第19話 魔導人工衛星と世界地図
近隣の人間やドワーフとそれなりの関係を築き魔獣も退治出来る様になった今、次のステップとして必要になるのはやっぱり長距離移動手段だわ。星全体を考えるからには星全体を移動する手段が無ければ影響を及ぼすことが出来る範囲も自ずと狭くなる。そのキーアイテムとなるのは移動に必要なエネルギーの確保のはず。そういう意味では、魔獣の洞窟のボス級からドロップしたこの巨大魔石は、キーアイテム足りえるわ。
次の段階としてはエネルギーを何の動力にするかよね。船、飛行機、あるいは飛行船。普通に考えれば海路か空路の二択しかない。
いつも使用している魔導飛行機に巨大魔石を積めば遠くまで飛べるのかしら。でもどれくらい飛べばいいのかわからない。なんせ世界地図がないのだから、ヨットで新大陸を発見しようとするようなものね。だとしたら——
「まずは人工衛星かしら」
でも推進力が足りなそう。あるかどうかわからないけれど、過去のスタンピードのボス級の魔石は残ってないのかしら。
「腐るほどあるぞい」
じぃじに聞いてみると居住区から少し離れた場所にある里の蔵に幾らでもあった。あまり大きな魔石をそのまま森に放置しておくと周囲の木に影響がでて稀にトレント化する場合があるから安置するらしいけど、
「いったい何回ボスを討伐したの……」
うずたかく積まれた二メートル越えの魔石群に絶句していると、正確な齢すら数え忘れて久しいのに、わしが生まれる前から山とあるボス級魔石の数など把握しているわけなかろうと笑った。
いずれにしても、これだけあれば自転の斜め方向に向かって多段式ロケットを打ち上げて、衛生軌道上に魔導監視衛生をのせることができるかも。そう考え魔導演算器でロケット方程式を解くと、スタンピードのボス級魔石二つを利用した二段式ロケットなら、先日得た六十センチの魔石を用いた魔導監視衛生程度のペイロードを大気圏外の衛生軌道まで運べることが分かった。その後、何回かの試行錯誤の後、最終的には里でも空力に詳しい大人のエルフによってブラッシュアップされた二段式魔導衛生ロケットは、見事に魔導監視衛生を大気圏外の衛星軌道にのせた。
惑星の自転軸に対して、たすき掛けするような軌道を自転スピードよりやや早く周回する魔導人工衛生は、大気圏外から見た星の様子をリアルタイムで送ることができた。未使用領域のアカシックレコードを通しているので魔導人口衛生が通信範囲にあろうがなかろうが問題なかったのだ。この映像を切り貼りすることで、やがて大まかな地図を作ることに成功した。
今いる大陸は北緯三十数度くらいを中心とした中規模の大陸で、西にある海の向こうの比較的近距離に、今いる大陸と似たような植生で二倍くらいの大きさの大陸が存在していた。今いる大陸から海を隔てて南西には、ほぼ同じ大きさのジャングルで覆われた大陸がある。そのジャングル大陸の東側に何倍かの大きさの半分砂漠で覆われた大陸があった。その他は七割くらいが海で覆われていた。大陸といかないまでも比較的大きな島や列島などもあるけど、今はそこまでは考えなくていいわ。
西の大陸なら普通に魔導飛行機で一日かからず渡れるわね。植生から気候、山脈の有無までほぼ同じようだし交流しやすいでしょう。南のジャングル大陸は暑そう。エルフや人間やドワーフは住んでいるのかしら? 私は熱帯雨林気候でやっていける身体なのかしら? あと遠いけど広い砂漠地帯がある大陸が気になるわ。どうしてこんな広い砂漠ができてしまったのかしら。
砂漠化が進む場所は四つほどが考えらえるわ。
1 惑星の気流から一年中高気圧で覆われて雨が降りようがない場所
2 大陸近くを寒流が流れることで海水が蒸発しにくく上昇気流が生じない場所
