第39話 亡き妻の想い
まぁやんは数ヶ月ぶりに自宅に帰った。
シーンとした自宅…寂しさが込み上げてくる。
まぁやんはまず、髭を剃り、自ら伸びた髪の毛を切った。
「こんな姿…舞華にみせられねぇな…」
そして舞華の祭壇に向かった。
「舞華…ほったらかしにしてしまって…ごめんな。俺…お前を失った現実から逃げてたよ…」
蝋燭に火を灯し、線香を上げた。
「龍弥や恋のおかげで…現実に帰ってくることができた。感謝しないとな…」
そしてふとテーブルに目をやると、舞華の遺言書があった。
「そういえば…康二が持ってきてたな…」
まぁやんは遺言状を開封した。
中には手紙が入っていた。
※ここからは原文そのままである。
まぁやんへ…
まぁやん。私ね、まぁやん出会えた事、すっごく奇跡だと思ってる。あの時、私がお財布を忘れなければ、泥棒さんがお財布を盗まなければ、私たちは他人のままだったんだね。泥棒さんに感謝だね(笑)
まぁやん。この手紙読んでるって事は、私はもういないんだね。ごめんね。寂しい思いさせちゃったね。
私ね、すごく幸せだった。
まぁやんったら、あまりそういうの表に出さないでしょ?だから私がたくさん出してたの。幸せオーラを。
そしたらね、まぁやんも段々出してくれたね。幸せオーラを。それがすごく嬉しかった。
私の夢を叶えてくれて、ウエディングドレスを着せてくれた時、まぁやん照れてたね。ほんと可愛いんだから。照れながら「綺麗だよ」って言ってくれたね。
まぁやんと出会って、今まで味わえなかった幸せを一生ぶん、凝縮して過ごせた期間だったよ。
私がいなくなっても、まぁやんにはまだまだ人生があるから、落ち込みすぎないで、前に進んで欲しい。
私はまぁやんの中で生き続けるから。
私、まぁやんに一つだけお願いがあるの。
まぁやん、私の事を引きずって新しい恋をしないのだけはやめて欲しい。
まぁやんには幸せになってもらいたい。
だから好きな人が現れたら、迷わずその人に私と同じぐらいの愛をそそいであげてね。
私はその方が嬉しいです。
まぁやん…ありがとうね…
私は本当に幸せでした。
これからも…遠いお空の上から、まぁやんの事見守ってるからね。
愛してます…まぁやん…
舞華より
「舞華…」
まぁやんは舞華の祭壇に向かった。
「舞華…わかったよ…お前の気持ち…しっかり受け取った。ありがとうな…お前はすげぇ女だよ!」
まぁやんは祭壇に手を合わせた。
「一つだけわがまま言わせてくれ…今日一日だけ…泣かせてくれ…お前を失った悲しみ…今日だけ…」
まぁやんは舞華の祭壇で、今まで撮り溜めした写真を見ながら…号泣した…
どれくらいの時間が経ったであろうか…
「あ〜…ぐすっ…一生分泣いた気がするぜ…」
まぁやんはスクッと立ち上がり
「まずは部屋の掃除だ!舞華に怒られちまうな!」
まぁやんは全ての窓を開けた。
そして荒れた部屋を綺麗に掃除し始めた。
「やべー。冷蔵庫の中、色々ダメになってるな」
床も綺麗にして、キッチン周り、洗面や浴室など、入念に綺麗にした。
「そういえば舞華のやつ、綺麗好きだったからな」
『ピンポン』
「ん?誰だ?」
「わーたーしー」
「恋か!どした?」
「いいから早く開けてよ〜」
まぁやんは鍵を開けた。
「まぁ兄、手伝いにきたよ」
「サンキュー」
「これ、まい姉が好きだったお店のおはぎ」
「おっ!気が効くなぁ。舞華にお供えしてやってくれ」
「うん!」
恋は舞華の祭壇に手を合わせた。
「まい姉!来たよ!おはぎだよ!」
「あいつ!喜んでるんでないか?」
「だといいなぁってまぁ兄!掃除結構やってる」
「まぁな!俺らふたりとも、元々綺麗好きだったし」
「そっか。今日の晩御飯は?」
「あ…そう言われると腹減ってきたな」
「ふふ〜ん!」
「な…なんだよ。その自慢げな顔は」
「しょうがない…今日は特別にわたしが晩御飯を作ってしんぜようぞ」
「はぁ?お前が?てっきり俺の作る飯食いに来たかと思ったぞ?」
「まぁまぁ。それはいつもそうだけど、今日は違うんだなぁ」
「つぅか…お前料理出来んのか?」
「し…失礼な!わたしだって出来るわよ」
(いい?恋ちゃん。男ってね?心が胸と腹にあるんだよ。だからまず腹…つまり美味しいご飯を作ってあげる。そうすれば男はイチコロだよ!)
