第4話前半 もふもふセラピー ~導入編~
最近ひまりは元気がない。
どうやら仕事で大きな企画を任されたらしく、それがプレッシャーになっているようだ。具体的な話はしてこないが一緒に暮らしているのですぐわかる。ご飯を作ってやっても上の空。朝はろくに食べずに出ていって、夜は遅くに帰ってくる。疲れてるのに上手く寝れないのか、うなされながらも俺をげっしげしと蹴る。地味に痛い。
ああ、分かりやすい。この単純で無駄に真面目なバカな生き物。
何とか元気づけようと試みたが上手くいかない。もふもふしてやっても反応が悪い。自分の欲求よりも仕事への責任感が勝るのは社会人としては良いと思うが、俺としては悲しい。ちゃんとオンオフつけろ。
何とか元気づけられそうなものはないかと思って、街を歩いていても、買い物をしていても、『もふもふ』としたものにばかり目がいってしまう。
ついに俺の頭の中まで『もふもふ』に侵食されてしまったのではないか。こわい。
毛玉のようなものが付いたペン――収納しにくそうで実用性に疑問が残るが、これならギリ普段使いできる?
道端に生えた草の先端――つい手を伸ばして手触りを確かめてしまった。誰にも見られていないといいが……。
レジをしてくれたご婦人のパーマ頭――触っ……ては駄目だっ!それは浮気だ。
大して可愛くないけどハイテンションで跳ね回る着ぐるみのしっぽ――これなら触っ……いやっ、駄目だ!中身はどうせおっさんだ。
とうもろこしのひげ――これは……無理があるな。念のため買って触って、焼きもろこしでも作るか。ひまりがとうもろこし好きだし。
いざ、探してみると『もふもふ』の自給自足はなかなか難しい。ひまりは何をしても呆けてるが、励ますために甘い言葉なんて言う柄じゃない。
ひまりはご機嫌なときは毎日『好き』って言ってくるが、俺は『好き』の安売りはしない。そういうのは言葉より行動で示すもんだ。
○◎○◎○●……
そう、この日は来るべくしてやって来た。予想できたから防ごうとしたのに、無理だった。
「さっくん……」
それは土曜日の朝。2人とも休みの日。横で寝ていたひまりは俺の頬に顔を寄せてきた。
あれ?珍しい。最近は自分のことばっかりで俺には見向きもしなかったのに。
今日は仕事じゃなくて俺の事を考えてくれ……
――る訳なかった。
「あつっ……ひまり何か熱ないか?」
触れてきた顔は熱くて、慌てて起きて彼女の熱を測る。
「38.5℃……」
この子の平熱は37度位。酷くはないが、明らかに熱がある。疲れが出たのだろう。
「おーい、ひまり。何か食べられそう?どこが辛い? 頭? 喉? 鼻? 」
「さっくん……心が辛いよぉ」
「へっ? 」
「最近頑張ってた仕事、やっと終わったけど何か上手く出来た気がしなくて……辛い~」
昨日の夜の彼女の帰りは一段と遅かった。ご飯も食べずにふらふらとシャワーを浴びてベットにダイブしたのはそのせいだったか。
俺、ひまりの好物作って待ってたんだけどな……。
「そなの? お疲れ様。頑張ってたのは知ってるし、不満に思うってことは、それだけ向上心があるってことだろ? 大丈夫だよ。
どっち道もう終わったことなんだし、今日明日はゆっくり休みな? 」
頭を撫でてやると、彼女の目からほろほろと涙が溢れ落ちる。
「う、うぅ……仕事も家事もできなくて、わたしこんなんじゃぁ、さっくんに嫌われちゃうよぉ」
何故そんな考えに至るのか分からないが、どうやら心身ともに不調らしい。確かに最近の家事は俺が全て引き受けていたが。
「別に嫌わねーよ。ほらっ、して欲しいこと全部してやるから言ってみな? 」
「だって、さっくん『好き』とか全然言ってくれないし……私だめだめだし……」
上目遣いでねだるように見られても、そんな恥ずかしいこと言えるかっ!
一緒に住んで付き合って、甲斐甲斐しく世話してるのは何のためだと思ってるんだ?
「はいはい……んで何して欲しいの? ちゃんと食べて薬飲んだ後なら、ひまりの言うこと聞いてやるよ」
あくまで『好き』と言わない俺にひまりは少し不満そうな顔をする。視線を漂わせて少し考えた後、彼女は気味の悪い顔で笑った。
この顔。ああ、嫌な予感しかしない。
「さっくん、『もふもふセラピー』して? 」
これ以上、俺の頭の中まで『もふもふ』にしないでくれ。
「……何それ? あー……まぁご飯の後でな。 お粥作るから待ってな」
久しぶりに俺の目を見て、目を輝かせる彼女の願いなんて断れる訳がないだろ?
俺だって寂しかったんだから。
―――もふもふセラピー実践編につづく。
もふもふ進め~~~!
もっふ、もっふ、もっふもふっ
もふんっ
「進まねぇよ!俺の黒歴史何て読むなぁぁぁっ!!!おいっ、書くなっ、消せっ! 」by朔也
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