第7話 違和感家族
俺は食卓についた。
夕飯が美味そうに湯気を立てている。
献立はカレイの煮つけとマッシュポテト、それに麻婆茄子だった。
「さ、お父さんは今夜遅くなるそうだから、先に食べてしまいましょ」
「最近父さん遅い日が続くね」
「そうね、お父さんはお父さんで、お仕事大変らしいから。でも、それはあなたたちが考えることじゃないわ。なんとかするでしょ」
と、軽く答えたかに見えた母さんも食卓の席につく。
ただ、先に食卓を囲んでいた一人、翠の様子がおかしい。
顔をうつむきがちな顔色は冴えず「どうかした?」との母さんの言葉に「んん、なんでもない」と元気なく答えていた。
「翠? どうかしたのか?」
俺が声を掛けると、びっくりしたようで、
「お兄ちゃんには関係ない」
と、硬い声と顔で返される。
「言ってみろ、聞くだけ聞くからさ?」
とはいうものの。
「なんでもないから良いの!」
甲高い声が食卓を覆う。
翠のかたくなな姿勢。
俺はあっさりと拒否されてしまった。
なにかあったのだろうかと思うと気が気でないが、これ以上聞き出すのも無理そうである。
俺が普段から話しかけていれば。
もう少し兄妹関係が良ければ。
翠が俺に相談する、という選択肢もあったかもしれないというのに。
とはいえ、過ぎたことは仕方がない。
これからはこまめに、様子を見ては言葉をかけるようにしてみよう。
うん、それが良いし、今はそれで良い。
「あらあら、大きな声を上げてどうしたの、翠」
と母さんが口を挟むも、翠は黙り込む。
だが妹は。
「もうご飯いらない」
と、告げては箸を置き、夕飯のご飯もおかずも半分ほど残して早々に翠は部屋に戻ってしまったのである。
「翠、翠?」
母さんの呼びかけも無駄なようだ。
バタンと扉の閉まる音。いつもより激しい音である。
翠は自室に引きこもってしまったようだ。
ああ、どうしたことか。
日々に爆弾を抱えているのは俺だけではないのか。
もしかして、翠も?
俺は浮かんだその考えを、頭を左右に振ることで思考の外に追い出そうとする。
(翠……)
俺に日々迫る危機よりも、翠が今背負い込んでいる厄介ごとの方が面倒そうだ。
「待ちなさい」といった母さんも。よく見ると顔に疲れが見える。
俺は自分の事ばかり考えていたが、今日の翠の様子を見るに、妹は妹で、そして表に見せないけれども母さんは母さんで、それぞれ悩みを抱えているのではないだろうか。
俺は、笑顔でいる時間を大切にしたい。
せめて家族とだけでも。
いや、それが無理なら俺は家の中だけでも笑って過ごしたい。
と、そう思うのだ。
この日、俺はゆったりと湯につかった後、早めに寝床についた。
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