第10話

 エリシア達の生活は続き、エリシアは独自に薬草学を、マリーは独自に植物の生態学を、リアムは狩りに出かけたり魔法の練習を続ける日々を送った。


 そして、森に捨てられてから3か月が経過した。


 遂にリアムが普通に話せるようにまで回復したのである。




「エリシア嬢、マリー嬢。今日のこの日まで大変お世話になりました」


「いえいえ! 私達もリアムさんのおかげで助かりましたから」


 マリーも同意の頷きで答える。


「それで二人に話しておきたい事がある。これは相談でもあるが……」


 真剣な表情のリアムに二人もすぐにその意図を汲み取る。


 恐らく、ここに捨てられた件についてなのだろう。


「二人がどうしてこの森に捨てられたかまでは分からないが、恐らく俺と同じ相手によって、ここに捨てられただろうと予想している。その相手の名前は――――――マシュー第三王子だ」


「…………はい」


 久しぶりに聞いた最愛だった人の名だ。


 エリシアが見るからに落ち込んだ事に、マリーが身体を寄せる。


「悲しい記憶を思い出させてしまい申し訳ない。もしかして、エリシア嬢はセイルド子爵家の令嬢ではないか?」


「…………はい。エリシア・セイルドと申します」


「そうか…………やはりな……マシューの婚約者だったんだな」


「っ……」


 その答えで全てを悟ったようにリアム頷く。


「エリシア嬢の正体を知って、俺の正体を隠すのもフェアーではないだろう。俺は…………マシューの兄、リアム第一王子だった・・・


「第一王子様!?」


「…………厳密にはだったというべきだろう。俺は生まれながら重大な病気を抱えている。その病気と王太子の座も相まって…………普通の生活は出来なかった。王子としてそれが当たり前だと思っていたから、悔しい気持ちはない。ただ……第二王子のヘンリーやマシューと遊べる時間も減って行き、どんどんお互いを嫌いになっていった。俺は自分の病気の事もあり、次第に多くの人々から恐れられるようになったのだ。気付けば、マシューの策略で少しずつ毒物を飲まされて、ここに至った…………」


 酷く悲しむリアムに、お互い悲しみを覚えるエリシアの右手が、優しく彼の頭を撫でる。


「リアムさん。ここまで頑張りましたね。私もずっとお父様を困らせたくないと、ずっと自分の気持ちに蓋をして来ました。だから、リアムさんの努力はとてもよく分かります」


 自分も辛いはずなのに、真っ先に他人を思いやるエリシアに、リアムの頬には大粒の涙が流れる。自分が生きている意味は何だろうとずっと考えていた。


 それがようやく分かった気がした。


 ここで、エリシアに会う為なのだと。


「エリシア嬢。マリー嬢。俺は王城に戻らねばならない。あの暴虐のマシューを止めなければならないのだ」


 リアムは二人と目と目を合わせる。




「どうか、二人の力を俺に貸してはくれないか?」




 初めて出来た唯一心が許せるエリシアとマリー。


 リアムは高まる心臓の鼓動に今まで感じたこともない緊張を味わう。


 だが、二人が一緒にいるならどこまでも羽ばたける気がした。


「はい。私達を助けてくださったリアムさんの頼みなら、私も頑張ります!」




 暗い森の中、ボロボロの格好の男女を月明かりが祝福するかのように照らした。

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