第11話 王との謁見

 私がクロノスの町に戻ると家族は安心したのか泣いて喜んでくれた。


 私を殺害しようとしたクルトガ一味は捉えられて、首謀者も捉えられた。首謀者はアスペルド信仰教団のニコライという人物と聞いた。何でも私が異教の力でペスト患者を治療していることを逆恨みしての犯行と聞かされた。


 殺されようとしたのにあまり興味のない私はここ数日ペスト菌に感染した患者の様子を見るために患者の家に往診のようなことをしていた。


 ペスト菌を抗体で殺したもののその後の患者の体に副作用が出ていないか心配だったために自主的に行うことにしていた。ただ以前と違うのは、なぜかクリスとレンが私の近くから離れないことだった。先日の誘拐騒動以来この二人は私が家から出ようとするとすぐに私の後をつけてきて行動をともにするようになった。患者の家の中までずっとくっついて離れようとしないのでいい加減嫌になってそれとなく二人に言った。


「家の中まで一緒にくることはないから、外で待っててくれない?」


「だめだ。家の中だろうと何が起こるかわからない」


「油断は禁物だ!」


 二人の剣幕に押されて私はそれ以上言うのを諦めた。以来私たちはずっと三人でいる。


 往診を一通り終えて家に帰ると家の前に立派な馬車が止まっているのが見えた。家に到着するのと同時に何者かが家から出てきて馬車に乗り込むと走り出した。。クリスとレンは不審な馬車から私を守るようにガードしてくれたが、馬車は私たちの脇を通り過ぎるとそのままどこかに行ってしまった。


 私たちは不審に思ったが構わず家の中に入ると母親のニーナが私たちを見るなりすっとんきょうな声を出した。


「ティアラ! 先程国王様の使者の方が来て、国王様がアークガルド城にティアラとレンを招待するそうよ」


「え?……国王様?、いつ?」


「明日よ」


「どうする?……」


 私はレンに聞いてみた。


「国王様の命令は絶対だ。行くしかないだろう」


 まあ、そうだよね……、私とレンはアークガルド城行くことにした。


 ◇


 次の日、私たちは国王様に会うために家の前で待っていた。二人とも国王様に会うのは初めてのことだったので、失礼があってはいけないと思い私もレンも家にある一番高価な服を着込んでいた。


 私達はしばらく無言で立っていた。以前は無言な時間が過ぎていてもなんとも思わなかったが、今は少し居心地が悪いような気がした。多くの人の命を救うことができて、今では聖女様と呼んでくる人もいる。そんな人がコミュ障でいいのか?とそんなことを考えているとレンがいきなり謝ってきた。


「この前は悪かったな」


「この前?……クリスのこと?」


「ああそうだよ。確認もしないでいきなり殴りかかってお前たちに悪いことをした」


「わ……私はもうなんとも思ってないわ、それよりも……助けに来てくれてありがとう」


「え? ああ……別になんでもない」


「なんでもなくないでしょ、死にかけたくせに」


「俺がそうしたかっただけだ、別になんてことはない」


「なんで? 妹さんを私が助けたから?」


「それもある、が……」


「?……」


「お……おまえのこと……す…」


「ん? す?」


「んーーーーんもう! お前を守ると誓ったんだ! 俺は生き方を変えたんだ」


「生き方を変えた?」


「そうだ、俺はもう悪いことはしない。いつか誰もが憧れるような騎士になると誓ったんだ」


 レンが言った生き方を変えたという言葉が私に刺さった。


(そうよ、私もこの異世界に来て生き方を変えてみよう。コミュ障を治して色んな人から尊敬される人物になってやろう)レンの言葉を聞いてそう思った。


「レン、ありがとう」


「ん? な……何だよ急に変なやつだな?」


 レンを見ると顔を真っ赤にして照れていた。耳まで真っ赤になっていたので可笑しかった。 


 やがて指定された時間になるとみたこともない高価な馬車が家の前に止まった。私たちはその高価な馬車に乗り込んだ。馬車の周りはこれまた立派な装飾を飾った騎馬隊に守られていた。私は自分がお姫様になったような気分がして嬉しかった。


