大賢者と魔王軍


 翌朝、何者かが結界にぶつかって墜落した。露出度の高い変な魔女の様だ。ヤバイ案件そうなので、アルフォードは放置そしておこうと思った。


「御主人、行き倒れを回収してきました」


「これ、魔王軍だよね。そんなものを連れてくるなばっちぃから捨ててきなさい」


「ふっ、よくぞ妾を倒したな。勇者ども褒めて使わす」


 ガバッと起き上がる。魔王軍の女幹部と思わしき女性は、よく見なくてもやはり露出度が高い服を来ている。胸とか腰の辺りなどリンゴ社の規約で黒塗りにされるぐらいのギリギリアウトを攻めている。お腹はむき出しで、風邪を引きそうだ。さらにへその辺りにはピンク色の紋様が彫り込んであり、黒い尻尾が後ろに生えていた。いわゆる悪魔の尻尾の様だ。頭からは雌山羊の様な角が生えていた。


「あのー勇者ではないし、そもそも戦闘とか出来ないのだけど」


「まぁ、それは良い」


「「痴女だ」」


 エリザとカチュアが敢えて黙っていたことを口にする。


「痴女違うわ。これは妾の戦闘服だ。妾は魔王軍四天王の一人サキュバスのベライザだ。わざわざ挨拶しに、やってきたのだ光栄に思え。それよりここまで不眠不休で飛んできたのだ何か持てなす者をだせ」


「硬いパンと塩水ならすぐに用意出来ますがそれで良いでしょうか?」


「いや、サキュバスに対する持てなしと言えばあれだろ。そこにいる男、さっさと差し出せ」


「えっと何をでしょうか?」


 アルフォードはすっとぼけた。


「ええい、分かるやつめこうしてやる」


 ナーマと名乗るサキュバスは目を赤く光らせて、アルフォードを見つめた。いわゆる魅了の魔眼だ。この魔眼に魅入られたものはサキュバスに性的興奮を覚えると言う。


「目が、赤く点滅しましたね。変身が解ける時間なのでしょうか?」


「違う。なぜ妾の魔眼が効かないのだ?もしかしてあっち系なのか?」


「いや、俺はあっち系でもそっち系でもないのだけど。まぁ大賢者だからかなぁ」


 アルフォードは賢者タイムと言う単語を思い出していた。


「まぁ良い。お前では無くてもそこの二人でも良いわ。そこの妄想を少しいただくぞ」


 実は、情欲を糧にするサキュバスの養分は実は性別には関係なく集める事が出来る。夢を食べるのがバクなら情欲を食べるのがサキュバスだ。


「しかし、貧相な体つきをしているのに、随分スケベだな。妾もどん引きだ」


「その貧相と言うのは取り消しなさい」


 カチュアが背後を取ると短剣を喉元に突きつけた。スケベと言う方は否定しないのだなとアルフォードは漠然と考えていた。


「ふーん、手練れだな。暗殺者かなんかか?しかし、その程度妾には効かぬ」


 そう言うとカチュアの眼前に居るナーマは消え去り、カチュアの後ろに現れた。


「お主が背後を取ったのは妾の幻影だ。その程度の幻影に騙されるとはたいしたことないようだな」


 そしてナーマはエリザの方を見る。


「そっちの獣人も性欲を持て余していそうだな。これは上質なムッツリだな」


 そして舌なめずりしながらエリザの方ににじりよっていく。


「あ、あの……」


 狼狽えるエリザ、尻尾を逆立てながらゆっくり後ずさりしていく。後ずさりした分、ナーマがにじり寄る。これを何度も繰り返す。エリザは丸で蛇に睨まれた蛙の様になっていた。


「いいかげんにしろ」


 大きくバシンと言う音が鳴り響いた。アルフォードがナーマの後頭部を殴りつけたのだ。


「あいた」


「いやそれ痛くないから」


 アルフォードは、いつのまにか取り出したハリセンを手にしていた。


「ん、そういばここに来たのはお前に用事があったのだった。私は、魔王軍四天王の一人サキュバスのナーマ。今日は用事があって来た」


「四天王と言う割には弱そうだな」


「私でも倒せそうな気がします」


 カチュアが刃物を振り回しながら嬉々として言う。その刃物は料理用で魔物を切るためのモノでは無いので猟奇的に見えた。アルフォードはそれを敢えて無視する事にした。


「私でも殴り飛ばせるのだ」


「勘弁してください。魔王軍四天王と言っても私は文官なんです。最弱どころか戦闘担当ではありません。しかも四天王といっても5人いたりするんですよ」


 聞いていない情報まで話しだすナーマだった。それを聞いたアルフォードは、龍造寺ネタは辞めておけと思った。何のことか分からない人は「龍造寺 四天王」で検索だ。


「それを言ったら俺も戦闘能力は無いぞ。それで何のようだ」


「いえ、この辺りに強い魔力を感じたらしく、王国の拠点か調べてこいと言われたので来たのですが、それはどこでしょうか?」


 ナーマは、見た目とは対照的なポンコツ感を醸し出してくる。所謂、残念さんだったようだ。


「いや、ここの事だろ。先程まで結界にぶつかって伸びいてたの気がつかなかったのか?」


「ああ、ここなのですか。それでここの主に用事があるのですが……」


 ひたすら手もみするナーマだった。


「それでは、魔王様のお言葉を伝えます。だれの許可を得てここに住んでいるのか?」


「ヤケに高圧的だな。ファーランドは無主の地だから誰の許可も要らないはずだが?」


 正論で言い返す。アルフォードだった。


「それは良いです。あなたは帝国のものでしょうか?」 


「帝国など500年以上前に滅んでいるだろ?一体いつの時代の話をしているのだ?年がバレるぞ」


「まぁ良いです。帝国のものでないとするならば、一体どこの国の尖兵なのでしょうか?」


「今は、どこにも属していないが?」


「ええい、話が通じない人ですね」 全く要領をえない質問を繰り返しているのはナーマの方だった。「分かりました、それではこうしましょう。貴方がここに住めるだけの実力を示せるなら、住むことを許しましょう。なにせ私は、魔王領の全権大使ですからね。条件も決められるのです」


「意味不明なことを突然言い出すな!!」


 流石のアルフォードもおこだった。


***


「塩をまいとけ」


 アルフォードはナーマを城から追い出すとカチュアに言った。


「御主人様、塩をまくと何か良いことがあるのですか?」


 この国には、邪気払いに塩をまく習慣はない。アルフォードは思わず前世の口癖が出てしまったのだ。


「それはだな。カルタゴを滅ぼす時の呪文だ」


 第三次ポエニ戦争でカルタゴが滅んだ時、ローマはカルタゴの街をことごとく破壊尽くしたと言う。人は奴隷として売られ、その土地は二度と再生しないように塩をまいたと言う。それに因んだ言葉だ。


「???」


 しかし、カチュアには理解出来なかったようだ。この世界の話ではないから当たり前だな。アルフォードは思った。しかし、魔王軍は意地になって攻撃をしかけて来るに違い無い。そのための準備をしなければと思った。しかしアルフォードには軍事が分からなかった。ひたすら結界を強めてゴーレムを操ってどうにかするしか無かった。


「最悪、城ごと転移してしまえば良い」


 アルフォードは、かなり呑気だった。



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