第7話 勇者がいるってばよ
腕を組み、ドヤ顔での自己紹介をされたが、聞きたいのはそこじゃない。
「えっと……ス、スフィア……え……」
「スフィア・エル・ガルガランドじゃ!」
(長い名前だ!覚えきれない、しかそ、名前を名乗られたのなら返すのが礼儀!)
「そ、そうか、俺はクロウだ! よろしくな」
「クロウ? 苦労してそうな名前じゃのう」
「うるせぇよ……知ってるよ」
何故か推定魔族の幼児から不憫な目で同情されてしまった。
「ゴホンっ! それでスーさん」
「ス、スーさん!? 我はスフィア・エル・ガルガランドじゃ!」
「いや長いし、呼びにくいし」
「むう! まあよい! と、特別に愛称で呼ぶ栄誉を与えるのじゃ/// スーと呼ぶがよい!」
「何故照れる?」
「黙るのじゃ! 我も童の事をクーと呼ぶゆえ安心せい」
「クーか、なんか友達みたいだな」
「と、友達!! そうか……我にとって初めての友達が人族とは!」
「初めて? お前寂しいやつなんだな」
「お前ではない! スーと呼ぶのじゃ!」
「そこ!? まあ俺もいないけどな」
あの村にはそれなりに子供もいるが、交流は一切ない。嫌われ者は辛いぜ。
「何っ! クーも初めての友達!! ふふふっお揃いじゃのう///」
「何故照れる、まあ聞きたい事はたくさんあるんだけど、とりあえずスーはその…魔族なの?」
「うむ! 我は魔族である! だが畏れる必要は無用じゃ! 我は優しいからのう」
「いや、別に畏れてはないのだが?」
いくら魔族といえど幼児、ビッグボアを一瞬で倒す力量は危険視しなければならないがこんなにもフレンドリーにされては畏れるもクソもない。
「ふむ、クーは人族にしては変わった思考を持っているようじゃな」
「同じ歳くらいの幼児魔族に言われてもなあ」
クロウは幼児とはいえ転生者で、中身は三十二歳のおっさんである。敵対心のない幼児相手に遅れをとる事はないだろうと高を括る。
「ふんっ! 我は三つの時から英才教育を受けたエリート魔族ぞ? クーとはくぐり抜けて来た修羅場の数が違うのじゃ!」
「そこは純粋にすげぇな! いいな魔族」
たかが二年、されど二年。その密度の差は計り知れない。
「なんじゃ? クーは魔族になりたいのか?」
「え? 魔族になれんの?」
種族変更可能ならば、今足りない力を手に入れる事が出来る。人族である必要性は感じていないので願ったり叶ったりだ。
「しらん」
「しらんのかーい!」
期待させられた分ショックも大きいかったが、可能性はゼロではないだろうと心を落ち着かせた。
「んで? スーはここで何してたの? 魔族ってこんなに簡単に遭遇するもんなのか?」
この世界には、人族に魔族、獣人族にエルフ族、魚人族。ゴブリンやオークなど人型の魔獣は知識があり意思の疎通が取れ魔族に従軍しているため分類的には魔族とされているらしい。獣人族や魚人族は人族と積極的な交流があるので単一種族として認識されている。エルフ族はよくわからない。基本的には引きこもりな種族で人前に出てくる事は滅多にないらしい。
「ふむ、なにやら勇者が誕生したとの噂をきいてのう」
「なっ! 勇者!! まさか……この俺が!」
山奥で生まれた転生者が不遇な幼少期を過ごしていたある日、噂を聞きつけ偵察に来た魔族と出会う事で自分が勇者だと認識し隠されていた力が目覚めるという展開は無い話ではない。
「何を戯けた事を、確認だけして今はその帰りじゃ。その道中に村の一つでも消し飛ばしてやろうかと考えていた所にクーと出会ったのじゃよ」
「おい! 今さらっと恐ろしい事言ったよなあ!」
「よいよい、それ以上に面白いモノを見つけたでのう、村を消すのはやめじゃ」
知らない間に村を救った英雄になっていたクロウであった。
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