第51話


「さあ、魔道具があるんだ。はあ、はあ、この制約の巻物で契約しようじゃないか」

「意味が分からない!」


 エムルはこんなキャラじゃなかった。

 笑顔だけど、どこか陰を感じる様な、笑ってはいてもすこしみんなから引いたように、何かを抱えているように感じさせる女性キャラだった。


 ゼスじいが近寄って来る。


「すまんが魔道具を確認させてもらえんかの?罠の可能性もあるんじゃ」


 そうだ、罠、罠の可能性がある。


「構わないよ」


 ゼスじいが巻物を確認し、人を呼ぶ。




「間違いありません。骨のエムルが負ければ確実に奴隷になります」

「間違いないんじゃな?奴隷になるのはエムルの方でゲットではないんじゃな?」


「間違いありません。ただし、お互いの同意が無ければ発動しないのです」

「ふむ、同意した振りをして暗殺を行う事も出来るのお」


「まず話を進めようじゃないか」

「待つんじゃ!ゲットが負けた場合何も制約が無いようじゃが、どういう意図の契約なんじゃ?」

「僕は真の強者にしてSに隷属したいんだ」


「……すまんが審議を行いたいんじゃ。ゲットはこの国の英雄じゃ。王に伺いを立てるでの」

「早くしてほしいな。あまり進みが悪いならスケルトンをけしかけて嫌がらせをするよ?」


 エムルの眼が怪しく光った。


 防壁の上でゼスじいと王が話し込んでいる。


「ゲット、今の内に僕と話をしようじゃないか」

「いいけど、お前、他の世界から来たとか特殊な人間じゃないよな?」


「意味が分からないよ。僕の趣味をみんなが馬鹿にするんだ。僕は普通なのにみんなが僕の好みにNOを突き付けてくるんだ。この世界にはSとM、2つの属性が存在するのにそれを否定するのは良くないよ。みんな真実から目を逸らしながら生きているんだ」


 エムルは陰のある笑顔を浮かべた。

 エムルがやばい奴に見えてきた。

 だが、一応確認しておこう。

 服のサイズの事かもしれない


「服のサイズのSサイズ、Mサイズ」

「違うんだ!ベッドで押し倒されたいM!そして押し倒したいS!この2つだよ!」


 急に大きい声を出した。

 こいつヤバイ奴だ!


 ゼスじいが戻ってきた。


「王との話が終わったんじゃが、人を見る目があるエステルに意見を聞いて、英雄ゲットの判断で動いて欲しいそうじゃ」


「エステル、どう見える?」

「エムルは嘘を言っていませんわ。その、特殊な性癖を、その、お持ちの方ですわね」


 エステルが真っ赤になった。

 エステルは人を見抜く魔眼の固有スキルを持っている。

 さすがに嘘ではないだろう。


「分かった。決闘を受けるけど、こっちは4人だ。4対1になるけどいいのか?」

「4対1!はあ、はあ、1対1でも君が有利なのに、容赦がないね!いいよ!いい!そうだよ!それでこそ、今までの苦労が報われるよ」


「行くぞ」

「待つんだ!契約がまだだよ!この決闘に負けたら僕はゲットの奴隷になる!さあ!同意するんだ!」

「いらない!勝負だ!」


「断るならスケルトンに街を襲わせるよ!?」

「く!承認する!」

「さあ!決闘の始まりだよ!」


「エクスファイア!」


 俺はエムルと100のスケルトンを焼いた。

 スケルトンは炎に弱い。


 一般兵を超える力を持ったスケルトンでも、上級魔法のエクスファイアには弱い。

 スケルトンがすべて燃え、エムルも炎に包まれた。


「ふ、ふふふふ、はあ、はあ、容赦がないね。流石だよ。でも僕の魔法防御才能はSSだよ。僕はもう1回スケルトンを出せるんだ!」


 また100のスケルトンが出現した。

 ゲームと同じか。

 だが、関係ない!


「エクスファイア!」


 エムルとスケルトンを焼く。

 エムルの出したスケルトンは経験値が入らない為、レベルアップはしない。

 

 エムルだけが残り、エクスファイアを2発受けてしのぎ切った。

 でも、こいつ、スケルトンがいなくなると弱いんだよな。


 俺はエムルに盾タックルをお見舞いし、メイスで横にフルスイングした。

 エムルが吹き飛び、立ち上がる。


「はあ、はあ、僕の、負けだよ」


 エムルが持っていた巻物が光ってエムルに光が移っていく。


『エムルが奴隷になりました』


 ゲームと違う。

 ゲームではこんなイベントは無かった!




 ゲット 人族 男

 レベル:  68

 HP:  680   SS

 MP:   680   SS

 物理攻撃:544    A

 物理防御:680   SS

 魔法攻撃:680   SS

 魔法防御:340    D

 すばやさ:544    A

 固有スキル:炎強化

 スキル:『メイスLV68』『盾LV64』『ファイアLV75』『ハイファイアLV67』『エクスファイアLV64』『ヒールLV28』『リカバリーLV11』『トラップLV22』『宝感知LV29』『ストレージLV34』『ファイアエンチャントLV58』『ファイアシールドLV41』

 武器 炎のメイス:250 炎魔法+30%

 防具 守りの円盾:150 HP微回復 赤のローブ:90 ハイブリッドブーツ:60

 エステル:好感度76

 クレア :好感度59

 アリシア:好感度58

 エムル :奴隷



 エムルが、本当に奴隷になっている!


 防壁の上から歓声が上がった。


「英雄ゲットが2人目の6将を打ち倒したあああ!!」

「しかも6将を屈服させた!」

「英雄の知略は6将すら使いこなすと言うのかああ!!」


 俺はアリシア・エステル・クレアを見た。

 3人は苦笑いを浮かべる。


「ゲット、ご苦労じゃったの」

「ああ、思ったより楽だったけど、納得いかない部分もあった」

「今日はゆっくり休むんじゃ」


 俺はエムルから目を背け、防壁の中に入ろうとした。


「待つんじゃ」


 ゼスじいが俺の肩を掴む。


「エムルの面倒はゲットが見るんじゃ。逃げるのはいかんのう」


 俺はエムルをベッドに運び、メイドに体を拭いてもらうようお願いした。

 俺は剛腕のブルベアに備えて、炎魔法の基礎訓練を続けた。



 だが、訓練は中断される。


 メイドの女性が急いでこちらに向かって来た。


「ゲット様、骨のエムルが目覚めました」

「そうか、それは良かった」


「すぐにお越しください!王命です!」


 俺がエムルの元に向かうとベッドで座るエムルがいた。


 そして、王・ゼスじい・アリシア・エステル・クレアが揃っており全員が俺を見た。

 嫌な予感がする。






 あとがき

 コメディ回です。

 いらないと言う方もいるかもしれませんが、あった方がいいと言う方もいると思うので、定期的に挟んでいきます。

 それと近況ノート更新しました。



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