第76話 珍しき来訪者

 俺と莉央がデート動画で世間をお騒がせした日の当日の夜の出来事である。

我が家に珍しい来訪者が現れた。


「ただいまー」


 まず、父親が帰ってくることも珍しい。

どうやら、大きな事件が片付いたらしい。


 ここ最近は連続放火事件やらで忙しかったらしい。


「おかえりー」


 俺はリビングのソファーに座ったまま答える。


「お邪魔します」


 聞きなれない女性の声も飛んできた。


「親父、どちら様?」


 親父の後ろには20代半ばくらいの女性が立っていた。

黒髪を肩の位置くらいまで伸ばして、スタイルが良い女性だ。


「ああ、彼女は橋本千鶴さん。最近、うちに配属されたんだが、お前の話をしたら会いたいっていうもんだから連れてきた」

「親父、絵面はパパ活にしか見えねぇぞ」

「やかましいわ」


 親父がポンと俺の頭を叩く。

全然、痛くもないけどな。


「初めまして。橋本千鶴と申します」

「初めまして。親父の息子です」

「なんだその自己紹介は」


 親父は冷蔵庫の中からハイボールの缶を取り出して飲み始めている。


「お父さん、おかえりーってなんか綺麗な人がいる!」


 柚月もリビングにやって来て大きな声を上げる。


「親父の部下らしい。俺に会いたかったんだと」

「へぇ、お父さん、パパ活してるのかと焦ったよー」

「お前ら、俺を何だと思っているんだ!」


 親父も親父で大きな声を出している。

いや、近所迷惑になるからやめて!!


「2人ともご飯は?」

「いや、まだだな」

「じゃあ、食べてってよ。ほら、お姉さんも!」


 柚月は半ば強引に椅子に座らせる。


「私、お父さんの娘の柚月って言います!」

「橋本千鶴です」

「じゃあ、千鶴お姉さんだね!」


 そう言って、柚月はご機嫌でご飯を温めている。


「それで、俺に会いたいってのは?」

「諒さんってプロホプルの世界大会優勝者って聞いたんですけど!」


 距離が近い。


「ええ、本当ですけど」

「実は、私、アメリカの射撃大会で優勝していて、プロホプルもやってるんです!」

「そりゃ、凄いですね」


 俺は、少し千鶴さんと離れて言う。


「一課長の息子さんがあのtakamoriさんだと知った時はそれはもう、驚きましたよ」


 この人はどうやら、俺のファンという位置らしい。


「千鶴さんはうちの期待の星だから。剣道大会でも優勝してるし、警視庁内や、全国の警察官を入れても射撃の腕は3本の指に入るだろうな」


 なぜか親父が自慢げに言う。


 アメリカの射撃大会で優勝しているのだから、その実力は確かなものだろう。

アメリカは日本よりも銃社会である。


 その銃社会で優勝してるっていうんだから本物だろう。


「諒さんの実況動画を見て、私のプロホプル始めたんです!」

「何というか、ありがとうございます」

「でも、全然上手くならないんですよねぇ」

「多分、実際の銃を撃つとは違うんだと思いますよ」


 プロホプルはあくまでもFPSゲームなのである。

実際の射撃とはまた感覚が違うものなのだろう。


「なるほど。そういうものですか」

「まあ、多分ですけど」

「諒さんがプレイしている所、実際に見せてもらうことってできます?」

「それは、全然構いませんよ」


 ゲームを上達させる上で効果的なのは、うまい人のプレイを実際に見るということもある。


「はい、その前にご飯どうぞ」


 柚月から温めた夕食をテーブルの上に並べている。


「うわぁ、美味しそう。柚月ちゃんは料理が上手なんですね」

「残りものですみません。でも、母がいなくなってからは、母の味に近づけるように努力したつもりです」

「えらいです! お姉さんがよしよししてあげますぅ」


 この人、いまいちキャラが掴めない所がある。


「どうぞ、食べてください」


 柚月は上手く流している。

千鶴さんと親父は夕食を取るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る