苦痛耐性を極めると心は傷つきませんか?
@test555
第1話 吐き気
《スキル『苦痛耐性』がレベルMaxになりました》
頭を殴られて意識を失った後、脳内にアナウンスが流れた。
…『苦痛耐性』がレベルMax…!?急に思考がクリアになった…。…
―バシャッ!!!
目を開けると、小太りの中年女から水をかけられた。
「フンッ!最近じゃ悲鳴も何もあげないからつまらないじゃないかッ!そうさねぇ。また爪が生えてきたから、剥いでやろうかねぇ。ヒヒッ。それとも、火魔法で炙ってやろうかねぇ。…おおっと!もうこんな時間かい。今日のところはこの辺で許してやるから感謝しな。そうそう、アタシが帰ってくるまでに今日のノルマを達成しておくんだよ。もし出来てなかったら、わかっているだろうね?ヒャッヒャ♪」
そう言うと中年女が部屋を出ていく。
…出て行ったか…。この時間帯の外出だと夜まで帰ってこないはず。『苦痛耐性』スキルのレベルがMaxなったことで、“隷属”の命令違反による苦痛に耐えられるようになったから、思考がクリアになったのか。考えることすら禁止するなんて、趣味が悪すぎる。…
―ジャラ…
首に付けられた”隷属の首輪”を触ると、首輪の冷たい感触が伝わってくる。
…うん?…
―チュウ…チュウ……
食糧庫の入口に仕掛けていたバネ式のネズミ捕りに一匹のネズミがかかっていた。
私は周りをキョロキョロ見渡し、近くに落ちていた拷問器具の鈍器を手に取ると、ネズミの頭を鈍器で潰して、口の中に放り込んで吐き気を抑えながら一気に飲み込んだ。
―ゴクンッ…
”隷属の首輪”で人間の食事も禁止されている私には、食べられるものが少ない。
汚ならしいネズミでも立派な食糧だ。
…久しぶりの動物性タンパク質。家畜の餌を盗み食いするだけでは到底足りない。死ぬほど不味いけど、栄養のあるものを食べて生き延びないと。…
《スキル『悪食』がレベルMaxになりました》
《スキル『胃酸強化』がレベルMaxになりました》
《スキル『病毒耐性』がレベルMaxになりました》
苦痛耐性に続いて、私の命綱のスキルレベルがカンストした。
…『ステータスオープン』…
心のなかで念じると目の前に透明のスクリーンが現れた。
シーラ=マクスウェル/女/7歳/人族
状態:頭部骨折、頭部裂傷、隷属
肉体位階-F
精神位階-S
スキル:苦痛耐性(Max)、物理耐性(Max)、魔法耐性(Max)、病毒耐性(Max)、悪食(Max)、胃酸強化(Max)、歯顎強化(Max)、丸呑(Max)、自己治癒(Max)、肉体強化(Max)、夜目(LV-5/10)、テイム(LV-4/10)、治癒魔法(LV-3/10)
加護:転生神
…最近、耐性スキルが次々とレベルMaxになる。親に捨てられて数年…。耐性スキルがなければ、とっくに死んでた。…
ステータスの確認を終えて、厩舎で馬の餌を貪っていると、街道の奥から1台の馬車がやって来るのが見えた。
…誰?…
馬車は、厩舎の前で停まり、鎧を着た二人組が降りてきてこちらに向かって歩いてくる。
…騎士?どうしてここに?…
騎士達は、私を確実に視界に納めていた。
…今まで、騎士の“客”は来なかったはず。…
二人の騎士が私の目の前で立ち止まると、怪訝な表情でじっと見つめてきた。
スッ―
私は床に顔を擦り付け無言で平伏しながら、思考を巡らせる。
…やはり、“客”か…。ステータスが高そう。この人達の暴力は、きっと”痛い”だろうな。今日は、この人達に一日中殴られるのだろうか?もしそうなら、身体強化や耐性スキルを駆使してもただでは済まない。…
目を瞑り平伏を続けていると、若い女の優しい声が聞こえてきた。
「貴女のお名前をお教えいただけますか?」
顔をゆっくり上げると、優しい眼差しを向けている美しい女騎士が膝をついていた。
…この世界では、騎士爵位は貴族扱い。ここで沈黙してしまっては、不敬罪で処罰される可能性がある。…
私は覚悟を決めて半年ぶりに声を出した。
「…ご主人様…より、…許可なく…自分の…名を名乗るな…と言われて…おります。…どうぞ、…私のことは…“ゴミ”…と…お呼び…ください。」
そう言って再び顔を伏せると、周囲に殺気が込められた冷気が漂った。
…怒らせてしまった。やはり、声を出すべきではなかった。これ以上怒らせないためにも、何を言われてもこのまま大人しく平伏しよう。例え、剣で斬りつけられても。…
―ヒョイ
「…えッ!」
身体の震えを耐性スキルで抑えながら平伏を続けると、ヒョイと女騎士に抱き抱えられた。
「怖がらせてしまい、申し訳ありません。お名前を言うことが難しいのであれば、貴女に”鑑定のスクロール”を使用させていただいてもよろしいでしょうか?」
…“鑑定のスクロール”は高級品のはず、私なんかの名前を知るために何故?…考えても仕方がない。この状況で断られる訳がないのだから。…
私が頷くのを確認した女騎士は、後ろで控えている男騎士から”鑑定のスクロール”を受けとると、静かにひろげた。
「”鑑定”」
男騎士が唱えると、“鑑定のスクロール”から魔法陣が展開され、私のステータスが目の前に表示された。
―ピキッ…
私のステータスを見た女騎士から先程よりも濃厚な殺気が放たれ、周囲が次第に凍りついていく。
…耐性スキルで抵抗すればなんとか耐えられるけど、凄い魔力…。…今日は殴られるのではなく、氷付けにされる日か。…
そう考えていると、後ろで控えている男騎士が慌てて止めに入る。
「クリス様ッ!殺気と魔力波を抑えてくださいッ!その子が死んでしまいますッ!」
ハッとした様子の女騎士から殺気が止んだ。
「す、すまない…。このお方のステータスを見た瞬間、怒りが抑えきれなくなってしまった…。…お嬢様…。申し訳ありませんでした。」
女騎士が謝罪をしながらマントで私をくるんだ。
男騎士は、悲痛な表情でこちらを見つめながらため息をついた。
「ふぅ。その反応から察すると、その方がシーラお嬢様なのですか?」
女騎士は俯いたまま、私をそっと抱き締めながら力なく答える。
「そうだ…。お前も見てみろ。」
男騎士は“鑑定のスクロール”を受け取り、私のステータスを見ると、驚愕のあまり表情が固まる。
「こ、骨折…裂傷…隷属…?…な、なんだ?こ、この耐性スキルは?あ、暗部の育成でも、ここまで耐性スキルは育たない…。ど、どんな生活を送っていたというのですか?マクスウェル家の大切な御令嬢。百歩譲って平民と認識していたとしても、牧場主には保護料として十分な金銭を渡していたはずなのに、何故…?」
「敵対勢力に悟られないためとはいえ、金銭だけ渡して様子を一度も見に来なかったのだ。放逐された貴族とでも、考えたのだろう。愚かな…。」
…前世も含めて何年ぶりに抱き締められただろう?人のぬくもりなんて、吐き気がする…。早く離してほしい…。…
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