第14話

【ダスト視点】


 俺は17才になった。

 勇者に選ばれてしばらくすると村に教育用の人員が配置された。


 目的は俺を訓練して最高の勇者にする為だ。

 俺は特別な対応を受け、訓練を続けているだけで多くのスキルを手に入れた。


 さすが俺!

 勇者である俺はどんなスキルでも覚えられるし、人を魔物から助ける事で才能値は上がっていく。


 今日は少し休憩だ、ん?ゲットのやつが村に帰ってきたのか?

 ふ、ボロボロじゃねーか、円盾はぼこぼこにへこみ、ローブは擦り切れている。

 モブのあいつには外の世界は厳しすぎるんだろう。


 俺はすでに始まりのダンジョン深層付近にまで迫っている。

 そこでざまあチケットを手に入れてやる。


 ゲット、お前は一生かかっても始まりのダンジョンすら攻略できねーだろうが、俺にかかればソロでも攻略できる。

 お前はモブで、俺は最高の勇者だ。


 お前とは後1年ちょっとの付き合いになるか、18才でゲットは死ぬ。

 それまでせいぜい勘違いしたまま生きていけや。

 最近訓練ばかりで飽きてきた所だ。

 もうすぐ死ぬモブだが、話しかけてやるか。


「いよお!ゲット」

「ダストか、今疲れているんだ」

「待ーてーよおおお!お前ボロボロじゃねーか、ゴブリンやオーク共に苦戦でもしたか?」


「そうだな、じゃあな」

「まあてえよおおおおおお!へへ、折角久しぶりに会ったんじゃねーか。お前が危険だと言っていた始まりのダンジョンがあるよな?覚えているか?」


「……覚えている」

「お前には無理だろうが、俺はそこの深層地帯に迫っている。おっと、勘違いするなよ、勇者である俺だから出来るんだ。お前がこれから行っても無駄だよ」


「そうだな。始まりのダンジョンに行くことはもう無いだろう」

「分かってんじゃねーか。お前雑魚狩りごときで危ない目にあって逃げ帰ってきたのか?どうなんだ?」


「魔物は危ないよな」

「ぎゃははは!これからどうすんだ?」

「今からゼスじいの所でスキルの訓練をする」


「ぷ!くくくく!はははははははははは!身の程をわかってきたようだなあ!お前のようなモブは必死になってスキルの訓練をしねーと外に出るのもあぶねーよなあ!」


 ゲットは何も言わずに去って行った。

 あーすっきりした。


 あいつゴブリンやオークと闘っただけであんなにボロボロになってやがる。

 いや、あいつのことだからスライムにボコられた可能性もあるか。

 俺と違って無能はどんなに努力したって無駄だ。

 ようやくそれが身に染みたみてーだな。


「またサボっていますね!早く訓練に戻ってください!」

「クレアか」


 こいつはゲームパーティーキャラのダークエルフだ。

 銀髪のロングヘアと赤い目、そして褐色の美人だ。

 白いビキニアーマーとマントが褐色の肌と合っていて良い眺めだ。


 女としては背が高めだが俺よりは低く、俺の隣に置けば栄えるだろう。

 動きに無駄が無くてスマートだが、そんな事より姿勢がいい。

 突き出した胸と尻を早く堪能したい。

 もちろん俺が頂くが、18才まで待ちきれねーぜ!


 しかもクレアの後ろにいる2人の女もレベルが高い。

 クレアと同じ19才で、攻撃魔法と回復魔法を教える俺の指導役だが、もう俺は魔法を覚えている。

 訓練は必要ねーんだがな……少し言い返してやるか。


「お前らが俺の性奴隷になるならもっと頑張ってやるよ」

「ふざけないでください!あなたは剣も魔法も基礎が出来ていません!すぐに訓練を始めてください!」


「クレア、もうほっとこうよ。王様にも無理しなくていいって言われてるでしょ」

「そうだよ、勇者が訓練は要らないって言ってる。勇者の意思を尊重して訓練は終わり」


「もう俺は訓練しなくても最強なんだよ」

「まだ基礎訓練が足りません!」


「は!今からダンジョンを攻略して来てやるよ!」

「待ちなさい!」


 追って来ようとするクレアを2人が止める。

 クレアよりモブの方が俺の力を分かっているようだな。

 俺は始まりのダンジョンに向かった。



 ダンジョンに入ると『隠密』スキルで素早く隠れる。

 ふ、この華麗な動き、俺は独学で隠密スキルさえ手に入れることが出来る。

 このスキルで魔物に気づかれにくくなる最高のスキルだ。


 魔物の注意を逸らす為遠くに石を投げる。


 そして向こうに魔物が反応した隙に一気に奥に進む。

 今日は始まりのダンジョンを攻略してやる!


 ゴブリンキングを倒し、ざまあチケットを手に入れる!

 俺はゴブリンキングのいるボス部屋に入った。

 ……いない?


 まさか!無い!無い!無い無い無い無い!

 ざまあチケットが無い!


 ゴブリンキングもいない!

 どうなってるんだ!


「くそおおおおおおおおおおお!誰が取ったああああああああああ!」


 俺の叫びで魔物が集まって来る。


「ひい!魔物が来る!お、隠密!」


 俺は部屋の隅でじっと耐え、魔物がいなくなるまでうずくまった。

 か、勝てねえわけじゃねえ、だ、だが、馬鹿正直に戦うだけが道じゃねえ。



 ◇



 俺はしばらくしてダンジョンを出た。

 息苦しかったぜ。

 ま、勝てるけど、魔物は見逃してやったぜ。

 なんせ俺はつええからな。




 俺はステータスを開いた。


 レベル:  20

 HP:   140    B

 MP:    140    B

 物理攻撃: 140    B

 物理防御: 140    B

 魔法攻撃: 140    B

 魔法防御: 140    B

 すばやさ: 140    B

 固有スキル:勇者

 スキル:『剣LV9』『隠密LV15』『ヒールLV2』『リカバリーLV1』『ファイアLV3』

 武器 鉄の剣:150

 防具 鉄の鎧:70 バトルブーツ:40



 しかしおかしい、魔物から散々皆を守ってやってるのに、勇者のブレイブポイントが貯まらない。

 あれだけ魔物を倒したんだ。

 全部の才能値がSSになっていてもおかしくないはずだ。


 俺への感謝が足りないんじゃないか?

 そうに違いない。

 せっかく助けてやってるのに報われねーよなあ。

 俺ほどまともな人間はいねえのによお。




 勇者ダストは、サボって人を助けず生活していたが、自分だけは親切な人間だと思い込んでいた。

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