第6話

「ゲット、ここに来て9年じゃ、たまには遊びに行かんのか?」

「もうちょっと基礎を練習したい」

「もう充分じゃ、今日は遊びに行くんじゃ!たまに来る父や母、それとアリシアと話をしとるだけじゃろが!」


「ゼスじいとも話をしている」

「いいから行って来るんじゃ!」


 俺は外に追い出された。

 ゼスじいは人とあまり話さない俺を心配してくれたようだ。


 すぐにアリシアが現れた。さすが気配察知が高い斥候キャラ。


「見つけたにゃあ」


 アリシアが俺の手を握った。

 アリシアは綺麗になった。

 少しだけ幼さが残っているが、この世界の者は15才になると体が大人に成長する。

 日本人より成長が早いのだ。

 イメージとしては欧米人に近い。


「そいつ誰だ?」


 更に横から声がかかる。


「ダストか」

「ああ!お前誰だよ!」


「ゲットだ」

「は?」


「昔太ってたゲットだ」

「はあ?」


「だからゲットだ」

「そういう事じゃねえ!変わりすぎだろ!」


「頑張って痩せたんだ」

「お前本当にゲットか?動きも話し方も変わったな」


「待ってくれ、ダストが色々言ったんじゃないか!だから直したんだ」

「知らねーよ!」

「ダストは色々言っていたにゃあ!」


「ふん!お前がどんなに努力しても変わらねーよ!」


「ダストはほっといて遊びに行くにゃあ」

「そうだな」


 アリシアが俺の手を引く。


「アリシアは俺の女だ!」

「違うにゃあ!」

「アリシアが嫌がっている。やめてくれ」

「ゲット!潰すぞ!」


 ダストは剣を抜こうとして、剣が無い事に気づき、ポケットからざまあチケットを取り出した。

 俺にざまあチケットを使うのか!


「ダストが何かしようとしているにゃあ!危ないにゃあ」

「ふー!ふー!……ち、何もしねえよ!」


 そう言ってざまあチケットをしまい、歩いて行った。

 ダストは危ない。


 ざまあチケットはゲームのキーアイテムだ。

 ピンチに陥った際に強敵に使う切り札で、4枚しか無いざまあチケットのおかげで主人公は救われる。

 ゲームでは自分の意思で使用できないキーアイテムなのだ。


 俺にキーアイテムを使おうとした。

 そんな事をしたら自分の身に危険が及ぶ。

 あいつは短絡的で後先を考えられない所がある。


 ダスト、あいつは危険だ。


「ダストは気にせず遊びに行くにゃあ」


 本来ならアリシアはダストの事を好きになる。

 でも、あの性格じゃうまくいかないだろう。


「アリシア、俺の家に行こう」

「久しぶりにゲットの家に行くにゃあ」


 俺とアリシアが家に入ると父さんと母さんが驚いた。


「まあまあ!ゲットにアリシアちゃん!すぐにお昼の準備をするわ!今日はベーコンのシチューにするわね」

「母さん、ありがとう」

「ベーコンのシチュー!楽しみにゃあ!」


 俺とアリシアは座って話をする。


「アリシアは最近何をしているんだ?」

「魔物を狩って生活しているにゃあ」

「おお!レベルは今どのくらいなんだ?」


「12にゃあ」

「俺より高い」

「ゲットならその気になればすぐ上がると思うにゃあ。私ももっと上がる気がするにゃあ」


 俺は、前よりアリシアに実力を認められるようになった気がする。


 俺は訓練を積まないとまともにメイスを振れなかったけど、身のこなしを見るとアリシアは訓練を受けた者のようにしなやかな動きをしている。

 アリシアは天才だと思う。

 モブの俺はやはり努力しないと駄目なのか。


「……多分、ゲットは間違ったことを考えてるにゃあ」

「ん?そうか?」


「きっとそうにゃあ」


 アリシアに続くように父さんと母さんも言った。


「ゲット、ゼスじいの訓練に9年耐えられるのは凄いと思う。俺は通いで3年しか訓練を受けていないんだ」

「そうよ~。ゼスおじいちゃんはゲットを褒めていたわ。もう充分に基礎は学んだって言っていたわよ」


 そう言っている内にシチューが出来上がり、皆でシチューを食べる。


 アリシアには肉が多めに盛られ、笑顔でシチューを食べる。

 しかもおかわりしていた。


 俺は質素な食事を摂っていたので、久しぶりに食べる母さんのシチューを無言で黙々と食べてしまった。

 と言っても父さんや母さんと一緒にいた時間よりゼスじいと一緒にいた時間が長い。


 ゼスじいと一緒にいる時間はあっという間だった。

 俺は訓練が好きなのかもしれない。

 訓練をしてLVが上がっていくのが好きだ。

 訓練をしているといつの間にか時間が経っている。

 のめり込めるって良いよな。


 日本にいた時は、もっと適当に生きていた気がする。

 日本はもっと殺伐としていて、優しくすれば漬け込んでくる人が多かったし、何度も仕事のミスを自分のせいにされて、上司に責任を押し付けられた。

 上司は人を踏み台にして上に上がっていくような人間だったから、まじめにやるのが馬鹿らしくなるし、きちんと人と向き合えば消耗してしまう。


 日本に居る時は乾いたような枯渇感があった。


 でも今は父さんも母さんもゼスじいもアリシアも俺の為を思って言ってくれるし、村のみんなも何か困っている人がいれば集まって来て助けてくれる。

 俺はこの村が好きだ。

 俺が18才になって、ダストと街に向かい、パーティーを抜けて村に帰ると、俺も、他の村人も殺される。


 嫌だな。


「何か悩み事かにゃ?」

「悩み事じゃないよ。考え事だ」


「深刻そうに見えたにゃあ。もし何かあれば言って欲しいにゃあ」

「うん、言うとしたら、訓練を終わらせてほしいスキルを取ってからだ」


「待っているにゃあ」


 そう言ってアリシアが笑った。


 アリシアも俺と同じ14才だけど、もう、大人の女性に見えた。

 とても魅力的で、俺は興奮して体が熱くなってしまった。

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