舞華は恋にこんな事を言っていた。
(まい姉!わたし!頑張るよ)
恋は舞華の遺影に心で呼びかけた。
「恋?どした?」
「ううん。なんでもない!さぁ!やるよ!」
恋はこの時のために、料理を一生懸命練習していた。
「じゃあね!手作りの餃子を作ってあげる」
「じゃあ、俺も手伝うよ」
「いいよ!まぁ兄は休んでて!」
恋は早速、料理を開始した。
(よし!やるぞ!)
……
……
「まぁ兄…」
「ん?どした?」
「餃子…うまく包めない…」
「ぷっ!たく!しょうがねぇなぁ」
まぁやんは恋の隣に来て、餃子を包み始めた。
「いいか?真ん中にタネをこれくらい置くだろ?そしてこうやって水を軽くつけて、波を作る様にだな…」
恋は餃子の作り方より、隣で一緒に料理しているこの瞬間がすごくドキドキしていた。
「恋!聞いてるのかよ!」
「ん?えっと…」
「何ぼぉーっとしてるんだよ。変なやつだな」
「えへ?」
「えへ?じゃない!ほら!やってみろ!」
「はーい」
(まい姉は…こんな風に毎日まぁ兄と過ごしてたんだ…)
恋の中で、まぁやんが兄ではなく、ひとりの男として意識し始めた時だった。
3ヵ月前…
ちょうどまぁやんが消息を絶った頃であった。
「恋…今いいか?」
康二が恋の元を訪れた。
「お兄ちゃん。どしたの?」
「これ…お前にだ…」
それは舞華から恋に宛てた遺言書であった。
「これ…って…まい姉の…」
「そうだ。俺が舞華さんから依頼されて、代理人になってたんだ」
「お兄ちゃんが?」
「あぁ。正式な依頼だからな。他の人には言えなかったんだ」
「……」
「今な、まぁやんにも渡してきた。あいつはまだ受け入れることは難しいであろう」
「そっか…」
「恋…ちゃんと読んでやれよ!それが舞華さんの想いなんだからな」
「わかった…」
康二が帰ると、恋は舞華の遺言書を開封した。
そこには明らかに舞華の筆跡で書かれていた。
※ここからは原文です。
大好きな妹の恋ちゃんへ
恋ちゃん。まずは私の妹になってくれてありがとう。
私ね、ひとりっ子だったから、恋ちゃんみたいな可愛い妹ができて、本当に幸せでした。
長く姉妹出来てるかな?それとも短かったかな?
とにかくね、恋ちゃんが今これを読んでる頃は、私はこの世にはもういません。
だから、あらかじめ手紙を用意しておきました。
最初に会った時、すごくドキドキしたなぁ。
だって恋ちゃん、私に敵意を持った感じだったんだもん。
でもそれが何故なのか、すぐにわかっちゃった。
恋ちゃんは、まぁやんのことが好きなんだって。
そりゃ、私だって嫉妬したよ。
まぁやんの恋ちゃんを見る目、ふたりが今まで歩んできた時間は、私よりも遥かに長くて…
でもね、恋ちゃんと話してみて、すごくいい子だったし、話し易かったし、何より真正面から正直な気持ちを話してくれたから、私は妹になって欲しいと思ったの。
恋ちゃん、私がいなくなった世界はどうですか?
まぁやんは大丈夫ですか?
それだけが心配です。
だからお願いです。今度は恋ちゃんがまぁやんを支えてあげて下さい。そして愛してあげてください。
私は恋ちゃんなら、喜んでまぁやんを託せます。
恋ちゃんの素直な気持ちを…まぁやんに…
そして、幸せに長く生きてくださいね。
今まで、ありがとう!
私の愛しい妹…恋ちゃん…
不器用な姉 舞華より
恋は涙が止まらなかった。
舞華はそこまで考えていたんだ。
偉大な姉だと思った。
「まい姉…まい姉の意思は必ず受け継ぎます」
恋は舞華からの遺言書は一生の宝物にしようと決めて、大切にしまった。
「まぁ兄…わたしはまぁ兄が好き!兄としてではなく、ひとりの男性として…まぁ兄を愛してる!」
恋の氷のように封印されていた想いが…溶け出すようにゆっくりと表面に出てきた。
この想いが、これから恋に試練を与える事になる。
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