや神宮ちゃんの寿命はちゃんと見えなかったのに、男の子のは見えたのかな?」


「う~ん。なんででしょう。ん~もしかすると、分単位なら寿命がわかるのかな…」


「分単位? ああ、確かに、国府が見たのは10分と4,000万分だったもんな」


「た、大変! だとすると、神宮ちゃんの寿命は、残り400分だったってこと? あと5時間から6時間くらいしかないことになっちゃう!」


「なんだって? じ、神宮前は…」


「多分、委員の集会だと思う」


「委員? 神宮前は何の委員に所属してるんだ?」


「学級委員だよ。クラスの副委員長だから」


「学級委員か…。というか、あの調子でクラスのとりまとめ役なのかよ…」


「集合は生徒会がかけていると思うよ。だから、生徒会室に行けば…」




「な、なんなんスか、鳴海先輩。国府チャンに、桜チャンまで…。まだ会議の途中だったんですけど…といっても、寝てましたけどね。てへ」


「国府、もう一度確認を頼む。神宮前の数値は…」


「はは…はい…。ええっと…やっぱり、400を超えています。正確には452ですよ」


「452…。8時間弱か…」


「国府チャン、ボクの寿命の話をしてるの? それだったら、さっき、寿命は正しく表示できないって…」


「神宮ちん、私もそう思ってるんだけれどねえ…。もしかしたら、年じゃなくて…分かもしれないって…」


「分? 何が?」


「神宮ちゃん、落ち着いて聞いてね? ついさっきの事なんだけど…。国府ちゃんが、寿命が10分と表示された男の子を見つけたの。それで、気になって、あたしたちで後を追いかけたら、赤信号で交差点に突入してきた車に轢かれそうになったの。偶然かもしれないけどね? たまたま鳴海くんがそれを助けられたんだけれど、そのあと、男の子の寿命が4,000万分…つまり80年と表示されたんだって」


「それって…まさか…」


「そのまさか、かもしれない。国府は、年単位では寿命を表示できないが、分単位なら表示できる。この仮説が正しければ、神宮前の寿命はあと8時間弱だ」


「…うっぷす…」


「………」


「ボク…どうすればいいのかな? あと8時間で、死んじゃうのかな…?」


「何もしなければ、そうなる可能性があるよ。でも、さっきの少年がそうだったように、未来は変えられる。だから、僕たちは今から、神宮前のこれからの8時間に対して、徹底的に干渉をする」


「ボク…の8時間に…干渉を? それはどうやってやるんスか?」


「簡単な事だよ。これから神宮前を8時間、この教室に監禁する」


「か、監禁…って」


「食事は僕らで用意するし、トイレの時は国府か桜に個室内まで同行してもらう。肝要なのは、何があっても絶対にひとりきりになる時間を1秒たりとも作らないこと。そして、窓際や天井の梁の真下とか、転落や落下による死亡の可能性をできるだけ排除すること」


「鳴海せんぱい、この教室は1階ですよ?」


「その通り。転落の危険性を考えて1階を選んだ」


「鳴海くん、今から8時間後って…」


「ちょうど夜中の12時までだね…」


「わわ、私、家に連絡を入れておきますね」


「あ! あたしも!」

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