 馬車はそのままアークガルド城に入り城の中心部と思われるところで二人は降ろされた。案内されるまま部屋を移動すると重厚な扉の前に使用人と思われる人が何人も壁に一列に並んでいて、その中の一人が私たちに向かって言った。


「この扉の向こうに国王様がいます。くれぐれも粗相のないようにお願いします」


 私たちはその人から簡単な礼儀作法を教わるとすぐに扉が開いて中に通された。大理石の床の上の真ん中に豪華な絨毯がひかれ両脇に甲冑を着た屈強そうな兵士が並んでいた。その光景に圧倒されつつも前に進んだ。少し高い階段の上に国王様と思しき少し歳をとった中年の男性がこれまた豪華な椅子に座っていた。その近くに王宮騎兵団のゴルドンが立っていた。ゴルドンは私と目が会うとウインクしてきた。


 私とレンは王の前へ行くと平伏した後に目の前の国王が話し始めた。


「そなたが今回クロノスの町を救った者か?」


「は……はい」


「そうか、よくやってくれた。王族を代表してお礼を言うぞ」


「そんな……当たり前のことをしただけです」


「はは。そうか。今回の功績を讃えてその方には伯爵の称号を授けたい」


「え?……」


「不服か?」


「い……いえ! めっそうも有りません。あ……ありがとうございます」


 伯爵の称号がいまいちよくわからなかったが、貰えるものはもらっておいて損はないだろうと思った。


 国王は次にレンをみて話し始めた。


「それとレンとやら、お前はティアラを助けるためにゴブリンソルジャーと戦ったそうだな」


「はい……。しかしながら……、ゴブリンソルジャーを倒したのはそこにいるゴルドンさんです。私は手も足も出ませんでした」


「そんなことはない。ゴブリンソルジャーを前に勇敢に立ち向かえる者はそれほど多くない。レンお前には騎士の称号を授けたい」


「あ……ありがとうございます」


「レン。これからもティアラを守ってくれよ」


「はい! もちろんです!」


 私がレンを見ると嬉しそうに微笑んでいた。レンもすぐに私の視線を感じたようでこちらをみて微笑んだ。貴賓室内が和やかな雰囲気に包まれる中、急に何者かが部屋に入ってきて声を上げた。


「父上。私からも提案があります」


 声のした方を見てびっくりした。声の主はアルフレッドだった。


「ティアラは魔法を習得したいと望んでいます。そこでアークガルド公国学園に入学させて魔法を覚えさせてみてはどうでしょう?」


「おお。そうだな。いい案だ。ティアラはもしかすると聖女になって今後も活躍できるかもしれない。よかろう入学を特別に許可しよう」


「え? 学園?」


「なんだ? 不服か?」


「い……いえ。めっそうも有りません」


「そうか。それはよかった」


 私はアークガルド公国学園に入学して魔法を習うことができるようになった。そんなことよりも私が引っかかるのはアルフレッドが国王に向かって父上と言ったことだった。 アルフレッドが父上と言って国王がそれに答えたと言うことはアルフレッドって王子様ってこと? 私が一人で混乱しているとアルフレッドが私達の前に来た。


「何だよ変な顔して?」


「アルフレッド……お……王子様だったの?」


 私は驚いた表情でアルフレッドを見た。


「別に隠してたわけじゃないんだが、自己紹介が遅れて済まない」


 そう言うといきなり手を前に出して握手を求めながら自己紹介をしてきた。


「アルフレッド=クリムゾン=アークガルドだ。これからもよろしく頼むぞティアラ」


 あっけにとられた私はアルフレッドと握手をして、よろしくおねがいします、と言った。


 私達が挨拶をしていると王宮騎兵団のゴルドンが国王に提案した。


「国王。私からも提案があります」


「ん? どうしたゴルドン珍しいな? 話してみよ」


「はい。そこにいるレンも学園の騎士科に入学させてみてはどうでしょうか?」


「おお。そうだな。レン。お前もアークガルド公国学園の騎士科に入学を許可しよう」


「はい。ありがとうございます」


 レンは国王の言葉に二つ返事で答えた。この日、私とレンはアークガルド公国学園に入学することが決定した。

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