3 高い山脈の風下にあり雨が降らない場所
4 大きな大陸の内陸部で海の水蒸気が届かないような場所
大陸の位置と大きさからすると1と4の複合かしら。そうするとちょっとやそっとでは緑化できない。ここは森がないからエルフは住んでいなそうね。エルフの寿命を考えると、億年単位の大陸移動により気候が変わって砂漠化したりしたら、過去に大移動したのかもしれない。人間やドワーフは、ひょっとしたら砂漠の南に広がるサバンナにいるかもしれない。いえ、ひょっとすると砂漠にも遊牧民族がいる可能性もゼロではないわ。
とりあえず得られた情報はじぃじに話して展開してもらうことにしよう。
◇
「セイル? しばらく見ないうちに随分……
魔獣の洞窟ブートキャンプでしばらく里をはなれていたので、久しぶりにセイルに会おうとクッキーを焼いて来てみたら、セイルの里の長じたエルフ達と鍛錬している最中だった。
ボロッっという擬音が聞こえてきそうなセイルとは対称的に、長じたエルフ達のほうは余裕で「よくきたね」と手を振ってくる。手を振り返したものの、なんだか邪魔してそうだし一言挨拶して帰ろうかしら。
「たいしたことないよ、フィスは相変わらずみたいだね」
木剣を脇に置くと、セイルは船無しで大陸を発見したことを聞いて、相変わらず他のエルフが考えつかないことを次々とやらかすと笑っていた。確かにそうかもしれないと笑い返し、少し真面目な表情をして考えていることを話した。
「私、いつか西にある大陸に行ってみようと思うの」
少し不安もあるけれど、そこにいるエルフや人間やドワーフたちにも、環境にやさしい魔導製品を伝えたいの。そう言ってセイルにリボンで結んだクッキーの包みを渡すと、ささやくように告げた。
「そのとき、もっと
そういって頬にキスをすると手を振って足早に去った。しばらくすると、後ろから訓練再開を告げる雄叫びとカンッカンッと木剣同士が切り結ぶ音が響く。
私も頑張らなくちゃね!
◇
シリル長老に言われてセイルに
しばらくして遠くからランララン♪ と口ずさみながらスキップ気味に近づいてくるフィスリールが目視範囲に入ってきていた。
「……スキップなんて千年、いや二千年振りに見た」
「可愛いなあ、お兄ちゃん呼びしてもらいたいわ」
「自分の歳を考えろ、自重しとけ」
老成した大人のエルフはスキップなどしない。年長のエルフは、見るからに幼い仕草で近づくフィスリールに頬を緩めていた。
「おいセイル、そろそろ起きろ。
それを聞いたセイルは急いで起き上がると無理やり息を整えた。大人のエルフ達は近づくフィスに小さく手を振り歓迎する。フィスは強化訓練で
「たいしたことないよ、フィスは相変わらずみたいだね」
(たいしたことないならもっと揉んでやればよかったな)
(よせ、
(余計なこと言うと遠くで監視している女衆に絞められるぞ)
雑音が聞こえてくるが気にしない。フィスに格好悪いところは見せられない。
その後、最近の世界地図などの世話話をすると、フィスはいつの日か新大陸に行きたいという。
「そのとき、もっと
そういって僕の頬にキスをして、少し顔を赤くして足早に去るフィスの後ろ姿を見送った。
「いやぁ~、本気でいいもん見せてもらったわ」
「ああ言われたら意地でも
「それが嫌なら、フィスちゃんは年長のガイルに嫁入りだ」
それを聞いた僕は雄叫びを上げ、木剣を手に取り正眼に構えた。
「フィスは絶対に渡さない! 死ぬまで特訓だ!」
「「「その意気やよし! ならば訓練再開だ!」」」
その後、木剣同士が切り結ぶ音がいつまでも鳴り響いた。
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